■圧縮空気ビジネスで躍進する独ケーザー社、競合企業との差別化
工場の生産に必要な“空気”について考えたことがあるでしょうか?
生産設備において空気は、コンプレッサーと呼ばれるローターの回転運動やピストンの往復運動によって気体を圧送する装置を通じて圧縮され、空調や冷却、乾燥など多岐にわたって活用されています。このコンプレッサーによる日本での電力使用量の割合は、なんと総電力使用量の約10%にもなるそうです。これは住宅や店舗などで使われる電灯による関東全体での電力使用量に迫る量です。
この圧縮空気ビジネスでコンプレッサー業界を躍進する企業が、ドイツに本社を置くコンプレッサー専業メーカーのケーザー・コンプレッサー(以下ケーザー社)です。同社は、半導体や食品、薬品をはじめとしてあらゆる製造業の顧客に圧縮空気を届けていますが、売上高6億ユーロ、従業員5000名弱と、コンプレッサー業界では中堅企業です。そのため大企業がひしめく中、同社の限られたリソースでは業界で優位に立つことは容易ではありませんでした。そこで同社は、サービスビジネスへの変革に取り組みました。
■ ビジネスモデルを変えた「シグマ・エア・ユーティリティ」
通常、コンプレッサーは顧客の工場が機器を購入・設置し、メンテナンスまで行います。しかしケーザー社はこの考え方を変えて、機器の企画から設置、運用、保守、修理まですべてを同社が担当するサービスを考案し、差別化戦略を仕掛けました。それが「シグマ・エア・ユーティリティ」です。このサービスを利用することで、顧客は設備や運用コストを考えることなく、圧縮空気をどれだけ使ったかだけを意識すればよくなるのです。
■ 「シグマ・エア・ユーティリティ」サービスは何がうれしいのか?
このサービスを提供・利用するということは、どんなビジネス価値があるのでしょうか。まずはケーザー社(サービス提供側)の視点で整理します。
(1) ストックビジネスによる収益の安定
ビジネスを分類する考え方のひとつに、フロー型ビジネスとストック型ビジネスというものがあります。フロー型ビジネスとは取引が一度きりのビジネスです。例えば、コンプレッサーそのものを販売することを指します。
それに対してストック型ビジネスは、契約によってほぼ毎月決まった収入が入ってくる形のビジネスです。「シグマ・エア・ユーティリティ」サービスはこのストック型ビジネス。顧客の圧縮空気の使用量に合わせて、毎月安定した収益を上げることができます。
(2) 顧客囲い込みによるさらなる提案機会の創出
システム運用、保守、修理などの業務を通して、顧客の状況をより詳細に把握することが可能です。そのため、顧客の現状の課題や戦略に合わせた新しい提案を積極的に行うことができます。また、それらの継続的なコミュニケーションによって顧客満足度を高め、サービスの更新時期の離反率を低く抑えることで、生涯顧客価値も大きくすることができます。
(3) 競合企業とのコンペにおける勝率の向上
製造業の設備機器は細かい性能や価格勝負になることが少なくありません。機器の性能以外で競合企業に勝つのが難しい場合、価格のたたき合いに陥りがちです。その場合、たとえ勝てたとしても利益率は非常に低くなりがちです。そうならないために、競合企業との差別化を明確にし、サービスの利便性や品質を訴求することで、コンペの勝率を高めることができます。
(SAPジャパン 五十嵐剛)
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