24時間連続して安定稼働し、長期間の保守と製品供給を大きな特徴とする産業用(FA)コンピュータ/コントローラや、生産設備の制御を行うPLC(プログラマブルコントローラ)の評価が上昇している。特にIoTやIIoTなど、生産現場の情報と販売や使用者の情報をつなぐ志向が強まる中で、その役割が改めて見直されている。工場だけでなく、社会インフラ設備やアミューズメント機器、病院設備などにも用途が広がっており、今後の市場が急拡大することへの期待も高まっている。
産業用(FA)コンピュータ/コントローラの市場規模は、どこまでを含めるかの捉え方で大きな差が生じる。メーカーや調査会社などの見方を擦り合わせると、日本の市場規模は約300億円、グローバル市場規模は約2300億円と推定されている。ボードタイプやパネルコンピュータ(パネコン)など、製品としてボーダーレスのものもあり、実際はさらに大きな市場を形成しているという見方もある。PLCは、日本電気制御機器工業会(NECA)の生産見通しによると2015年度で1300億円となっている。また、市場調査会社富士経済によると、15年度の出荷額は1888億円という数字が発表されている。NECAの金額は会員を対象とした統計であるのに対し、会員外の数字も加えた富士経済の金額は大きくなる。ちなみに富士経済の18年度の出荷予測は2149億円と3年間で250億円程度増加すると見ている。PLCの世界市場は日本の3倍とも言われており、推定5500億~6000億円を形成していると考えられる。
産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCが多く使われている半導体・液晶製造装置などの生産は、日本半導体製造装置協会(SEAJ)の調べによると、15年度の出荷額は1兆5786億円(前年度比7.4%増)で、16年度は1兆7722億円(同5.5%増)と堅調な見通しとなっている。
また、15年の世界の半導体製造装置販売額は365億㌦で、14年比3%減少した。日本工作機械工業会(JMTBA)の15年の受注額(速報)は1兆4804億円(前年比1.9%減)となっている。中国市場など、今まで市場拡大を牽引してきた輸出が伸び悩んだのが影響している。
昨今のIoTやIIoT、インダストリー4.0などに代表される、新しい生産形態、消費形態の中で、産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCの果たす役割はますます大きくなっている。
■セキュリティ対策が課題
産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、汎用パソコンとは異なり、長期間の安定した供給体制や、連続稼働に耐える、信頼性の高い設計などから用途は広がりつつある。一般的に産業用(FA)コンピュータ/コントローラの半分は工場などの製造現場で使用され、残りが非製造分野の交通や公共分野となっている。
非製造分野では下水道設備や変電設備、風力や太陽光発電などの公共設備の監視制御、電車、船舶、高速道路などの交通システム、放送・通信設備、コールセンターやデータセンターなどの情報端末、アミューズメント機器、医療機器などが主な用途として挙げられる。こうした用途では機器へ組み込んで使用されることも多い。
いずれも前述した製品特徴が採用時の大きな理由になっている。汎用パソコンのように数年ごとに買い替えするのが当たり前のような使い方に対し、5年、10年と同じ機種をトラブルなく使い続けることが多く、求められる要求レベルも高くなる。
また従来、工場や公共設備は外部とネットワークなどが遮断された形で存在していたが、インターネットの普及がこうした隔離された状況を一変させた。IoTへの対応は、隔離された状況を「つなぐ」という形で開放することになったが、その負の側面として、セキュリティ問題が新たに生まれている。事務所などで使うコンピュータではセキュリティ対策は従来もとられているが、制御システムのセキュリティ対応はここ数年の問題で、対応が遅れているのが現状だ。原子力発電設備や下水道設備など、われわれの生活に直結する部分が多く、被害が拡大する危険性を秘めている。
産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCメーカー各社は、制御セキュリティ対策を施した製品開発を進めており、いわゆる「ホワイトリスト制御」を行っている。マルウェア情報を検知する「ブラックリスト制御」に対し、動作して良いと判断した「良いもの(ホワイト)リスト」のみを決め、これ以外には動かないように制限を設けるもの。
一方で、使用するユーザーにも制御セキュリティの対応策を積極的に求めている。
■オープン化の中核に
産業用(FA)コンピュータ/コントローラと汎用パソコンは、構造上からも異なる。工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることを前提のため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。例えば温度特性もマイナス25℃~プラス60℃ぐらいの範囲に耐え得る設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。また、制御機能も、生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレー)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、一つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。
このような場合、最先端のCPUやメモリー2GBクラス以上のハイスペックな製品が要求される。インターフェースについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。
拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理が可能になっている。
グラフィック機能も従来の約3倍となり、これまで難しかった高精細の動画再生も容易に実現できるようになり、使用分野の拡大が期待されている。一方、消費電力は従来の約半分になるなど省エネ化が進み、高いバリューパフォーマンスを顧客に提案できるようになっている。
■機能・用途 大きく変化
産業用(FA)コンピュータ/コントローラにはさまざまな仕様が要求されるが、中でも最重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリー機能、ハードウエア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。
24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。PLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分はWindows OSで処理を行うなど、1台のPCで制御から処理までを行っている。
■数年前まで、Windows
OSとリアルタイムOSを同時に走らせることは難しかったが、近年はコンピュータの高性能化により、簡単に実現できる。特に最新のプロセッサとリアルタイムOSを有機的に連携することで、リアルタイムによる処理性能も大きく向上、42μ秒で2万ステップの高速処理が可能になっている。ハードウエアだけでなく、ソフトウエアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinux OSの採用が多くなっている。
PLCは言語の国際標準化が進んでいる。国際標準言語規格「IEC61131-3」が中心で、JISとしても規格化されている。使う人のスキル、使用する業種などによって五つの言語を標準化して選択できる。欧州を中心に普及してきたが、国内でも普及が進み、PLCメーカー各社も対応機種の充実を進めている。
IoTやIIoT、インダストリー4.0などへの取り組みが強まる中で、PLCを中核とした通信ネットワークの動きにも変化が生じ始めている。特にイーサネットが普及し主流になってくるとともに、ネットワークはますますオープン化の様相を強めているといえる。従来、PLCメーカーを中核に、センサーやアクチュエータの相互接続を容易にしようとして、オープンネットワークという取り組みが進んだが、生産のグローバル化とともに、PLCだけでなく、あらゆる機器・装置をメーカー間の壁を超えてつなごうという動きになり、「真のオープンネットワーク化」が進展しようとしている。インターネットを介したIoTやIIoTへの取り組みがこうした動きを加速させたともいえる。
今後は、産業用(FA)コンピュータ/コントローラやPLCは、製造現場以外での用途を急速に拡大してくるものと見られる。形を変えた形で新たな時代を支える機器となりそうだ。