■営業の健全な精神とは「数字にこだわる精神」
部品や機器商品営業の草創期には、昨今ではあまり使われなくなったノルマという言葉がよく使われていた。営業マン同士の会話の中で「ノルマはあるの」とか「君のノルマは幾ら」などの表現がよく使われた。
耐久消費品や保険関係の営業は同一顧客からのリピート注文が期待できないため、営業マンの目標売り上げ達成度は厳しく管理され、ノルマという言葉で表現されていた。同一顧客からリピート注文の入る部品や、機器商品営業でも草創期にはイチかゼロといた不安定な顧客が多かったため顧客への訪問を繰り返し、月末ぎりぎりで何とか目標売り上げの達成に漕ぎつける日々の連続であった。そんな苦労がノルマという言葉になっていた。
そもそもノルマという意味は一定の時間内に割り当てられた一定の作業量のことである。ノルマという言葉が使われだしたのは第2次大戦後にロシアに抑留された人々が帰国後に使って広まったと言われている。ロシア抑留中の過酷な労働の強制にノルマという意味が込められていたから悪意のこもった言葉となっていた。
厳しい売り上げ管理をしている業界の営業では今でもノルマという言葉が会話に登場しているのであろうが、部品や機器商品営業では月末に営業マンの目標売り上げの詰めをするような厳しい管理は一般的になくなっているから、ノルマという言葉は死語になっている。
ノルマという概念が営業からなくなっても、営業マンは数字にこだわる習性をもつものである。営業が営業であるゆえんは、数字へのこだわりだと言える。数字へのこだわりをなくした営業は、健全な営業ではない。真面目で、サボらない勤勉性は、国を支えるための健全な精神であり、国力発威の精神であるが、営業の健全な精神は、真面目でサボらない勤勉性があっても健全とは言えない。営業の健全な精神は、数字にこだわる精神である。
部品や機器商品の営業マンは、年間の売り上げ目標を与えられている。だから毎月の目標となる売上数字を意識した営業活動をしている。しかし草創期のようにノルマ化して月末の数字の詰めにあくせくする営業マンは少ない。草創期から成長期に移行してから月々の売上数字の詰めをしなくなった。厳しく数字の詰めをしなくとも売り上げが拡大した時期であったからだ。それでも数字にこだわる習性を身につけていた営業マンはキャンペーン期間の数字にこだわり、懸命に活動をした。そのこだわりは、どこかにノルマ的なこだわりがあった。
成長期が峠を越えて成熟期に入って久しい昨今では、期間が限定されるキャンペーンでも通常月と大差のない営業活動になって、期間の中頃や終盤に結果数字を知る程度のことになっている。つまりノルマ的こだわりを持って走ってない。月々の売り上げやキャンペーンに対する数字へのこだわり方に必死さがなくなってしまった点を捉えれば、営業の健全性がなくなってしまったことになり、営業マンに健全性がなくなれば不連続の時代では売り上げは時間をかけて減退してゆくことになる。
しかし数字と言えば、月々の目標売り上げやキャンペーン数字だけではない。営業部門がもくろむ戦略やそれに基づいて実行される戦術が、新しい数字をつくってゆくのである。例えば、守りの営業から攻めの営業への転換をもくろんだら(1)毎月40人の開発技術設計者と面談する。(2)現状親派の開発技術設計者が少なかったら毎月5人の設計技術者を発見し今期は30人の親派づくりをするなどである。単に、数字を管理するだけでなく、各目標の数字にこだわりをもつ営業は健全である。