不連続戦線に異状なし(51) 黒川想介

■パーキンソンの法則 油断すれば進行の恐れ

フランス革命以前は軍を構成する兵は傭兵だった。お金はかかるし、待遇に気を使わなければならなかったので大軍の編成は大変なことだった。フランス革命によって国民に兵役義務を課す徴兵制度ができた。それによって無制限に大量の兵を容易に招集できた。ナポレオンは大軍を分割して師団編成にした。師団というフランス語は「デヴィジオーン」つまり分割という意味である。ナポレオンは師団による用兵術を最初に駆使した人なのだ。

師団は独立して動くため、各師団を最高司令官に結び付けなければならず、そのために高度技能を持って膨大な業務をこなす専門家集団が必要となった。これが現在、テクノストラクチャーといわれているスタッフの始まりである。しかしナポレオンは自分の天才性を信じ、相談する作戦参謀を持たず命令した。したがってスタッフといっても命令を処理する技術将校にすぎなかった。実際にスタッフの重要性を理解し養成したのは敵側であるドイツ参謀部であった。

現在の営業戦線で華々しく活動しているNECAという業界団体がまだ生まれたての頃、そこに所属するメーカーにはスタッフらしいスタッフがいなかった。販売サービスというスタッフはいたが、営業部門長の命令を処理する集団であった。まだ営業の部門長が直接に市場や自部門の営業を掌握できる範囲だった。市場が広がり、複雑さを増し、営業も大勢になると営業部門長1人の管理スパンを越えだした。

ところでパーキンソンの法則というものがある。英国の学者パーキンソンが英国海軍を調査した時に発見した法則で、1995年に発表された。それは、第2次世界大戦後の平和時に戦闘員は一定であったが、スタッフは毎年増え続けているというものであった。スタッフの仕事は使える時間がある限り、どんどん膨張するという法則なのである。

パーキンソンの法則はその後バリエーションが追加されてきた。追加の内容は(1)支出は収入いっぱいまで膨れ上がる。(2)成長すると組織は複雑になり、複雑になると衰退に向かうなどが追加された。まさに現在の公務員に当てはまる法則であるが、成熟社会に達している日本では、民間企業においても油断していると程度の差こそあれ、パーキンソンの法則のように進行する恐れがある。

ものづくりの現場では、自動化によって大幅な人員の削減に成功した。その後、高度自動制御化に移っていく過程で、製造現場で働く人員の増減は見られないのに、現場以外の工場スタッフは毎年増えていく。これは成長していく過程で組織が複雑になって、それに対応するためにスタッフが増えていくのである。

企業は公務員と違って仕組みが複雑になっても付加価値が増えなければ人は増やせないはずである。したがってスタッフが増えているということは、スタッフが増えた分、将来的に付加価値が上がると見込んでいることになる。製造現場では人を増やさず生産効率改善、付加価値アップを目指しているが、そこで発生した付加価値をスタッフの人員増で消してしまうことになれば意味がない。経費削減運動では追いつかない。パーキンソンの法則をかみしめるべきである。

市場の第一線にいる営業も同じ傾向にある。戦場の兵士は同じことの繰り返し経験で強くなっていくように、現在の営業も日常のルーティンを次々と処理し、顧客満足を上げる経験で物売りとして精鋭化していく。そのため複雑多様化する市場の探索、分析は専門スタッフに委ねるようになる。スタッフの人数は売り上げ増とはあまり関係なく増えていく。スタッフの人数が増えた分、付加価値が増えるあてがあるのかどうかを検討した方が良い。

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