■遅れている日本政府の取り組み
3月12日に内閣府まち・ひと・しごと創生本部による地方活性のためのIoT活用への政府の取り組みが発表された。日本経済新聞夕刊(東京版)では1面トップで取り上げるなど一定の反響があった。では、政府は製造業に対して、Industry4.0やIoTについてどのように取り組もうとしているのだろうか。
まち・ひと・しごと創生本部が肝いりでやろうとしている政策は大きく2点。「地方版IoT推進ラボの創設」と「スマート工場の地方への普及」だ。しかし、その内容は散々たるものというのが私の第一印象である。
「地方版IoT推進ラボ」とは、現在東京で行っているIoT推進ラボ(企業マッチングセンター)を地方にも展開する内容で、IoT推進ニーズのある会社に対して、IoTに関係するハードとソフトの会社を紹介するだけというお粗末な内容だ。
一方の「スマート工場の地方への普及」については、地方の公設試験研究機関に3Dプリンターと3D-CADを設置し、近くの企業がそれらを活用できるようにするというだけの仕組みだ。担当者は「地方の中小企業がIoT推進のベースとなる3Dモノづくりをできるようにするため」とのことだが、実際にはかなりIndustry4.0とはかけ離れている話だ。3DモノづくりはIoTなのだろうか。少なくとも、これをスマート工場と呼ぶにはあまりにも力不足である。
私は米国最大の3D-CADベンダーの米国本社の副社長をやっていた身であるが、もともと何の関係もない個別で作られたCADデータ同士を連携することは技術上極めて難しい。また、CADを使うためにはベースとしてのポリゴンデータなどが必要になるが、そういったことはどう考慮されているのか全くもって不明だ。中小企業にとっては、かえって、設計・開発の重しにもなりかねない。IoTという側面で考えた時に、どこにメリットがあるのかが分からない。
実際に中小企業が3D-CADを自由に使いこなせるようになったとしても、それは、あくまでも企業の一部である設計工程のデジタル化でしかない。しかし、工場外と情報交換をしようとした場合、製品の仕様情報をどう連携するのか、受発注情報をどう連携するのかなどこれらの問題を解決しなければ、個々の企業の利益には繋がらない。個社ごとではなく、業界を超えてこういった仕組みは共通化していかなければならないことを考えると、勝手に情報化を進めていくことは、かえって情報の孤島を多く作り出してしまうことにもなりかねない。政府が音頭を取っていくべきところは、これらの標準化であることは、論を待たないであろう。
一方、経済産業省の方に目を向けてみよう。現在、国会では平成28年度の予算案について審議中だが、その中でIndustry4.0に直接関連する予算は5億円しかない。昨年、平成27年度当初予算にはIndustry4.0関連の予算がなかったことを考えれば一歩前進かもしれないが、ドイツ(280億円)、アメリカ(250億円)、中国(7500億円のファンド)、フランス(1000億円のファンド)などと比べると日本の予算規模とは大違いだ。
話は脱線するが、例えば平成28年農水省の予算2.3兆円(その半分がコメ関連予算)に対して、経済産業省(エネルギー特会除く)は3000億円とわずかな額である。
雇用の7割を支える中小企業で働く人の4000万人に比べ、農業を主に行っている人口はわずか82万人だ。いくら食糧が大事だとはいえ、国の経済の根幹である企業を支える経済産業省の予算がこれだけ少ないということは、何かがおかしいと思っている。
いずれにしても、Industry4.0に直接つけている予算が5億円であり、IoT/ビッグデータ、人工知能、ロボットによる変革の推進などの関連予算を含めても350億円程度、しかも国の産業政策の中心がロボットに偏っているというのでは、本当に心許ない。Industry4.0の内容についてまともに議論ができるのも、私の見立てでは経済産業省の官僚でわずか一人という状況も含めると、金額の多寡や人員で全て判断されるべきものではないが、日本政府の取り組み状況はかなり遅れているという印象だ。
日本の政策はサービス業の生産性の悪さを改善するというものが多い。しかし日本の国力再興のためにも、強い製造業をより強くすることも必要なのではないだろうか。私も製造業を応援する国会議員として、これまでも取り上げてきたが、今回の予算委員会でもこの問題を取り上げようと考えている。金融政策だけでは日本の再興はありえない。雇用の2割(1040万人)を支え、貿易収支を引き上げる最大の要因である製造業は、日本再興の要であり、IoTやIndustry4.0に代表される製造業の高度化は国を挙げて行うよう政府に対して働きかけていくつもりだ。
(参議院議員)
山田太郎(やまだ・たろう)参議院議員
慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を活かしステーツマン(政治家)として活躍中。