安定した需要続く電磁開閉器 工作機械・半導体・建築物・電力・鉄道 幅広い分野をカバー

電磁開閉器(マグネットスイッチ)の市場が依然堅調な動きで推移している。需要裾野の広さを背景にして、用途ごとには変化があるものの総じて上昇トレンドになっている。市場が上昇基調であることもあり、販売価格も安定しており、電磁開閉器の各社の売り上げ増につながっている。製品開発は、小型化と低消費電力化をポイントに改良が加えられ、市場ごとのローカルニーズに対応した取り組みも目立つ。今後も地産地消の生産を基調にしながら安定した需要が続きそうだ。

電気回路の開閉制御を行う役割を果たす電磁開閉器は、電磁石で接点を開閉する電磁接触器(コンタクタ)と、電動機の過負荷保護を行うために熱を利用して動作する熱動型過負荷継電器(サーマルリレー)を組み合わせている。モータなどを使用した機械、装置、設備には必須の機器として使われ、負荷のON/OFFや、過負荷電流が流れて機器の回路が焼損する事故を防止する大きな役割を果たしている。

工作機械、半導体・液晶製造装置、エレベーター、空調機器、配電盤など幅広い分野で、モータの起動・停止、照明・ヒーターのON/OFFなどで使用されている。

日本電機工業会(JEMA)の出荷統計によると、2013年の生産は前年比5.3%増の263億円、14年が同6.5%増の279.6億円、15年は同0.7%増の281.5億円となって、連続して前年実績越えで推移している。

ピーク時の400億円前後の市場規模に比べると25%ぐらい減少しているが、海外への生産移管や単価の下落などが影響している。しかし、生産台数では過去最高ペースで推移しているメーカーも多いことから、依然堅調な市場拡大が継続しているといえる。

電磁開閉器の主要需要分野のひとつである工作機械の受注は、15年が約1兆4800億円と、14年より200億円ぐらい減少したものの、過去3番目の高水準となっている。スマートフォンの動向にかなり左右されているものの、自動車向けが好調を維持している。

半導体・FPD製造装置も、15年は約1兆6800億円と7.4%増加し、16年も5.5%増の約1兆7700億円が予測されている。

もうひとつの大きな需要先であるビルや工場、公共施設など建物に関連した市場も好調な動きとなっている。東京オリンピック関連や、大都市を中心とした再開発、インフラ設備の老朽化や省エネ対応などが取り組まれている。ビルや施設建設に絡んでエレベーターやエスカレータ、空調設備向けの受配電機器のひとつとして電磁開閉器にも旺盛な需要が継続している。人手不足も重なり、需要が多い割には思うように工事が進んでいないところが多く、当分は繁忙状態が続くことが見込まれている。

そして、ここ数年の電磁開閉器市場の新用途として注目されているのが、PV(太陽光発電)などの新エネルギーに絡んだパワーコンディショナー向けの需要だ。PVも昨年はピーク時に比べると少し減少傾向になっているが、メガPVの申請件数のうち、未着工件数が相当数あるといわれ、まだ、継続した需要が見込まれている。PVや風力、地熱などの自然エネルギー関連だけでなく、分散した電源対策はここ数年大きく変化している。

今年4月からの電力購買の自由化に伴い、商用電源と分散電源と連携した形での運用において、電磁開閉器が介在する用途は確実に増加が予想され、新たな市場拡大分野として期待されている。

鉄道車両分野も期待されている。国内の鉄道車両は更新需要が中心のため大きな需要増は見込めないが、海外市場に向けた車両輸出の需要は今後も大きな伸びが見込まれている。日本製車両の高い信頼性に加え、鉄道運行技術との総合力で海外でも評価を得ていることから、電磁開閉器の安定した需要分野となっている。

そのほか、水素充電ステーションも新市場として注目が集まっている。

■開発は小型・省エネ重視
電磁開閉器は技術的に完成の域にあるといわれながらも依然、開発・改良が進められている。最近のポイントは小型化、省エネ化、グローバル化対応、省配線化と配線作業性の向上、安全対策などに重点が置かれている。

小型化への取り組みは、制御盤の小型・薄型化に対応したもので、10Aフレーム以下の小容量タイプでは、横幅36ミリを実現して、収納スペースの削減と、駆動電力の低減を図っている。電磁開閉器の小型化には、開閉時の高温ガス放出構造やアークランナーの形状最適化など設計上の難しさが伴う。しかし、多数個並列して使用することが多い電磁開閉器では1個の幅を少しでも削減できれば、盤全体では大きなスペース削減効果を生み出す。同時に、小型化・低消費電力化は、環境配慮と素材の節約にもつながる。電力消費量の削減では、電磁石の改良も行っており、電磁石容量で約15~30%の省電力化を実現している。

省配線化と配線作業性の向上では、端子の配線ネジを外さなくても配線できるようにしたり、バネを使って仮止めが容易にできるようにしたりと、工夫している。端子構造は、日本と海外では異なっていることから、使われる地域の実情に応じて選択できるように、棒、先開き、丸型、スプリング、ファストンなど多彩に用意している。

作業性の良さでは欧州タイプの圧着端子を使わないで、棒線、より線がそのまま使用できる接続方式が有利といわれているが、日本では電力や官公庁向けで、圧着端子の使用を求めているところが多く、納入先ごとに仕様を変えているのが実情だ。今のところこの流れに変化はなく、日本独自の状況が継続しそうだ。

省配線化の一環として、電磁開閉器の主回路の高さを統一することで、専用ブスバーによる1次側渡り配線ができるようになっている。これにより、配線数が大幅に減らせ、配線作業時間の短縮と誤配線の防止につながる。

さらに、可逆型電磁接触器に、電気的インターロック用配線を内蔵したタイプも開発されており、インターロック配線が不要になるほか、スペースもほとんど同じで済むため、内蔵スペースを有効に生かせる。

安全対策では、端子部に不用意に接触しないように感電防止構造を採用した製品が一般化、不用意な接触によって誤作動したり、異物が本体に侵入したりしないように保護カバーを標準で装備している。

さらに、制御回路と主回路の誤配線を防ぐために、それぞれの端子色を変えることで分かりやすくしたり、主回路と補助回路の端子配線の干渉防止と作業性向上へ端子配列を工夫した設計も行われている。電磁開閉器の接点溶着が発生した場合でも、安全開離機構(ミラーコンタクト)として、補助接点が確実に作動する機能も内蔵しており、事故の防止を図っている。

一時は盛んに取り組まれた長寿命化も電気的開閉耐久性は200万回、機械的開閉耐久性は2000万回を標準仕様にしているところが多い。最近、DC化対応機器が増える中で、以前のように頻繁に入り切りして開閉する用途が減少気味といわれ、さほど長寿命性が重要でなくなりつつあることも背景にある。むしろ、コストや安全性に重点を求めるニーズが高まっている。

開閉が少ないことで長く使用できることになるが、JEMAでは事故を防ぐために、適切な時期に電磁開閉器の点検と更新を推奨している。

電磁開閉器の故障例としては、溶着による焼損、短絡、ゴムや樹脂部品の経年劣化による破損、硫化銀生成による接点導通不良などが挙げられる。

JEMAでは、「電磁開閉器更新ガイダンス」のパンフレットを作製し、電磁開閉器による重大な事故発生防止を行っている。使用開始から10年が経過したり、製品規定の開閉寿命を経過した電磁開閉器の更新を促すほか、10年以下でも①電磁開閉器が異常に熱くなっている②電磁開閉器から異臭や異音がする③電磁開閉器の外観が変色している④電磁開閉器の周辺に塵埃(じんあい)が堆積している⑤サーマルリレーのテストボタンで、トリップ・リセット動作ができない場合がある、などの事象があればメーカーなどに相談することを求めている。

電磁開閉器を交換することで、事故の未然防止につながるだけでなく、事故発生時の復旧、原因追求や対策などの労力やコストを抑えることもできる。

■地産地消の生産を基調
電磁開閉器は、機器に内蔵して使用されることから、実際に使用される国・地域に対応した規格の取得が求められる。JIS・JEMやIEC、VDE・DIN、BS・ENなどをはじめ、UL、CSA、CE、TUV、GB・CCCなどが代表的な規格として取得や準拠している製品が多い。

規格だけでなく、用途によっては一定の機能や寿命に対応することを求めるニーズもある。つまり、コストを抑えるために特定用途専用にスペックを絞った設計になっている。

一般的に電気回路には、配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーが使われ、短絡事故からの電線保護、電動機の過負荷保護などを行っているが、これらの省スペース化と省配線化を実現できるモータスタータの動向が日本でも注目されている。配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーの代わりに、モータブレーカと直流低消費電力型の電磁接触器を採用することによって取り付け面積を、従来の3分の1まで削減することができる。

モータブレーカと電磁接触器を専用パーツで一体化しているために、従来の配線用遮断器と電磁接触器を電線1本1本で配線する作業も不要になり、配線時間を従来の半分に削減することが可能になるなど、トータルコストダウンに効果を発揮する。欧米を中心にこの方式が普及しているが、日本では配線方式や電圧の違いなどからあまり普及していない。しかし、日本から海外市場に向けて輸出する機械が増加するなかで対応が求められており、関連メーカーは計算方法など実際のマニュアルなどを準備しながら対応を図っている。

為替は円安基調から多少円高に振れつつあるものの、一時の円高時に比べ輸出環境は大きく改善している。電磁開閉器各社は、地産地消を基調にしながらも、国内生産重視の姿勢を強めつつある。国内でロボットなどの自動化機器を駆使して、生産効率を上げる動きが強まっている。また、2次元バーコードなどを使って、製品のトレーサビリティ管理を行うことで、製品トラブル時の対応がスムーズに行える取り組みも出てきている。

電磁開閉器市場は、既存市場で安定した需要が継続しながら、新しい用途も出始めている。メーカーの寡占化が進むなかにあって、依然製品開発意欲は高く、安定した市場が継続するものと見られる。

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