■ローカル企業の『力強い活路と明るい未来』とは
2016年はクリティカルな年になりそうである。
中国ダメ、ドイツダメ、アメリカもヤバイ。中国での機械や装置の売上高激減が、中国景気後退の深刻さを如実に物語っている。優等生ドイツにも陰りが生じ、主力機械メーカでもドイツ国内の先行き見込みが悪化している模様である。米国は、なんとか好景気を維持しているものの、中小製造業の足元には暗雲が立ち込めている。また、政治的にも世界の警察官を放棄した米国は、ますます内向きとなり、覇権国としての力を失いつつある。
日本では、決算時期を迎えた大手製造業各社が、好決算を誇示する半面で、先行き不安は増大している。好決算は、一時的な為替による利益レンジが変化した結果であり、経済成長を示す『量の拡大』や『生産性向上』の改善は見られない。すなわち、世界で売れる商品が増えず、一人あたりの稼ぎ高も増えていない。日本企業に成長性が無いことが大問題である。
このような状況から、日本経済の厳しい未来が透けて見えるが、世界で起きている変化を分析することで、日本の中小製造業の『力強い活路と明るい未来』を発見する事ができる。
世界では、覇権国アメリカの弱体化により、バランスが崩れ、各国の独自対応が表面化している。1990年代より多くの企業が目指した『グローバル化』にも赤信号が灯っている。かつて日本で流行った『海外シフト』も後退し、多国籍企業を筆頭とするグローバル化の終焉(しゅうえん)が現実性を帯びてきた。
我々は今、歴史的な変化の渦中におり、世界経済は非常にクリティカルな状況に置かれている。
今後、グローバル企業(大手製造業)を襲う最大の危惧は、『海外拠点のお荷物化』である。海外市場の競争は熾烈化し、採算性の悪化は避けられない。中国をはじめ、不採算地域からの撤退を余儀なくされる。労働問題やイデオロギーの違いも表面化するだろう。
大手製造業は今日まで海外拠点を拡大し、膨大な経営資源を投入してきた。世界中に広がる『海外拠点』は戦線が伸びきっており、見直しの必然性が強まっている。この見直しと実行に膨大な費用と時間を要し、企業の体力も相当消耗する事が懸念される。
しかし、幸いなことに『ローカル企業』はこの問題とは無縁である。
ローカル企業は、ローカル地域社会と共に発展し、根ざす『中小企業』であり『町工場』である。その有形財産(人・モノ・金)のほとんどが地域に温存されており、海外に流失していない。この事実がローカル企業の優位性であり、『力強い活路と明るい未来』をもたらす源泉となる。温存された有形財産を最大限活用し、ローカルに根を張りながら、世界に扉を開き大躍進を実現する事。これが、中小製造業の活路である。
しかし、これを実現するには適切な『投資』も必要である。ここからは、中小製造業の活路を開く『投資』の観点を深掘りしていきたい。
一般論として、経済成長に『投資』は必要不可欠である。その目的は『生産性向上』と『量の拡大』であり、製造業では『モノ・人・技術』が投資の対象とされている。
『投資』といえば、一般的には『機械や工場に投資しよう!』と考えるが、残念ながらこの投資概念だけでは活路は開けない。『モノ』への投資から、『人と技術』への投資を積極的に拡大することが重要となる。
勿論これからも、デジタル化された最新機械への投資や工場拡張など『モノへの投資』も重要だが、それ以上に、現有資産の最大限活用を前提にしつつ、かつ現状に留まることなく、スマート工場化を実現し、親会社に依存しない企業体質への変革を図ることが大切だ。
企業体質変革のためには、徹底的な『人と技術』への投資が必要である。
デジタル化・スマート化時代に相応しい人材育成と新しい技術の導入によって、エンジニアリング体質の売れる企業に脱皮することで『力強い活路と明るい未来』が開けるのである。
具体的に『人への投資』とは、強力なエンジニアリング室を社内に構築するための投資である。
デジタルツールを駆使し、現場のノウハウを徹底的にデジタル化し、社有化する。そしてこのノウハウを世界中に通用する武器に変えるためのエンジニアリング人材を育成すること。出来ることなら、ノウハウを持つベテラン熟練工にコンピュータ操作を習熟させ、エンジニアリング室を熟練工の集団にすることができたら理想である。
一方で『技術への投資』とは、デジタル化された現場ノウハウを、世界に売るための『仕組みづくり』への投資であり、同時に『生産性の向上』と『量の拡大』を実現する切り札の投資である。具体的には、IoT、クラウド、人工知能など、インターネット関連の最新技術の導入である。
一見、モノつくりとは関係ない技術、と思われがちであるが、実は中小製造業にとって最も必要な技術であり、これらの技術は想像を超えるスピードで進化し、かつ導入費用も大幅に下がっている。
一例を上げると、人工知能が、囲碁勝負で人間の能力を超えた。想像を絶する進化が起きている。ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる「コンピュータが自ら学ぶ」革新的な技術である。
自動運転や画像認識など多方面に渡る応用が進められているが、中小製造業にとっても、人工知能は究極の兵器である。ノウハウを継承するツールとしても活用できる。新技術の導入で『考える工場』『つながる工場』も実現可能である。これらの導入如何が、中小製造業の未来の明暗を分ける。
世界と戦うこと無く、世界を味方にしながら発展できるのは、『ローカル企業=中小製造業・町工場』である。ローカル企業のノウハウ・技術が世界に発信され、日本の製造業の未来を切り開く時代がやってきた。
高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。