■小型・高精度化を追求
ロータリーエンコーダー市場がロボットや半導体・液晶製造装置などの好調な需要を受け、堅調な拡大を見せている。製品は、小型・薄型化と高分解能化ニーズが求められている一方、専用化ニーズへの対応も進んでおり、ロータリーエンコーダーメーカー各社は、標準機種をそろえながらも、ユーザーごとの専用機種開発にも注力しているところが多い。このところの為替の動きはロータリーエンコーダーの需要先の動向にも大きな影響を与えそうだ。
■防爆、安全の機種増加
ロータリーエンコーダーは、モーター軸の回転量、回転角度、回転位置などの機械的変位量をデジタル信号に変換するセンサーのひとつだ。このデジタル信号を処理することで、位置、速度などが計測・検出できる。主にサーボモーターなどと組み合わせて位置決め、速度制御などに使われることが多い。工作機械やロボット、半導体・FPD(フラットパネルディスプレー)製造装置などをはじめ、バルブ、エレベーター、情報通信機器、事務機器、医療機器、建設機械、自動車など幅広い分野で使われている。
主力需要分野である工作機械の出荷がここ1年ほど停滞しており、月1200億円前後から、1000億円を割る月も出始めている。一方で、ロボットは、人件費上昇や高精度な制御などのニーズを背景に堅調な拡大が継続しており、2015年が前年比14.6%増の約6800億円、16年は同10%増の7500億円と過去最高の出荷を目指している。
半導体・FPDもスマートフォンの需要は波があるものの、IoTに絡んだ半導体需要の拡大や画像や有機ELなどの市場も広がりを見せるなど好調を維持している。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の需要予測も、16年度は9.8%増の1兆7660億円と07年以降では最高となっている。
英国のEU離脱に伴う急速な円高で、輸出環境の悪化を懸念する見方も広がっているが、日本が強い競争力を有する部分でもあることから、比較的冷静な見方が多い。
国内のロータリーエンコーダーの市場規模を正確にとらえた統計が現在のところないため推定の域を出ないが、230億円前後と見られる。リーマンショックで市場は大きく落ち込んだが、その後は、ロボット、工作機械、半導体・FPD製造装置とも徐々に回復して、ほぼリーマン前に並ぶところまで回復を見せている。ただ製品単価の下落もあり、数量の伸びに比べ金額の伸びは低く、ロータリーエンコーダーメーカー間のシェア争いは激化している。
ロータリーエンコーダーの専業メーカーは、ここ数年でほぼ集約されつつある。ロータリーエンコーダーレスのサーボモーターが登場する一方、より高分解のサーボモーターを搭載して、高精度な制御を行う動きも強まっている。また、セーフティ規格に対応したフェルセーフロータリーエンコーダーや、爆発の危険性が高い用途でも使用できる防爆タイプなど、付加価値を追求した開発も目立つ。
ロータリーエンコーダーの代表的なアプリケーションは、多関節ロボットの制御や半導体ウエハの移載ロボット制御、工作機械のマシンツールの割り出し、エレベーターの速度・位置制御、病院のCTスキャナーのベッド位置決めなどが挙げられる。
また、移動体通信基地局のエリアコントロール、電気自動車などにおける車載機器のコントロール、クレーンなど建設機械の旋回座コントロールなどにも応用されている。
ロータリーエンコーダーは、検出方式で大きく光学式と磁気式に分かれ、市場では8割が光学式、磁気式が2割ぐらいと見られている。光学式はノイズなどに強く、磁気式は油・水など耐環境性に強いという特徴を持っている。さらに、位置検出方法で、絶対値のアブソリュート式と相対値のインクリメンタル式がある。インクリメンタル式と、アブソリュート式それぞれに特徴があることから、用途別に使い分けがされている。
回転角度をアブソリュートコードで出力し、絶対位置を直接検出できるアブソリュートの機能を求める用途が徐々に増えているが、コスト的にもアブソリュートはデータ量が多くなることもあり高くなる傾向がある。これに対してインクリメンタル式は、パルス数をカウントして相対位置を算出するもので、速度制御や高速制御用途に適している。
■専用ニーズへの対応進展
最近のロータリーエンコーダーは、小型・薄型化、高分解能化、安全対策機能などが進んでいる。
高分解能化では、分解能の設定をユーザー側で自由にできる機種もあり、パソコンとつないで1刻みで設定が可能で、使用用途に応じた制御ができる。小型化では外形サイズφ18ミリ製品が発売されて、小型化に拍車がかかっている。
機械安全や防爆対応など、安全用途を狙った機種も増えている。機械安全では、IEC61508のSIL3に準拠した高い安全性を持つロータリーエンコーダーは、パイプを切断するのこぎりの回転運動検出などマシン安全操作のアプリケーションに対応している。防爆タイプのロータリーエンコーダーは、爆発危険領域でもロータリーエンコーダーの使用が増えつつあることに対応している。
さらに各種フィールドネットワークに対応した製品も出てきた。他のFA機器と同様に、ロータリーエンコーダーもオープンな通信環境で使用できるように通信機能を内蔵して、全体の制御を容易、かつトータルコスト低減につなげようというもの。
ロータリーエンコーダーのコスト低減と、信頼性向上のために部品点数を減らす取り組みが進んでいる。ロータリーエンコーダーの心臓部ともいうべき半導体部分をカスタムICからASICにすることで半導体の共通化を図って、自己診断機能の内蔵といったインテリジェント化と、トータルコストダウンと長期安定供給を実現しようという動きも見られており、将来的にはワンチップエンコーダーなどの開発も志向されている。
ロータリーエンコーダーの市場は、メーカーの寡占化と用途の専用化で特色を出す取り組みが著しい。コスト低減を狙いに中国など海外生産も増えているが、高機能品や特注品などの生産は依然国内が主流となっている。
こうした取り組みは為替の動向とも絡めながらフレキシブルな対応が求められるだけに、今後の展開が注目される。