汎用インバータは、国際的な地球温暖化対応や、節電・省エネルギー化を進める機器として、堅調な拡大を見せている。モータとの組み合わせ使用されることから、各国で進められている高効率規制と連動した取り組みも活発化しており、市場拡大を支えている。製品は使いやすさの向上を基本に、小型化や操作性の向上、多機能化と用途専用化の二分化などで各社が開発を進めており、アプリケーションの多様化と合わせ、付加価値の高い使い方が増えつつある。省エネ効果と高調波対策が不要であることからマトリックスコンバータの動向も注目されている。インダストリー4.0をはじめとしたⅠoTを活用した生産性向上への取り組みを進める上で、インバータもその中核を担うものとして期待されている。
■マトリックスコンバータも評価向上
直流電流を交流電流に変換することができるインバータは、モータの最適化ができる装置として利用されている。
汎用インバータの市場は、経済産業省の機械統計をベースにまとめている日本電機工業会(JEMA)の生産統計によると、2014年度実績が620億円で前年度92.4%、15年度も前年度比横ばいの620億円となっている。16年度の見込みも624億円と前年度横ばいとなっている。
インバータとセットで使用されることが多いモータの電力消費は非常に多く、国内の電力消費の半分を占めるといわれる。逆にいえば、モータの電力消費を抑えることが大きな省エネ効果につながる。モータへのインバータ装着率は年々高まり、現在は30%程度と見られている。誘導モータ(IM)や同期モータ(PM)にインバータを装着することで、インバータが自動的に最大効率運転を行ってくれるという省エネ・省力化などの効果が、徐々に評価・浸透しつつある結果といえる。
モータのトップランナー規制は海外で先行して進められてきたが、日本でも昨年4月から「エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)」でトップランナー基準が設けられ、IE3規制が開始された。
IEC60034-では、モータの効率クラスが規定され、効率の低い順に、IE1(標準効率)、IE2(高効率)、IE3(プレミアム効率)、IE4(スーパープレミアム効率)となっている。日本は今まで、電圧幅や電流サイクルの違い、特注品モータの使用比率が海外に比べ高いことなどから、こうした高効率モータの採用が法的にも遅れていた。高効率モータとインバータを組み合わせることでさらなる省エネ効果が期待できる。
ここ数年インバータ需要を大きく牽引してきた再生可能エネルギーに絡んだPV(太陽光発電)システムによるPCS(パワーコンディショナー)も大きな波及効果を生み出している。PV電力の買い取り価格の低下や、電力会社の買い取り制限などもあり、いちどきに比べPCSの需要は落ち着きを見せているものの、まだ着工していない、いわゆるメガソーラーが相当数残っていることに加え、家庭用PVは制約がないことから今後も継続した需要が見込める。
風力や地熱などの再生可能エネルギーへの投資は引き続き見込まれることから、この面でのインバータ需要は見込める。
■操作性向上に各社工夫
最近のインバータは、性能の向上とともに誰でも扱える操作の簡便性や小型・軽量化、低騒音化、安全性、ネットワーク対応があげられ、使いやすさと省エネ性の向上が重視されている。
周波数やパラメーター設定がジョグダイヤル式コントローラーを回すだけでできる機種が一般化しているが、一方でこうした複雑で面倒なパラメーター設定を不要にしようと、ファン、ポンプ、コンベヤ、昇降機などの用途を選択するだけで、自動的に最適なパラメーターに設定できる製品もある。
各社がこうしたセットアップの容易化を目指した開発に取り組んでいるが、IoTに対応して、無線接続でスマートフォンやタブレットを使用して離れたところからパラメーター設定、運転状態などを確認できるようにした機種も登場している。QRコードを読むことで、Web情報サイトへのアクセスも簡単になってきている。Ethernet接続ポートを標準搭載する機種も増えている。
配線を簡単にするための着脱式制御端子台の採用も一般的になっているが、最近はパラメーターバックアップ機能付きの端子台を採用する製品もあり、ユニット交換時に制御配線とパラメーター設定が不要になることで、作業工数が従来品比で約5分の1になるといわれ、メンテナンスの省力化などに大きくつながる。端子台も、日本はねじ式が一般的であったが、最近は欧州方式といわれている圧着端子を使わないスプリング式が増えている。
インバータ各社とも良好なトルク特性をアピールしており、短時間最大トルクを3.7kW以下で、駆動周波数1Hz150%から0.5Hz200%が増えている。短時間過負荷耐量も200%で0.5秒から3秒にアップさせ、過電流トリップになりにくく、ねばり強い運転を可能にしている。
しかし、こうしたなかで過負荷定格を、軽負荷と重負荷に分けることで定格出力電流を調整し、最大適用モータ容量の拡大によるインバータサイズの小型化を可能にしている。
インバータとモータの関係も変化している。インバータで駆動するモータも、標準三相モータ、高性能省エネモータ、回転子に強力な磁石を埋め込んだIPMモータなどがある。特に、永久磁石埋め込み形同期モータ(IPM)や表面永久磁石形同期モータ(SPM)を使った製品が市場に投入されてきており、誘導モータに比べ7~10%効率が良くなるといわれている。
しかし従来、こうした高効率モータの駆動には専用のアンプが必要であったが、これをインバータのアンプを使い、誘導モータと同期モータのどちらでも駆動できるインバータが各社から発売され始めた。設定の切り替えで両方のモータに対応できることで、インバータが1台で済み、導入にあたっても予算に応じてモータを段階的に購入していくことも可能になる。チューニングの技術も進んでいる。
■IoT化で新たな情報端末に
省電力率、省電力量、省電力平均値などの省エネ関係の数値が、インバータの操作パネル上のほか、出力端子やネットワーク経由でも確認でき、省エネの効果が一目瞭然となる。設備メンテナンスの点から、モータ累積運転時間やインバータの運転・停止などの起動回数を自動的に積算できる機能を内蔵している。インバータは、セットメーカーの機械に組み込まれて海外で利用されることも多いが、制御ロジックのシンク/ソースの切り替えができ、グローバル対応が可能な機種も数社から発売されている。
小型・軽量という面では、盤や機械の省スペース化に対応した小型機種が、各社から豊富にラインアップされている。
シンプル構造の名刺サイズのものもあり、スピードコントローラーの置き換え需要としての搬送用途などが増加している。異なる容量でも高さ・寸法を統一することにより、盤内のレイアウトのたやすさを図った機種や、取り付け場所に合わせて「サイド・バイ・サイド」で密着して取り付け設置が可能な製品も一般化している。
従来外付けオプションで使用することが多かった周辺機器の制動ユニットやEMCフィルター、DCリアクトルなどをインバータに内蔵することで、配線工数と配線数の削減、省スペース化とトータルコストダウンを実現している。
ユーザープログラム機能を搭載したオプションカードや、簡易PLC機能を内蔵することで、パソコンを使ってインバータのカスタマイズ化が図れる製品も登場し注目されている。インバータを含めた、機械・装置の付加価値向上と周辺機器の簡略化にもつながる。
最近は、USBコネクタをインターフェイスに採用したインバータが増えている。パソコンからインバータのセットアップソフトウエアを起動させて設定の支援、高速グラフ機能によるサンプリング、ユーザープログラムのコピーユニット機能などが活用できる。さらに、ラインシステムなどでベクトルインバータとシステムコントローラーの演算制御部分を統合化した新コンセプトの商品も登場した。
インバータの長寿命化に向けて、コンデンサーや冷却ファンなどの部品寿命の長時間化設計も進んでいる。特に空調ファン、ポンプなどに使うインバータは設置するとリニューアルするまでの期間が長く、より一層の長寿命製品を求めている。各メーカーとも主回路のコンデンサー寿命は10年前後を目安にしているが、15年の長寿命をアピールしているメーカーや、インバータ劣化診断システムサービスをビジネスとして展開しているメーカーもある。
セーフティ機能の搭載も大きなセールスポイントになってきている。従来、地絡保護や瞬時停電時の自動再始動などに対して、コンタクターなどを周辺配置して対応するのが一般的であったが、この機能をハードワイヤベースブロック内蔵で、安全規格のEN954-1のカテゴリー3などに対応させた。誤操作などを防ぐためにインバータにパスワードを設定して、パラメーターの読み出し・書き換えを制限できる製品もある。メーカーが、出荷後の調整をできないようにする狙いもある。
インバータの効率をさらに高める半導体として、SⅰC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などの利用が進められている。現在のSⅰ(シリコン)半導体に比べ電力消費が約70%減少し、熱量の発生も抑えられる。インバータの小型化にもつながることから、さらなる用途開拓に貢献することが期待されている。
インバータでの省エネ、高効率モータでの省エネに加え、次の省エネとして「電源回生による省エネ化」も進んでいる。電源回生には、電源回生コンバータや電源回生ユニット、マトリックスコンバータなどの機器があり、電力を使用しながらも電力を回生して生み出すという、省エネ効果がある。このうちマトリックスコンバータは高調波対策が不要なことから小型化が可能になり、制御盤の収納スペースを半減できる効果もある。
IoT化の進展がインバータを新たな情報機器としての位置づけに変えようとしており、今後の展開が期待される。