“空気を使った分だけ払う”ビジネスモデルを変革させたケーザー社(後篇)〜SAPジャパンの超リアルタイムビジネスが変える常識(9)

■景気変動に強い財務基盤構築 総コスト抑制、製造要員の負荷軽減
コンプレッサー業界の中堅企業であり、ドイツに本社を置くコンプレッサー専業メーカーのケーザー・コンプレッサー(以下ケーザー社)は、大企業がひしめく中、機器の企画から設置、運用、保守、修理まですべてを同社が担当するサービス「シグマ・エア・ユーティリティ」でサービスビジネスへの変革に取り組み、躍進を遂げました。前回に続いて、その取り組みをご紹介します。

■ 「シグマ・エア・ユーティリティ」サービスは何がうれしいのか?
このサービスを提供・利用するということは、どんなビジネス価値があるのでしょうか。前篇ではケーザー社(サービス提供側)の視点を紹介しました。今度は顧客(サービス利用側)の視点で考えてみましょう。

(4) 景気変動に対する堅牢性の向上

サービス提供側だけでなく利用側も、安定した収益を確保することは重要な課題です。従来の設備機器の購入と違って、「シグマ・エア・ユーティリティ」は圧縮空気の使用量に応じて支払金額が決まります。固定費を変動費に変えることで、景気変動に対して強い財務基盤を構築することができます。

(5) ワンストップサービスによる要員負荷の軽減

コンプレッサーを効率的に扱うにはノウハウが必要となるため、そのための教育コストや定年による離職リスクなどが存在します。また、トラブルが発生した場合にはその対処に時間がかかることも多いのです。ノウハウを熟知したケーザー社の要員に運用や保守を任せることによって、顧客側の製造要員の負荷軽減につなげることができます。

(6) 製造業務の総コストの削減

顧客側は、コンプレッサーを活用した製造業務の総コストも抑えることができます。今回のケースでは電力量がそれにあたります。

例えばコンプレッサーを複数設置している場合、各コンプレッサーの稼働率や負荷をどうするかによって、同量の空気でも消費電力が大きく変化します。そのため、ケーザー社が顧客の製造業務に合わせて最適な構成を提案し、制御を行うことによって、コストを最小化することができます。

革製品を扱うAmerIcan Leatherは、シグマ・エア・ユーティリティサービスを活用することで、電力コストを11.9万ドルから4.5万ドルへと約60%もの削減に成功しました。

■ ITの活用で“差”が出るサービス品質
ここまでサービス提供側・利用側の両方からその価値についてお伝えしてきましたが、その価値を最大限高めるためにはITの活用が不可欠です。ケーザー社のように世界100カ国以上で質の高いサービスを提供し続けるためには、グローバル共通の整った仕組みは必須といってもよいでしょう。

ケーザー社の場合、サービス事業に対応した品目管理、コスト把握などの仕組みが必要だったため、SAP ERPでその仕組みを整えました。

また、サービスを提供するためには営業部門だけでなく、運用や保守、開発部門など複数の関係者が関わります。そのためにCRMや企業内SNSを使ったコラボレーション基盤で、モバイルも活用しながら迅速に情報共有を行い、各種業務の品質向上・効率化を実現しました。

そして、近年ではIoTの取り組みとして、世界中のコンプレッサーから収集した機器の稼働状況を把握するため、SAP HANAプラットフォームを活用しています。100万を超える空気や温度、圧力などの計測値をリアルタイムに監視し、故障前にその予兆を把握すると同時に、その稼働状況を分析することで新製品開発や改良に生かしています。

■ サービスビジネスへの変革が世の中の“ムダ”をなくす
最後に、前述した「(6)製造業務の総コストの削減」について、それが市場全体に与える潜在的な可能性について考えてみましょう。

冒頭に述べた通り、コンプレッサーによる日本での電力使用量の割合は、総電力使用量の10%程度です。これを金額換算しますと、おおよそ1兆円程度と推定できます。もちろんすべての企業がAmerIca

Leatherの事例のように60%もの削減ができるとは限りませんが、仮にこの数値を適用すると日本市場全体で約6000億円の電力コスト削減機会があると考えることもできます。それほど大きなムダが発生しているのです。

実際、14年にケーザー社は米国で8.4億円以上の電力コスト削減に成功しており、電力エネルギー消費の削減にも貢献しています。

モノ売りからサービス提供にビジネスモデルを変革することによって、新しいコスト削減の新しい可能性が生まれます。

今回はケーザー社の事例に注目し、サービスを提供する側・利用する側それぞれの視点からメリットをお伝えするとともに、市場全体で数千億円規模のコスト削減可能性があることをお伝えしました。この例は電力コストだけにとどまりません。今回の記事では取り上げませんでしたが、あらゆる事業においてさまざまな形で成立するでしょう。こうしたビジネスモデルの変革は、ビジネスの新しい可能性を見いだすだけでなく、まだまだ世の中に隠れている大きな“ムダ”をなくすポテンシャルも持っているのです。

(SAPジャパン 五十嵐剛)
SAPジャパンの超リアルタイムビジネスが変える常識

http://www.sapjp.com/blog/

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