有線から無線へ。IoTやM2Mの進展で工場など産業インフラでも無線ネットワークの導入が加速している。その契機となったのが2012年に開放された920MHz帯だ。遠くまで電波が飛び、ノイズや障害にも強いため、産業用ネットワークの用途でも採用が広がってきている。産業用途で使われ始めた920MHz帯についてOKI(沖電気工業)通信システム事業本部スマートコミュニケーション事業部マーケティング部山本高広部長に聞いた。
■工場内の無線化プラットフォームへ
-製造現場の無線化について。
製造現場で使われている無線周波数帯としては、主に2.4GHz帯と429MHz帯の二つがある。
2.4GHz帯は、スループットが高く、映像や音声などデータ容量の大きなものも扱うことができるが、直進性が強く、遮蔽(しゃへい)物に弱い。
一方、429MHz帯は、電波の回り込み特性に優れており、遮蔽物には強いが、スループットが低いため、小容量のセンサ情報や制御データを送る用途などに限定される。また、最大出力も10mWに制限されているため、電波の到達距離が短いといった特徴を持つ。
無線は、その特徴を理解して用途に合った正しい使い方をすれば、利用者に大きなメリットを生み出すが、これまで製造現場では無線通信の利用に抵抗感が強かった。
-なぜか?
例えば、2.4GHz帯は通信以外の用途にも使われるため、工場の装置で2.4GHz帯が出ている装置があり、干渉してしまう恐れがある。情報システム側の無線LANとの干渉や、セキュリティーの問題もあり、それは分けておきたいという意見も根強い。
また2.4GHz帯を使う場合は、ネットワークサーバーを立て、基地局を置いてつなぐ必要がある。設備コストがかかることから、敬遠されることが多かった。
しかし最近は風向きが変わり、用途に合わせた形で有線と無線を使い分け始めている。
特に12年に920MHz帯が開放されたのをきっかけに、PLCなど機器メーカーが無線機能を搭載した製品ラインアップを拡充。工場内の無線利用については、920MHz帯を中心に、さらに広がっていくだろう。
-920MHz帯とは?
920MHz帯は、20mWまで出力でき障害物も回り込みながら長い距離に電波を飛ばせ、かつ、100kbpsのスループットを持つ。このため2.4G
Hz帯と429MHz帯の長所を併せ持つ、バランスの取れた周波数帯であると言える。海岸のような見通しの良い場所では1000メートル先へも電波が届き、ビル内でも階をまたいで電波が到達する。今後、センサネットワーク向けのデータ通信、多段中継を行いながら広い範囲をカバーするマルチホップネットワーク用途で活用が広がるだろう。
ノイズ干渉の心配がなく、マルチホップでつないでいけるので機器コスト、工事コストが抑えられる。マシンビジョンの監視データなど映像、音声は2.4GHz帯で、それ以外は920MHz帯で使い分けるようになるだろう。
-御社の920MHz帯の取り組みについて。
920MHz帯の対応製品については、13年1月に「SmartHop」を発売した。各種センサを接続することのできるRS-485、RS232Cのインターフェースを持つ無線ユニットと、組み込み型のモジュールを提供している。
マルチホップ無線で多段ネットワークを構築でき、ある通信経路で障害が起きても、すぐに別の経路へ迂回(うかい)して通信を継続できる。920MHz帯の遠くまで飛ぶ到達性と、マルチホップ通信による通信の信頼性で、発売以来、高く評価されている。
-普及状況と具体的なアプリケーションなどは?
920MHz帯も3年経ち、だいぶ認知度が上がっている。当初は工場のセンサデータをデータロガーに送るなどフィールドレベルで局所的に使われてきたが、15年あたりからIoTが盛り上がり、その通信プラットフォームとしてどう使うかという全体的な話になりつつある。
例えば、製造工程や電力メータとつないで見える化したり、太陽光発電の監視などに使われている。
また、日産自動車の栃木工場では、AGVの遠隔制御に当社の製品を採用いただいた。他の無線帯域を採用した場合と比較して、機器やネットワーク構築コストを大幅に低減することができた。
-今後について。
SmartHopでつながる世界を広げることが大きなテーマ。工場・太陽光発電のほか、防災設備などの社会インフラ系に注力していきたい。
それと各種の協力パートナーを広げている。例えば機器メーカーでは、パナソニックデバイスSUNXの温湿度センサなどと相互接続継承をさせていただいたほか、エム・システム技研などの製品にSmartHopを採用していただいており、複数のパートナーの機器を組み合わせたシステム構築ができるようになってきた。
また販売パートナーである販社や技術パートナーのSIを増やしていきたい。