少子高齢化によって日本では全産業で労働力不足が進んでいる。2007年の団塊世代の一斉退職を契機に大きく取り上げられ、10年を経てさらに深刻さが増している。当時は、ベテラン技術者の退職による技術継承や流出が話題に上がったが、いまは人材不足とその対策が大きな問題となっている。
■製造業の57%が人手不足を実感。対策が進んでいない中小企業
経済産業省が発行した「2016年版ものづくり白書」によると、生産現場の人手不足を感じている企業は、製造業全体の57%。企業規模別でも、大企業の60%、中小企業の57%が人手不足に悩んでいる。その対策として省人化投資を行っている企業は36%にとどまり、行いたいが実施できていない企業が46%となっている。大企業は68%が何かしらの省人化投資で対策を打っているのに対し、中小企業で人手不足解消に向けて手を打てているのは35%程度。特に中小企業の人手不足と、その解消に向けた対策が喫緊の課題となっている。
現在、日本の労働力人口は減少を続けており、2060年には現在の6500万人から4792万人まで減少するという調査もある(社会保障・人口問題研究所調べ)。今後も人手不足はずっと続いていき、自然に解消する見込みはゼロに近い。企業自らが対策を打っていかないといけない状況となっている。
■普及が進む産業用ロボット。ピッキングや整列など準備工程に
労働力不足に対し、有効な解決策として期待されているのが、ロボットや機械と人との協働である。これまでロボットや機械は、人ができなかった3K作業(キツイ・汚い・臭い)を人の代わりに行ってきた。例えば自動車業界における溶接や塗装、エレクトロニクス業界における部品の装填など、主に大企業が中心となっていた。
それに対し、いま進んでいるのは、人が行っている作業を手伝うサポート役として、または人が無理をして頑張っている作業を代理として行うためにロボット、機械を導入し、人の作業負担を減らし、作業効率を上げようという取り組みである。特に、大企業でも未だに人手に頼ったやり方で行っているピッキングや整列、包装などの準備工程や、中小企業を対象に進められている。安倍首相を中心とする日本経済再生本部でも、2020年における組み立てプロセスのロボット化率を大企業で25%、中小企業で10%に高めることを目指している。
■中小企業へのロボット普及の課題
経産省では、中小企業へロボットを普及させていくためには(1)導入コストの引き下げ、(2)導入効果の見える化、(3)導入方法の明確化が重要だとしている。
ロボットは単体を購入すれば使えるというものではなく、ソフトウェア開発や動きを教示するティーチングが必須となる。そのためロボット単体価格だけでなく、それらを含めたトータルコストの引き下げが大事となる。現在、ロボットメーカー各社から、小型で安全、しかも設置やティーチングが簡単で、導入コストを大幅に削減できる「協働ロボット」が登場しており、大企業から中小企業まで事業規模、業界を問わず引き合いが多くきているという。
また効果の見える化や導入方法に対しても、経産省は実証実験などを多く行っていくことで事例や効果を示せるような取り組みを進行中。さらに、ユーザーとロボットメーカーの間をつなぎ、実際にロボットを現場に導入する存在としてロボットシステムインテグレーターの不足も課題としてあげられている。
■産業用ロボット 市場規模、過去最高
日本ロボット工業会が発表した2015年度ロボット生産・出荷実績によると、2015年の生産台数は15万3785台、出荷金額は6806億円となり、いずれも過去最高を記録した。このうち、国内向け出荷は3万7703台、輸出が11万7818台となった。
用途別では、機械加工向けの生産台数が前年比29.9%増と大幅に拡大。組み立て向けは同13.7%増。入出荷向けは26.2%増、マテリアル・ハンドリング向けが17.3%増。クリーンルーム向けが同71.8%増となった。
国際ロボット連盟(IFR)によると、2015年に全世界の産業用ロボットの販売台数が24万台を超えた。14年に比べて8%上昇し、自動車業界での導入増加が市場を牽引した。
最も販売台数が多かったのは6万6000台の中国。中国での投資環境の悪化が懸念されていたが、ロボットは引き続き堅調。中国を除くアジアでは7万8000台となった。ヨーロッパは5万台。なかでも東ヨーロッパは前年比29%増加で、世界的にロボット導入が急成長している地域となった。北米では3万4000台となり、同11%の成長となった。