■日本とドイツで異なる解決策
今回の連載では、日本版Industry4.0は何を目指すべきなのかということと、また何を経営者は考えていかなければならないかについて触れてみたいと思う。私は、日本のIndustry4.0はドイツのそれとは違うものでなければならないと思っている。ギルドに代表される同業種の結びつきが強いドイツと、ケイレツに代表される、サプライチェーン上での企業間連携が強い日本では、その解決策もおのずと異なるものになる。
ドイツでは、中堅・中小企業の海外展開が古くから積極的に行われてきた。そのことで、hidden champion(隠れたグローバル・ニッチトップ企業)と呼ばれる企業群を多く輩出している。ある調査によれば、そういった企業数は日本の6倍にも達するという。また、大企業でも高付加価値戦略を取っている会社が多い。BMW、アウディ、メルセデスベンツはドイツを代表する世界の高級車ブランドだ。
一方、日本の現状を振り返ってみよう。日本の企業は高付加価値ではなく、高機能で低価格を売りに、グローバルニッチではなく、グローバルシェア獲得をひたすら目指してきた。中所得者層から低所得者層(ローワーミドル層)も含め製品の市場カバー率を高めるために、ひたすらラインアップを広く持った。カバー率を上げ、単位当たりのコストを下げ、稼働率を上げ、雇用を維持するというまさに水道哲学の実践だ。
個々の製品で儲けるということではなく、お客さまのニーズを最大限満たすよう高機能を維持していくという戦略は当初、正しかったと思う。国内市場が成熟化し耐久消費財が飛ぶように売れる時代ではなくなり、アジア諸国を中心として購買力をつけてきたローワーミドル層に輸出する必要が出てきた。ボリュームゾーンとなったローワーミドル層にとって日本の製品は過剰品質であり、高価格になってしまったのだ。日本の製造業が勘違いしてしまったのは、低機能=低品質という思い込みだ。実際には、コスト競争力のために機能を少し落としても現地の市場特性に合わせたスペックで対応する必要があった。
ボリュームゾーンを狙ったインドのタタ自動車を例に取れば、サイドミラーもワイパーも一つ、エアバッグやABSが省略される日本円で40万円台の車を市場に出した。日本企業がこれらの戦略を取るべきかについては、議論されるべき点である。しかし、元々バイクに乗っていた層にとって、これらの機能は特に必要を感じない。バイクと比べれば雨風がしのげるボディがあり、ずっと便利で安全な乗り物である。
シャープの亀山工場のモデルも、一貫生産と設備のブラックボックス化で当初はもてはやされた。しかし、液晶技術がコモディティ化すると、その巨大な設備はいくら売っても回収できない、それどころか他の製品が作れず、むしろ重荷になってしまった。いずれの例からも分かるように、日本企業は土地や設備などの資産をオプティマイズ(最適化)ではなく、マキシマイズ(最大化)してしまい、その後の市場やユーザの好みの変化に対応できないという状況が続いているのだ。スループットを最大にするための最適な資産量を目指すべきなのだ。キーワードはスループットの最大化だ。
今、日本企業の経営者が行うべきはアセットマネジメント、プロダクトマネジメント、プロセスマネジメントの三つのマネジメントである。とくに最初のアセットマネジメントについては、改めてその重要性が増してきていると言える。
改めて、損益分岐点のグラフを見て頂きたい。将来に対しての不確定要因が増す中で、企業はそれに対応するために、投資を早めに回収できるビジネスモデルの仕組みが求められている。先ほどの、資産のオプティマイズと絡めて、特に「②固定費の削減」は、完全ファブレスメーカーの台頭なども含め、今後の製造業の大きなトレンドになっていくであろう。
日本型Industry4.0はこのビジネスモデルをサポートする形に進んで行くことが望ましい。日本型Industry4.0は可視化された市場から協力会社までの情報を元に経営者が意思決定を行い、そのフィードバックを素早く、設計~生産までのプロセスに反映させる、そしてその結果を確認するというPDCAサイクルを支援していくものになっていくであろう。このアセットマネジメント、プロダクトマネジメント、プロセスマネジメントの三つのマネジメントの概論とスループットの向上については、次回触れていきたいと思う。
(参議院議員)
山田太郎(やまだ・たろう)
参議院議員
慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を活かしステーツマン(政治家)として活躍中。