プログラマブル表示器(PD)は、操作表示に端末からFA装置端末、さらにはWeb端末へと機能と役割を高めている。価格が下がっていることや低価格の小型機種が増加していることもあり、金額的には以前ほどの高い伸びはないものの、堅調に市場を拡大している。FA装置端末的な役割を担うことから機能的には、パソコンやPLCと同等の機能を内蔵した機種が増えてきている一方、操作用スイッチ代わりの小型・単機能な機種も、小型機械向けなどを中心に採用が増えている。今後は、情報端末として製造現場以外での活用も増えてくることが期待されている。
■スマホと連携強化 現場効率より改善
PDは、生産現場の機械や装置などの稼働監視、モニタリング、エネルギー使用量の表示、さらに制御指示などを行うタッチパネルディスプレーとして需要が拡大している。各制御機器と直接接続することで、機器の情報を「見える化・活かせる化」し、情報を膨大に伝達することが可能で、機器の情報を最大限に生かすソリューション・システムとして活用されている。
日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、2014年度が約480億円で、15年度ほぼ横ばいとなっている。NECAの非会員メーカーの出荷金額を加えると、500億円以上の市場規模を形成していると見られる。国内外比率もほぼ半々であったが、15年度は輸出が伸び悩んだ。
台数は、15年度で約85万台と、国内の台数が年々増加傾向にある。国内では、操作パネルからの置き換えが年々進んでいることから台数増につながっている。小形の食品機械や包装機械など、従来、操作用スイッチと温度調節計、回転計、圧力計などが操作パネルについていたが、このうち、操作用スイッチ部分をPDに置き換えて使用することが増えている。
PD価格の低下、表示機能の充実や視認性、操作性の良さなどからだ。装置の短納期化、顧客ニーズの多様化などに伴い、配線工数の削減を含めたコスト低減などにも効果があり、装置の高機能化にもつながってくる。
PDはサイズによって用途が異なることが多いが、最も多く使用されていると見られる半導体製造装置や工作機械は比較的大きなサイズが使われている。
PDは、生産ラインや製造装置においてPLCの内部情報を表示、書き換える用途が主体であったため、PLCと1対1で接続し、ビット情報のON/OFFと、内部データの読み書きができれば主目的を達成できていた。
ところが近年は「HMI(ヒューマンマシンインターフェース)」「情報ステーション」としての役割がメーンとなり、装置の情報を表示するだけではなく、上位システムからの情報を表示し、現場作業者への情報伝達を行い、作業者が現場の状況を入力することで、上位システムに情報を伝達し、日報や生産管理データとして活用される事例が増えている。
また、ハードとしてのタッチパネル機能だけではなく、スマートフォンやタブレット端末との連携が強化され、生産現場とオフィスで発生するビッグデータを活用し、生産効率の改善を図るためのスマートポータルとしても機能している。
特にバーコードリーダーを直接接続できるタイプや、温度調節に必要なPID命令を実装したPLC一体型タイプ、データロガーとしても使用できるタイプは、PLCのシリアル通信ユニットや、温度調節器などの外部機器自体を削減できることから、コストダウン、機能アップといった目に見えるメリットが大きいため急速に普及が進んでいる。
PDは、その信頼性の高さと安定性、各メーカーのサポート体制と長期共有の安心感から、民生分野での活用も増えてきている。飲食店のオーダーシステムなどは、ローコストな民生用タブレットなどが主力になってきているが、駅の券売機、スーパーなどの飲料水供給装置、電気自動車の充電システム、医療用機器などの安定性と長期安定稼働が求められる分野においては需要が順調に増加している。
CPUの高速化や、メモリ容量のアップにより、表示器の段階で処理できる情報量が大幅に増加していることもあり、各種コントローラの稼働監視やモニタリング、エネルギー使用量の表示など活用される場面が増えている。エネルギー監視や管理などのテーマでは、メガソーラーなどの再生可能エネルギー分野や、スマートハウスなどスマート分野での市場拡大が確実視されており、表示機器の市場拡大につながるものと予想される。
ハードウエアとしての新機能も各社強化している。通信ポートもシリアルポート、EthrnetポートによるPLC以外の外部機器接続のほか、SDカードなどのメモリカードスロット、画面データ転送用ではなく、USBメモリ用のUSBポートが搭載されている機種も普及してきた。
加えて、指紋認証用ユニット、アンプ内蔵スピーカーなどが接続できるタイプなどもあり、作業者と装置とのインターフェースとなっている。
■同一画面データで複数言語に対応
採用する設計者の立場に立った機能も強化されている。輸出用装置の場合に必須な「多言語対応」に関しても、言語ごとに作画するのではなく、別途コメントのデータデーブルを持たせることで、同じ画面データで複数言語に対応させることが当たり前になってきている。
さらに、PLCの進化にあわせ、デバイス番号ではなく、ラベルと呼ばれる変数を用いて、作画した部品とPLCのデバイス連携が簡単にできる機能も搭載されてきている。直接接続できる機器を増やすために、多くのプロトコルに対応し、通信設定、接続方法は年々煩雑になってきているものの、それらをわかりやすくするために、各社HPでのサポートガイドページなどを充実させている。
ハード的にはパネル前面への通信ポート搭載により、制御盤を開けなくとも作画データの変更ができるようにしているタイプや、制御盤取り付けのためのパネルカットを、四角ではなく丸穴にすることで、現場での作業性を飛躍的に高めたタイプなども評価が高い。
液晶デバイスの進化による表示色数や視野角、輝度の向上なども著しいが、最近増えているのが、スマートフォンなどで採用されている「ピンチイン・アウト」による指2本での拡大、縮小などにも対応する機種や、画面サイズよりも大きな作画データを登録し、スクロールにより表示を可能にする機種も現れた。ワイド液晶搭載機種も各社ラインアップしており、使用環境にあわせた画面で操作ができるようになってきている。掃除がしやすく衛生的なフルフラットタイプや、屋外仕様の超高輝度タイプなどもあり、現場環境にあわせた使いやすさを追求している。
インターネットの普及で、PDもスマートフォンやタブレット上で、製造現場のHMI画面が操作できるソフトウエアも伸長している。特に、こうした機器を使ったソリューションは、国内に加え、欧米でも好評である。WIndows上で作動するアプリケーションに対応するタイプは、作業指示書やマニュアル確認、日報作成、データ分析など、オフィスで使っているアプリケーション・ソフトウエアが生産現場でも使用でき、現場の作業性向上に寄与する。
従来は専用ソフトで作画したデータを、専用のハードウエアで利用することが常識であったが、OSやハードに依存しないコンセプトの製品も開発が進んでいる。同じ作画データを産業用プログラマブル表示器でも使いながら、AndroId端末でも活用するなど、従来の枠組みを超えた活用が期待される。
■アジア市場でローカルメーカーと競合激化
PDは海外市場では、東南アジアを中心とした新興国市場向け需要も拡大している。人件費高騰により、自動化の設備投資が旺盛であることや、部品の小型化、高い品質要求などから、人手ではなく設備の自動化による品質アップ要求も需要を支えている。しかしながら、新興国向け装置の場合、コスト要求が厳しいばかりか、場合によっては装置に組み込まれる部品においても、現地調達が求められることもあり、日本メーカーでも、海外メーカーとの価格・サービス両面で競争にさらされている。中国、台湾などのローカルメーカーとの競合も激しく、NECAの統計でも金額よりは台数が伸び悩んでおり、こうした海外市場の状況が反映しているものと考えられる。
輸出やネットワーク接続が当たり前になったことで、新しい課題も発生している。特にウイルスや情報漏えいなどの制御セキュリティ対策は、従来のスタンドアローンの使い方では考慮することがなかったリスクのため早急な対策が求められる。
ネットワークに接続されていることは、外部からの攻撃対象に成りうることを認識し、社内ネットワーク側での制御セキュリティ対策も情報システム関連部署と連携し、しっかり構築していく必要がある。公衆ネットワークを用いながらも、仮想の専用線を構築する、VPN機能を搭載する機種も現れている。もちろん作画データの改ざん、盗用を防ぐたけのパスワード機能も年々強化されてきている。
PDは従来の「操作用タッチパネル」としての機能に特化したローコスト製品と、IT分野までをカバーする高機能製品の二極化が加速すると考えられる。同時に製造装置自体で扱う情報量が飛躍的に増加してきていることから、「パネルコンピュータ」「産業用コンピュータ+液晶パネル」といった組み合わせで使用されていた分野と、「PLC+産業用プログラマブル表示器」の組み合わせで使われてきた分野の垣根が取り払われつつあり、PDの求められる役割の重要性がより高まってくると見られる。
ビッグデータを有効活用することを視野に入れ、FAとIT両分野のビッグデータへの対応も考慮したPDの開発も進んでいる。
FA制御とITをシームレスにつなぐインターフェースを狙っているほか、クラウドやモバイルなどの要素を取り入れたPDも開発されており、今後もPDは、人と機械を仲介するベストなインターフェースとして機能が進みそうだ。