かつて「きつい」「きけん」「きたない」のいわゆる3K職場といわれた溶接工程でロボット導入が進んでいる。アーク溶接ロボットで世界シェアトップのダイヘンは「スパッタレス」技術を磨き、その用途を広げている。
国内製造業では技術継承問題が深刻さを増している。ものづくりには欠かせない「溶接」分野でもその傾向が顕著になり、溶接ロボットによる省力化が進むと同時に“人”に依存しない高精度な自動溶接システムの構築が進んでいる。
従来、溶接工程では溶接中に発生するスパッタ(金属粒)が大きな課題となっている。スパッタは母材に付着しビード(溶接箇所)の外観を損ね、塗装や表面処理などの表面処理にも悪影響を及ぼすため、後工程でスパッタを除去する工程が別途必要だった。さらに製品に傷がつく、近接センサなど溶接箇所の近くにある機器や電線被覆を破損させるなど「低スパッタ」に対するニーズは非常に高く、各溶接機メーカーは技術開発を競っている。スパッタレスになることで、工程の省略や、従来適用できなかった部材の溶接を実現する。
ダイヘンではこれらのニーズに応える溶接システムを開発してロボットに搭載、4月13日からインテックス大阪で開催の「2016国際ウェルディングショー」に出展する。特筆すべき技術は大きく「シンクロフィードGMA溶接」と「コールドタンデムGMA溶接」の二つ。
前者はワイヤの超高速正逆供給制御と高速電流波形制御を同期させ「スパッタの大幅低減」「溶着量の均一化」「溶込み深さの確保」を実現。自動車部品では、板厚1ミリ以下の薄板が使われるドアサッシやシート部品から、足回り部品やフレームなど十分な溶込みが必要になる板厚4.5ミリ以下の鋼板までスパッタを抑えて溶接ができる。もちろん自動車業界では高速溶接が求められる。実際に1.5メートル/分、溶接電流300A、板厚3.3ミリの条件でもスパッタを発生させずに高速溶接を実現している。
後者は2本のワイヤを溶接線に平行に配置、先行の溶接ワイヤで通常通りのアークを発生させGMA溶接を行う一方、後方のワイヤは先行のアークによって形成された溶蝕状態の金属部(溶融池)に通電せずに挿入する。結果、冷却作用による溶接速度の向上や、ビード形成の問題、ギャップ裕度の拡大など実現する。
同社ではこれら二つの技術に加え、7軸ロボットを組み合わせ、溶接に最適なトーチ姿勢をより広い範囲でとることを実現している。これにより、水平に置いた鋼板にパイプをおいて、マニピュレータの動作だけでアームとコンジットが干渉しない姿勢で1周の溶接ができる(6軸だとこれが難しい)。2本のワイヤがありながら、ティーチングが簡単にできる機能(図)も装備されており、さらなる用途の広がりが期待される。