■顧客の「全方位」を知る 安定成熟から次の段階に
部品や機器商品の営業マンは昨今では多くの顧客を担当している。担当している顧客の全てに積極的な営業活動をしているわけではない。長いこと営業を経験している営業マンは本来、顧客の全方位を嗅ぎ分ける嗅覚が身についてくる。その結果、軽重をもって営業活動をするようになる。昨今の営業マンの活動は今日の売り上げに偏重するきらいがあるせいか、顧客の全方位を嗅ぎ分ける能力が育ってないように見える。
かつて、現在のように売り上げに関してリピートが大量に発生せず、顧客から出てくる案件の打ち合わせがそれ程多くなかった頃に、営業マンは今日の売り上げに汗を流しながらも来月、来年の顧客の売り上げを気にかける営業にも積極的であった。気にかける営業と言っても大げさなことでなく、新たに誕生する商品資料をもって熱っぽくアピールすることであった。多くの顧客は毎年、成長し、増産があるという空気がその時代にあったからだ。来月や来年の顧客の動向を常時気にかける営業活動を通して、徐々に顧客の全方位を嗅ぎ分けるスキルを身につけていたことになる。
昨今の営業マンも新商品のカタログを持って顧客に売り込む活動をしているがあくまでも今日の売り上げアップのためである。つまり既に採用されている競合商品と比べて優位性を論理的に説明しているので、顧客の全方位を知ろうとする活動には至っていない。ひらたく言えば、ツールの使い方、商品のアピール力は勉強の成果がいかんなく発揮され、ますます上手になっているが、顧客に対する興味は薄れてしまった。今日の営業マンは顧客を訪問する以外にいろいろな仕事が押し寄せて多忙の中にいる。多忙の中で顧客訪問のスケジュールをたてる際に活動時間の軽重を今日の売上額の大小で決めてしまう。
一本調子の成長の次に安定していた成熟期が続いた。それも通り過ぎて行こうとしている。モバイル機器が流行(はや)りだしたのは最近のように感じるがその頃生まれた子供が設計者として活躍している。それ程時代の変化は速い。営業マンが担当している顧客サイドもめまぐるしく変化しているが、それを感じないのは営業が今日の売り上げ偏重に陥っているせいなのだ。営業の使命は今日の売り上げ達成であることに変わりはないが、昨今では安定成熟から次の段階に動きを速めている。いつ顧客の売り上げが減ったり、無くなったりするかわからない。不安定さをどの顧客も抱えているのだ。
今日の営業が顧客満足営業を標榜するなら、売り込み手段としてのプレゼンテーションやエンジニアリングに興味を持つ前に心底、顧客に興味を持つ活動をバランスよく織り込むことである。そうすれば真の顧客の姿が見えてくる。めまぐるしい変化の中で一過性の元気だけでなく、成長を持続させようとしている顧客はどこにいるのかが見えてくる。それらの企業に3種あり(1)海外市場を視野に入れた販路拡大型(2)新しい市場を狙う製品開発技術挑戦型(3)従来市場で君臨するために革命的Q・C・Dを作り込む製造技術型である。
戦後日本のGDPが一直線に500兆円という規模になった要因は数々あるが、その中でも製造技術がトップに挙げられるだろう。日本人が得意とするのは製造技術であるから成長持続に強い意欲を持つ多くの企業は製造技術型を重心的戦略とする。しかし、これまでのようなボトムアップ型の改善ではない。トップダウン型の革命的なイノベーションを模索するか、少量多種生産への新たな挑戦をしてくるか、製造現場に興味をもって観察すれば、いずれその気配を感ずることはできなくなるはずだ。