クラウドコンピューティングが騒がれた際、旧来あるネットワークコンピューティングやユーティリティコンピューティングの焼き直しなどといわれることがあった。IoTも似ており、同様の概念はユビキタスというキーワードとともに過去、論じられている。その点では、IoTの概念は20年前から構想されてきたともいえ、いよいよ実現が近づいてきたと捉えることができる。
IoTが、ここへきて注目されているのは、さまざまな要素技術が実用段階に入ったことが大きい。今はまだIoT時代の入り口であるが、今後、20~30年にわたり、実用化が進展していくものと考えられる。ただし、その一部は既に実現されている点も忘れてはならない。
さて、ここで簡単にインターネットからクラウド、ビッグデータ、IoTへと至る大きな流れを振り返っておく。
インターネットは、回線速度の向上、端末の普及、利用者数の急増、新たなビジネスの誕生といった大きなうねりを生み出してきた。チップメーカーは、ムーアの法則に基づき年々、低価格化と高性能化を同時に実現させ、端末の普及とともに新たなサービスやビジネスを生み出すという好循環の中で、インターネットは今ではなくてはならないインフラとして認識されている。
クラウドコンピューティングもそうしたうねりの中で生まれた。インターネットに接続するユーザー数が増えれば増えるほど、クラウドコンピューティングの価値は高まり、だれもがインターネットに接続できる現在の環境下では、クラウドコンピューティングはもはや必須の技術/サービスとなっている。
クラウドコンピューティングも、以前よりユーティリティコンピューティングなど同種の概念として語られていたが、ネットワークの高速化や仮想化技術、自動化技術の発展がそれを実現させたといえる。
そして、クラウドという中央集中処理のシステム像は、ビッグデータというアイデアを生み出した。筆頭はGoogleであるが、検索エンジンサービスを提供する裏側で培われたビッグデータ技術は、日進月歩を遂げながら発展し続け、インターネットや金融、通信事業者といった大量データを扱う事業者にとって、競争差別化のための新たな武器となっている。
このビッグデータだが、最近は大きく二つに分けて捉えられるようになってきている。それはM2MとP2Pという分け方だ。情報の発信・受信の主体を機械と人で捉えなおした考え方である。
機械と機械が通信しながら行うような分野(M2M)と、主に人が受発信主体となる分野(P2P)とでは扱うデータなどが異なっており、同じビッグデータという枠組みではあるものの、昨今では分けて整理されている。抽象的なビッグデータという概念が、より具体的に整理されてきたと考えればよい。
このうち、M2Mを内包しながら語られているのがIoTである。M2Mは文字通りに表現すれば、機械と機械とのコミュニケーションを指し、基本的には通信デバイスを軸にした概念となる。しかし、IoTといった場合、対象はもう少し広くとらえられているようだ。識者により異なるが、例えば2次元バーコードを介して間接的にインターネットに接続するような仕組みでも、それが自動で行われるならばIoTとしているようだ(例えば、コンベアを流れる製品にバーコードがあり、自動スキャンして部品を照合するなど)。この辺りは、あまり厳格にこだわる必要はないだろう。
ただ、IoTという概念によって、インターネットに接続するモノの対象が一気に拡張された点は重要視したい。スマートフォンやコネクテッドカーのみならず、今後は腕時計やメガネ、シューズ、歯ブラシ…あらゆるモノが接続対象とみられるようになった。概念拡張により、これからは今までとは比べ物にならないほどのデータがあらゆるモノから発せられる、というように考えられるようになった。
そのような時代、つまりIoTの時代において、果たしてわれわれの生活は、仕事は、医療は、エネルギーは、どのように変わるのかが論じられているのが、まさに今なのである。
『2015 IoT時代の製造業ITソリューション -インダストリ4.0など次世代ものづくりとITベンダの戦略-』(矢野経済研究所 180,000円)より一部転載
■矢野経済研究所 主任研究員 忌部佳史
2004年矢野経済研究所入社。情報通信関連の市場調査、コンサルテーション、マーケティング戦略立案支援などを担当。現在は、製造業システムなどを含むエンタープライズIT全般およびビッグデータ、IoT、AIなどの先進テクノロジーの動向調査・研究を行っている。経済産業省登録 中小企業診断士”