大量印刷から少量多品種へ、有版からインクジェットへと、印刷工程もデジタル化が進んでいます。インクジェット市場の現状と、印刷工程をインクジェット化するメリットについて、コニカミノルタ インクジェット事業部営業部新居久朋課長代理と丸山晶久課長に聞きました。
–インクジェット市場の現状についてはいかがですか?
右肩上がりで伸びています。これまでの印刷は、必ず「版」が必要でした。しかし版の制作には時間とコストがかかる上に、保管するための場所や費用がかかります。一方、インクジェットは版がいらず、素早く手軽に印刷ができます。小ロットや大判メデイアへの印刷、従来の印刷方法では難しいような凹凸のある素材への印刷など、スクリーン印刷から置き換わる例が多いようです。
容器などへのダイレクト印刷でもインクジェットが期待されています。
画質要求の高い日本では従来方式による印刷が主流ですが、欧米地域では容器などに対するダイレクト印刷への取り組みが積極的に行われています。ダイレクト印刷に変わることで工程や在庫管理などのサプライチェーンを改善することが期待されています。日本でも、インクジェット印刷の技術向上による高画質化に伴い、ダイレクト印刷が広がっていくことでしょう。
社会のデジタル化が進む中、版を使ったアナログ的な印刷から、インクジェットによるデジタル化という流れが全般にきつつあると感じています。
–インクジェットには、いくつか方式があります。違いを教えてください。
インクジェットは、インクの吐出原理によって「コンティニュアス方式」と「ドロップオンデマンド方式」という二つの方式に分かれます。
コンティニュアスは、ポンプからヘッドにインクを連続的に押し出すもので、高速で液滴を吐出することができます。生産ラインでの部品への製造番号の印字など、マーキング用途によく使われています。
ドロップオンデマンド方式は、必要なときだけ液滴を吐出するものです。インクを加熱して沸騰させ、その気化熱を利用してインクを飛ばす「サーマル式」と、電圧をかけると変形する圧電素子を使った「ピエゾ式」、「静電式」の三つがあります。
サーマル式は水系インクだけを使うので産業用途には向かず、家庭用プリンタが主戦場です。一方、ピエゾ式は高粘度や機能性インクを使うことができ、捺染(なっせん)など幅広く産業用途に使われています。
また印刷方式によっても「スキャン方式」と「シングルパス方式」に分けることもできます。
スキャン方式は、ヘッドを用紙に対して横方向に往復させ、何回かのパスによって画像を完成させる方式です。ヘッドの数が少なくて済み、装置を小型化できる一方、印刷速度が遅いという弱点があります。家庭用プリンタはこの方式で印刷されます。シングルパス方式は、ヘッドを固定したまま、基材を動かして1回で印刷を完成させる方式です。印刷スピードが速いのですが、色数だけヘッドが必要で装置が大型になってしまいます。
–産業用途では、どんな方式が主流なのですか?
産業用途で多いのはシングルパス方式です。包装やラベルへのマーキングなど広く使われています。加飾にも活用され、用途が広がっています。スキャン方式はカラーフィルター、3D造形など、機能を付加する用途に採用される例が増えています。
–御社のインクジェットへの取り組みについて教えてください。
弊社ではヘッド、インク、プリンタのそれぞれで、開発から製造、販売までを行っています。ヘッドは、主にプリンタメーカーや装置メーカーに販売しています。一方プリンタは、繊維業界のエンドユーザー向けに水系インクを用いたテキスタイルプリンタ「NASSENGERシリーズ」を展開しています。また、商業印刷を主とした印刷業界向けにUVインクを用いたの本格展開準備を進めています。
ヘッドは、シェアモードとMEMSヘッドの両方を開発、生産しています。これは他社にはない当社の特徴の一つです。MEMSヘッドは、2016年4月に本格的に発売を開始します。600npi、1200npiという高解像度・高周波数を実現し、グラフィックアーツなど高精細を求める用途に広がっていくと予想しています。
–今後について教えてください
産業分野では、小ロット多品種対応や短納期対応といった市場の要望に対して、リードタイムや生産ロット、在庫管理コストなどへの取り組みがますます重要になっています。これらの課題に対し、インクジェット技術の適用により、サプライチェーンの大幅な改善につながった事例が出てきています。
当社は、ヘッドとインク、プリンタといったインクジェットに関するすべての要素を手掛け、技術的な間口の広さを持ち合わせています。お客さまのアプリケーションと、当社が持つインクジェットに対する知見を合わせれば、課題を解決し、うまく価値を高めることができます。そうした提案を広げていきたいと考えています。