■インダストリー4.0とは
ご存知のように「インダストリー4.0」とは、ドイツが製造業を中心とし、国策として打ち出しているモノ、データ、サービスのすべてがインターネットでつながる世界へと導くコンセプトである。現時点ではまだコンセプト段階だが、ものづくりに関する情報と関連するプラットフォームを握ろうという戦略が見え隠れする。
インダストリー4.0をものづくりサイドからみるとキーワードは「連結化」「自律化」「多様化」「最適化」(下図)と大きく4つある。
「連結化」では情報で顧客と企業、自社とサプライヤー、設備と設備、設備と全体システムをつなぎ、固有仕様を量産のように製造するマスカスタマイゼーションに対応など付加価値を高めていく。このマスカスタマイゼーションに対応しつつ効率化を目的に製品ハードはモジュール化を推進するシナリオである。
「自律化」という観点では、ビッグデータを用いて、品質向上および稼働率向上などを学習型アルゴリズムを用いて、自律的に良化することなどがある。
「多様性」では、先にも述べたようにマスカスタマイゼーションを行い、顧客の多様性に対応し付加価値を得る。また、労働力の多様性にも対応していくシステムを構築していくことなどがある。
「最適化」という観点では、ビッグデータの活用・商品ログの活用などによる売上予想、投資判断、商品開発のダイレクトマーケティングなど諸々あり、製品・工場などのシミュレーションなども結合していく。
インダストリー4.0では「経済的もしくは経営的効果は本当にあるのか?」という疑問がよくある。具体的な数値では示せないものの、項目としては下図の項目があげられる。ただし、前述の「◯◯化」を行おうとした場合、ビジネスのチャンスもあると思われるが、巨大な投資も必要なことも想定される。
経済的・経営的な効果は読めず、コンセプト段階であるが、コンセプトを挙げ実現していく、そして産業にしていくという面では、ドイツ発のERPが記憶に新しいのではないだろうか。彼らは標準化を行い、必ず産業へと推し進めていくと私見ながら思うところである。
■どう向き合うか
日本の製造業として、インダストリー4.0にどう向き合えばよいか。上記のようなプラットフォームや標準を取りにいきたいところであるが、冷静に考えると一企業が動くレベルでは難しいだろう。
企業連合や国などのレベルで動く必要がある。また、タイミングとしてもすでに出遅れ感があり、シーメンスなどはIECの通信規格をとる動きもあるようである。
それでは日本の製造業が八方塞がりかというと、やはり強みを活かす戦略はあると考える。強みは、個社で言えば、やはり製品ハードをつくる力、組織力で商品性も高めながら量産工場での生産性も高める力があること、止まらないラインなど生産の力を極限まで引き上げられる基盤力・エンジニアリング力・改善力があること、である。また日本メーカーは、ロボット、NC、シーケンサーなど生産に関わるキーデバイスや工作機械などのマザーマシンを持っていることが、強みとして生かすことができる。若干、過去の「ものづくりの神話」に聞こえるかもしれないが、次代を見極め、これらを高めて組み合わせてものづくりの力を上げることが競争力になると考える。
■石田 秀夫
日本能率協会コンサルティング 生産エンジニアリング革新センター センター長シニア・コンサルタント
大手自動車メーカーの生産技術部門の実務を経て、JMACに入社。ものづくり領域(開発・設計~生産技術~生産)のシームレスな改革・改善活動のコンサルティングに長年従事。生産技術リードでものづくりを変え、それを企業の段違いな競争力にするコンサルティングを推進中である。近年は日本版インダストリー4.0や生産戦略/生産技術戦略、ものづくりグランドデザインを主要テーマにしている。