急速に進む原油安、相次ぐテロ、失速気味の中国経済など、新年早々、世界経済を取り巻く環境に暗雲が漂ってのスタートとなっている。FA・制御・電子部品の流通商社は、こうした動向に対して不安を感じながらも、総じて明るい年明けを迎えている。市場の成熟化という課題を抱えながらも、製造業の国内回帰、省力・省エネニーズの高まり、インフラ投資の拡大など先行きに期待を抱かせる材料も多い。この中で、次の一手が今後の流通を左右する状況も生まれてきそうだ。
FA・制御・電子部品の流通商社の業績は、各社まだら模様で推移している。前年に比べ10%以上売り上げを伸ばしているところがある一方、前年を下回る状況で推移しているところも多い。日本電気制御機器工業会(NECA)や日本電機工業会(JEMA)の上期出荷額が前年同期をやや下回る状況となっているが、下期以降に回復基調が見られることや、インフラ関連でこうした工業会に関連していない領域の伸長、そして最も大きいのはソリューション提案に伴うシステム販売のウエートが高くなってきていることが挙げられる。最近はいわゆるOUT-OUTといわれる海外生産・販売額が増加しており、海外展開を行っている商社の売り上げにはカウントされるものの、工業会の統計に反映されてこない。当然のことながら、経済産業省の機械統計にもカウントされない。したがって、こうした工業会の統計に表れてこない部分もしっかりと捉えていくことで流通の実態把握の正確性が高まる。
そして、もうひとつは各商社の顧客となる取引先の業種による格差も目立つ。ここ数年、市場を引っ張ってきたソーラ(PV)システム関連の需要は、電力買い取り価格の低下や、電力会社の買い取り制限などから、メガソーラ発電を中心に急速に減少している。接続箱、接続箱内蔵機器、ソーラパネル、パワーコンディショナーなどに影響を与えている。ただ、家庭用PVは買い取り制限がないことや、住宅メーカーが新築住宅とのセット販売を進めていることもあり、堅調な伸びを見せている。
為替の円安定着で製造業の国内回帰が一部で見られ始めており、国内で工場を新設する動きも出始めている。20年前頃に導入した工作機械などの製造設備も老朽化が進んでいる。2014~15年度の設備投資減税効果により、買い替え投資が見られ、工作機械の販売は高水準を維持している。
円安効果だけではない、製造業の国内回帰の要因も生まれている。海外新興国の人件費上昇で、地産地消を主目的とした生産以外は海外生産のメリットが薄れてきたことだ。円安基調を加味すると国内で自動化生産して輸出しても採算が十分取れる要素が生まれてきている。国内も人手不足であることから、ロボットなどの自動機の導入で省人・省力化を図った大がかりではないコンパクトな生産機械投資も目立っている。海外でもロボットの導入が増えているが、これは人手不足というよりは人件費上昇対策と品質の安定を主目的にしている。
製造業以外での市場への期待も高まっている。PV関連の需要が減少する中で、東京オリンピック・パラリンピック関連の投資が今年から本格化することが見込まれている。東京では各地で再開発が盛んに行われており、受配電盤メーカーは多忙を極め、処理能力を超えた分が東北・北海道や、中部・関西に流れている。鉄道・高速道路、上下水道などインフラ設備のリニューアルや新設は依然遅れており、人手の確保ができればすぐに着工したい案件が山積みといえる。この状況は18年まで続くといわれており、当面この分野に死角は見当たらない。
こうした周辺を取り巻く環境の中で、FA・制御・電子部品の流通各社の戦略は大きく変化し始めている。根底には国内市場の成熟化と海外市場の拡大、ネット販売の浸透、経営者の代替わり、販売製品のシステム化・モジュール化などである。
■市場開拓が活性化へのカギ
製造業の国内回帰、インフラ投資の増大など明るい材料が出始める中で、今までのような大型の設備投資による工場建設は期待できないのが実情で、むしろ、石油化学や鉄鋼などは設備を集約する方向にある。この中で、新しい市場を開拓していくことが求められている。自動車周辺や半導体、重電機器、工作機械、ロボット、3品(薬品・食品・化粧品)などの産業はまだ国内投資の余地を残しているといえ、継続した投資が見込める。また、食料関連、とりわけ農業、外食関連はこれからのターゲット市場として期待できる。海外への活路を求める商社を除くと、国内では製造業以外の市場でどれだけ市場開拓できるかが大きな鍵を握っているといえる。
最近は、こうした市場にFA・制御・電子部品商社以外の電材、工具、計測器・科学機器などの商社も営業活動を強めている。各商社の得意とする部分が顧客からの評価を得ている面もある。これが顕著なのがネット販売であろう。デリバリー性の良さを前面に出して、従来の商社との差別化を図っている。商社の空白地域や昼夜間を問わない受注対応は既存商社にとって脅威となる一方、商社でもネット販売を独自に行ったり、ネット販売の仕入れに協力していたりするところもある。型番で注文の完結する商品ではネット販売も有効であるが、システムやソフトウエアなどが絡む商品については、対面で説明ができる商社に活路を見いだす余地が残っている。
■他業種と連携し収益アップ
電機街として世界に知られている東京・秋葉原地区で一昨年から、商社とヤマト運輸が共同物流を開始している。秋葉原地区では商社間の取引も多いことから、希望商社がそれぞれの配送商品を1カ所に持ち寄ることで、ピッキング作業や伝票枚数などを減らし、配送コスト削減や環境負荷の減少などを目指している。
開始してもうすぐ2年近くになるが、参加商社の配送コストは大きく下がって、粗利の向上に貢献している。秋葉原では次のステップとして、共同配送地域の拡大と共同在庫の試行を計画している。ヤマト運輸は輸送のノウハウと大規模なコンピュータシステムを有しており、また発送先や届け先とは常に「フェースツーフェース」のつながりがあり、配達だけでなく、販売や回収といった、多岐にわたる潜在的な活用の可能性が期待できる。
商社には、営業、流通、回収、金融など多機能の役割が期待されているが、こうした取り組みは、新たな商社像を生み出すきっかけにつながってくることが期待されている。
■経済動向注視し的確に対応
FA・制御・電子部品の流通商社は戦後創業したところが多く、創業50~60年を迎えている会社が目立つ。創業者から2代目、長いところでは3、4代目に継承されている。ほとんどの商社がオーナー経営者であるだけに会社を承継していくのには大変なパワーが必要になる。特に市場が従来のように右肩上がりの拡大が確実に見込みづらい時期の継承は、重要な判断になってくる。各商社は、大手商社が海外に市場を求めていこうとしているのに対し、中堅以下の商社は国内の拠点を増やしてシェアを上げようとしている。同時に、合併などによって企業規模を大きくすることで、仕入れ先、販売先、営業パワーでのスケールメリットを発揮しようとする動きも活発化してきている。
ただ、合併や協業は成功しているケースも多いが、失敗する事例も目立つ。基本は各商社が市場動向に対し危機感を持ち、いかに有効な手だてが打てるかにかかっている。
インダストリー4.0やIoTなど、新しいものづくりを目指した潮流の中で、新市場、新商品に対応した取り組みを進める一方、商社の存在価値として、在庫機能や金融機能、与信機能、流通機能、コンサルティング機能といった、求められることに的確に対応できる原点回帰も重要となってきそうだ。