【IoT・スマートファクトリー】
インダストリアルIoTやIndustry 4.0を実現するためには、製造現場のデバイス同士が相互にネットワーク接続され、各種メーカの装置が混在した状態での相互運用やシステム統合が必要になる。つまり、システムの設計担当者やユーザは、これまでよりも確実かつ安全にシステム構築および運営できるようになる必要がある。そのためには既存のネットワーク技術の進化が求められている。
代表的なネットワーク技術は、オフィス等で使用されている標準Ethernetである。しかし、レイテンシ(通信遅延時間)と同期の問題があり、高速なシステム応答や閉ループ制御が求められるような産業用アプリケーションには不向きである。
そのため、Ethernetをベースとし、産業用に最適化された独自仕様の産業用Ethernetが複数利用されているのが現状である。ところがこの独自仕様の産業用Ethernetは、レイテンシと同期が高い半面、帯域幅の制限や、他のネットワーク規格との相互運用性が弱いといった課題が生じている。
このような標準/産業用Ethernetが抱えている欠点を解消するために、次世代EthernetとしてTime Sensitive Networking(TSN)の規格策定が進行している。このTSNはOSI参照モデルの第2層(データリンク層)に当たるものであり、標準Ethernet規格(IEEE802)を拡張し、タイムセンシティブなデータに対して、レイテンシを固定したデータ転送方法を提供するものである。
【TSNのメリット】
TSNでは、以下のようなメリットが得られる。
■帯域幅が標準Ethernetと同等
産業用Ethernetの中には、帯域幅が100Mbpsの半二重通信に制限されているものがある。それに対しTSNでは標準Ethernetと同等のレートの1G/10G/400Gbpsのバージョンを計画し、全二重通信がサポートされる予定である。
■相互運用性
TSNは標準Ethernet規格の拡張版であるため、産業用EthernetとITインフラとギャップが無くなり相互接続性が高まる。また、標準Ethernet規格をベースとするため、市販の量産品が使用でき、ネットワークスイッチなどの機器コストを抑えることが可能になる。特に少量生産のASICを使用するケースが多い産業用Ethernetと比較して、大幅なコスト削減が見込まれる。
■レイテンシと同期性能の向上
TSNではタイムセンシティブな通信が優先される。これは高速なシステム応答や閉ループ制御が求められる用途で必要とされる仕様であり、データ転送については数十マイクロ秒の確定的な転送時間が保証され、ノード間の同期については、わずか数十ナノ秒レベルの同期が実現される予定である。この規格策定には、Broadcom社、Cisco Systems社、Intel社、NIなどがメンバー企業として参加しているAVneアライアンスや、IIC(Industrial Internet Consortium)などの業界団体が進めている。上述のように、TSNはOSI参照モデルの第2層(データリンク層)に当たるため、将来は上位層にあるプロトコルはTSNをベースとして構築されていく可能性がある。
事実すでに、インダストリー4.0での標準通信規格とされるOPC-UA(OPC Unified Architecture)は、TSN規格を活用していくとOPC協議会が表明している。既にOPC-UAとTSNとの統合開発は始まっており、2016年2月にIICが開発開始を発表した、TSN試験用プラットフォーム(TSNテストベッド)にて試験運用される予定だ。このTSNテストベッドには、インダストリアルIoTとIndustry 4.0の主要な推進企業である業界リーダー各社(Bosch Rexroth、Cisco, Intel、KUKA、Schneider Electric、TTTech)が協力して技術開発を行っている。このことからも、TSNは次世代のEthernet規格として有望視されており、500億台ものデバイスがネットワークに接続されるといわれているIoTにおいて、TSNは重要な役割を果たすといえそうだ。
日本ナショナルインスツルメンツ シニアテクニカルマーケティングマネジャー 岡田一成