■国が行うべき産業政策とは?
4月28日に経済産業省はドイツ経済エネルギー省との間で、IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明の署名を行った。これは、米独に先行されていた次世代製造業の規格化競争に対して遅ればせながらも日本が取り組んで行く意思を示したものとして一定の評価は出来る。
政府は、今後この共同声明に基づいて、IoT/インダストリー4.0に関して、日独両国間で連携していくとしているが、今回の共同声明は産業サイバーセキュリティや国際標準化などの7分野について、「可能性のある協力分野」として意見交換する土台を作ったに過ぎず、具体的な検討分野や内容などは今後詰めていくという。早急に日本政府はこの点を進めていくべきだと考える。
特にIoT関連の規制(自動運転やスマートホームを含む)の分野では、企業が研究開発や商品開発を進める上で非常に重要な前提条件となる。車の環境規制は全世界でバラバラであるが、日独政府主導でいち早くデファクトスタンダードを構築すれば、日本のメーカーは安心してこういった開発に取り組むことができる。
私は常々主張しているが、政府は必要以上に民間に介入する必要はないと思う。ただし、こういったプラットフォームや最低限の規制関連など、民間が行うことが出来ないものについては政府が中心的な役割を果たすべきだと考えている。
例えば、経産省は2005年以降、技術ロードマップ(技術戦略マップ)を作成していた。しかしながら、10年を最後にこの作成は終わっている。私の国会質問の中で経産大臣も認めているが、この技術ロードマップは民間企業等において研究開発の課題探求・探索や開発期間の決定など大いに活用できるものだ。
特に中小企業などは、親会社や元請け企業からのビジネスを脱却するために、全業態を俯瞰した未来予想図をもとに、自社の強みを生かした新たなビジネス領域を決めていく上で、教科書的にこの技術ロードマップを使うことは極めて有効である。参議院決算委員会での私の技術ロードマップについての質問に経産大臣は「これからも改訂していくつもり」と答弁をしている。新たな、技術ロードマップの改訂があり次第、読者の皆さんにもお知らせしたい。
もちろん、この技術ロードマップに沿わない新たな技術開発やマーケットトレンドなどを否定するわけではない。むしろ歓迎すべき事項だ。しかし、まず国として行うべきは5年後、10年後、そして30年後の目指すべき方向を提示することなのだ。
また、最後に先日発表された2016年版ものづくり白書(http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/honbun_pdf/index.html)でも紹介されているが、従業員100人以下の中小企業でも積極的にIoTを活用している企業が一定割合存在するも明らかになっている。
中小企業であったとしても、本日紹介したような政府の法規制や技術ロードマップの方向性を研究することで、IoTやインダストリー4.0といわれる先進的な取り組みを行うことが可能である。私としても個々の企業が積極的に新たなことに取り組んでいくことが日本全体の産業の発展に繋がると信じており、こういった活動は積極的に応援していきたい。
今回はいくつかの実例をもとに、産業政策として国が行うべき政策と行うべきでない政策について論じてみたが、参議院議員選挙も近く、こういった視点で各候補者・政党の政策を眺めてみるのも面白いかも知れない。
■山田太郎(やまだ・たろう)参議院議員
慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を活かしステーツマン(政治家)として活躍中。