ここ数年IoTやIndustry4.0などの用語が国内製造業の経営の現場でも聞く機会が増えました。しかし、これら用語は一部の大企業以外では、概念のような存在であり、実際の企業経営に直接関係することは多くはありません。一方で、多くの国内製造業において、ここ15年間にインターネットの存在は企業経営に劇的な変化をもたらしました。2002年のIT崩壊、08年のリーマン・ショックを経験した国内製造業の一部企業経営者は、ホームページの運用だけのインターネットを、営業の人的工数の削減、市場の最新技術ニーズの収集と習得、そして若手の即戦力を実現する人材育成にまで活用しています。
インターネットは通信ネットワークシステムを利用した、メールやホームページを代表とする情報伝達の媒体です。この世界規模の通信ネットワークは、企業規模に関わらず、これまで接触が難しかった顧客の設計・開発・技術担当者(仕様決定者)へ直接情報を伝達するダイレクトマーケティングと言われる販促方法を可能としました。この結果、従来の展示会やハガキDMや業界紙を使った手法から、自社のホームページや業界内のポータルサイトへと急速に販売媒体のゲーム・チェンジが起こりました。こうしたインターネット広告が一般的になればなるほど、広告内での競争が強くなり、その効果は徐々に薄れてきました。そこで、新たな生まれた販促手法が、主に大企業が採用するマーケティング・オートメーションと、自社商品を持たない企業が行うセグメント・マーケティングになります。
マーケティング・オートメーションとは、その名の通り販売促進の自動化です。例えば、自社がすでに保有している顧客名簿へメールを配信します。すると配信されたメールの開封の有無や時間、メール本文内のリンクのクリックの有無、ホームページの閲覧時間や閲覧ページによって、対象顧客へ自動的に点数を付けるといった機能があります。これにより、企業は一度名刺交換をした顧客に対して、自社に興味を持った時点で営業活動を展開することができ、顧客の見込み度を自動で確認することができるようになりました。従来、営業が行っていた見込みのある顧客担当者を見つける作業を、インターネット上の顧客の導線を解析することで自動化したのです。ただし、マーケティング・オートメーションは高額なイニシャルコストとランニングコストがかかるため、中堅企業には導入がまだまだ難しいマーケティング手法となっています。
次にセグメント・マーケティングとは、自社の商品・サービスを1点に絞り込んだ販促方法のことです。例えば、シーケンス制御全般を主力事業としている電気制御エンジニアリング会社があるとします。この企業がホームページの事業内容で、“PLCの更新”と記載しても、同業他社との差別化要素は薄く、企業担当者からすれば現在取引している協力会社ではなく新規協力会社に頼む機会やメリットは少なくなります。そこで、自社が取り扱っている技術サービスの中から、市場ニーズ・競合状況から、1点に絞った打ち出しを行うことがセグメント・マーケティングになります。前述の“PLCの更新”の例で言えば、“シーメンス社のPLC 5Sから7Sへリプレイス”と打ち出すだけで、具体的な新規引き合いを獲得する件数は格段に上がります。これはシーメンス社の制御を行える同業者の数や、メーカーの機器型番供給の時期が意思決定へ強く影響しています。また、海外製のPLCのリプレイスの対象となる機械設備は、非常に高価であり一般的なPLCのリプレイス案件よりも予算が付きやすいことも、この技術サービスをセグメント大きなポイントになっています。
そして、このセグメント・マーケティングは、同業他社との技術での差別化の促進、また、早期のエンジニアの育成にも大きな効果をもたらします。というのも、特定の商品・技術サービスに絞った販促媒体によって、集まる仕事は自然とセグメントされます。これにより社内のエンジニアが取り扱う技術に意図的に特定分野へ集中させることで、従来3年かかっていた若手の戦力化を、1年や2年に短縮させています。
リーマン・ショック後に新規顧客や新規引き合いを獲得するマーケティング目的にインターネットは、時間が経過する中で単なる販売促進媒体の域を超え、今や自社の商品・技術の研磨・深堀、人材育成の指針にまで、その活用方法が広がっているのです。すべての企業に平等に活用が可能なインターネットは、これからの国内製造業の経営に役立つことは疑う余地はなく、全ては企業や経営者の意思決定にかかっていると言えるでしょう。
■株式会社船井総合研究所チームリーダー チーフ経営コンサルタント 藤原聖悟
大手制御機器メーカーを経て、船井総合研究所へ入社。電機制御系企業に対して、マーケティング戦略、商品販売プロモーション、営業強化を業種特化で手がける。電機制御エンジニアリング会社や制御商社を中心に多くのクライントを持ち、電機制御業界の業績向上の実績は船井総研でトップクラスのコンサルタントである。