■インフラ整備へ投資継続 IoT関連需要の拡大に期待
ボックス・ラック・キャビネットの需要でこのところ目立つのが、IT機器、インターネット、LAN、CATVなどに用いられる通信機器を収納するためのシステムラックがデータセンター・サーバルームなどで大量に採用されている。サーバラックは、サーバ・ストレージなどを収納するためのラックで、ケージナット対応のマウントアングルが前後に装備され、ラックマウントタイプのサーバを確実に固定できる。大量のケーブルを効率的に管理して、アクセススペースにより運用の効率を向上させるタイプもある。
ネットワークラックは、LAN構築用のネットワーク機器(パッチパネル・HUB・スイッチ・ルータ)を専用に収納するラックで、外装パネルの取り外しやオプションによる配線処理を考慮した仕様になっている。
大幅な需要増が見込まれるIoTを、都市や道路、公共空間や屋外施設などの、さまざまな屋外環境で構築するための熱対策を施したボックスも今後市場が伸長しそうだ。ファン、避雷器、電源、監視カメラ、センサやデバイスをIoTシステムと接続する装置などを内蔵し、電波透過性に優れた高強度・難燃性樹脂、高い防水・防塵性と内部機器熱対策で内蔵機器を守っている。
HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)と連携して家中のエネルギーの「見える化」を進める通信計測ユニット用のボックス、地震時の防災機能を高めた感震リレー付ホーム分電盤関連も今後、需要が見込まれる。
セキュリティが高いICカードによる開錠システムで安全性を向上させたり、強度や防錆性をアップして基本性能をより高めたりして、ユーザーのニーズに応えていく動きも見られる。
国際化に関しては、ボックス・ラック・キャビネットにおいても安全規格の合致、輸出、国内外仕様統一の要求が高まっており、CEやUL規格などの取得の動きが進んでいる。
筺体メーカーでは、耐震試験、短絡試験、防塵・防水試験、日射試験、EMC試験、環境試験など十分な試験検証を行い、安全性・高品質を追求した新製品を開発、より安全で使いやすい製品改良にも結び付けている。
ユーザーの利便性を高めるために、制御盤用キャビネットの穴加工・見積もり・発注などが、web上で簡単に行えるサービスの提供も各社で始まっている。納期も短縮できるということで、好評を博している。
あらゆる電子機器を収納するボックス・ラック・キャビネットは分電盤、制御盤、弱電機器収納など使用目的が幅広く、家庭、学校、オフィス、工場、病院などさまざまな環境に設置されている。生活、企業活動などに欠かせないものであり、景気の影響もそれほど受けることがない。今後もIoT機器関連、大震災対策の耐震ラック、ネットワーク・移動体通信関連、HEMS関連などを中心に市場拡大が見込まれる。
配電機器、制御機器、各種コンピューターシステム機器などを収納するボックス・ラック・キャビネットは、電力、自動車、電機・電子、情報通信、データセンター、石油化学、各種施設、ビル、環境装置、工作機械、食品・医薬品・飲料、半導体、液晶、計測、放送設備、医療、交通などあらゆる業界で使用されている。
屋内や屋外において、外部の環境から内部機器を保護するとともに、内部機器への直接接触に対する保護を行う重要な役割を担っており、そのニーズはますます高まっている。特にIT業界で注目が高まっているIoT関連機器の収納用、電力消費量の増大、それに伴う熱問題対策が課題のデータセンター用の市場が拡大している。社会インフラ分野ではスマートグリッド機器、太陽光発電システム、FA分野では省エネ関連機器、ホーム分野では分電盤、計測器などを収納するボックスの需要が増えている。日本各地で発生している地震などの揺れに対応して、耐震、制震、免震性を高めたラックの需要も高まっている。ただ、昨年までボックス需要を大きく牽引していたPV(ソーラー発電)システム向けに一時ほどの勢いが見られなくなっている。しかし、メガPVの申請のうち、相当数が未着工として残っていることや、家庭用PVの普及へ住宅メーカーが注力していることから、これからも継続した需要が見込まれている。
ボックス・ラック・キャビネットの最近の製品動向は、熱対策、地震対策、軽量化、省施工性、防塵・防水性、セキュリティ対策などに重点を置いた開発に取り組まれている。顧客の海外進出、輸出などの動きに合わせて国際規格への対応なども不可欠になってきている。
顧客サービスとして、穴加工の図面作成をweb上で作成可能なシステムを活用した短納期対応などに重点が置かれるようになってきた。
電気、電子機器収納用のキャビネットは、内部機器を外部環境から守るだけでなく、使用する人間の安全の確保が必要で高い信頼性が要求される。分電盤も電気の安定供給に必要不可欠なものとなっており、その供給電路には高い信頼性が要求されている。しかし、近年、内部収納機器や設置環境が多種多様になっていることなどから、さまざまなトラブルが発生するケースが少なくない。
トラブルの一例として、屋外でもエントランス内などに屋内用のキャビネットを選定したところ、軒下から屋内側への強風により雨が吹きつけ、内部に水が浸入するという例もある。この場合、通常の雨にさらされることはなくても、台風などの強風時に雨が下から入り込み、雨にさらされることがあるため、屋外用のキャビネット(IP23以上)を選定し、仮設用途の場合はIPX3以上のものを選定する必要がある。
海岸線に鉄製のキャビネットを設置した場合、塩害地域だと短期間で赤さびが発生する場合があるが、金属製キャビネットでは、耐塩仕様、重耐塩仕様の塗装を施したものを選定、もしくは合成樹脂製ボックスを選定する必要がある。
また、積雪量の多い地域の道路脇に鉄製のキャビネットを設置した場合、道路にまかれる融雪剤により短期間でさびが発生するケースが見られるので、金属製キャビネットに耐塩仕様、重耐塩仕様の塗装を施したものを選定するか、合成樹脂製ボックスを選定する。
炎天下にキャビネットを設置した場合は、内部温度が上昇、機器が動作不良を起こす可能性があるので、淡色系を選定したり、換気口のあるキャビネットを選定したり、ルーバー換気扇などのオプションを取り付けたりする必要がある。
特殊な温度環境でのトラブルとしては、船舶の機関室内に合成樹脂製ボックスを設置したところ、周囲温度が高くなったため、変形したというものがある。対処として、高温環境下に設置せずに、耐熱性に優れる材質のものを選定すればよい。
このようなトラブルに対応するため、ボックス・ラック・キャビネットは材料に工夫が凝らされ、技術的には、地震対策、熱対策、軽量化、省施工、防塵・防水性、粉体塗装などがより高められた製品が開発されている。
材料については、通常の使用状態で生じる機械的、電気的、熱的、化学的影響および、湿度の影響に耐えるような材料でなければならないとされており、使用条件を考慮して、適当な材料の使用、メッキ、塗装、その他の方法で有効にさび止めするということになっている。
材料のスチール、ステンレス、アルミ、樹脂などには、それぞれ特徴がある。スチールは重いが、耐久性に優れており、多種多様な機器を収納できるシステムラックなどにも適している。ステンレスは、耐食性、耐候性に優れる。
樹脂製のボックスは、軽くて絶縁性に優れ、さびにも強いので、沿岸地域を初めとする特殊環境などでも活用でき、電波を通すので無線アンテナの収納にも適しており、需要が伸びている。近年はさまざまな種類の樹脂が使用されている。
地震対策としては、耐震、免震、制震がある。耐震は容易な地震対策の一つで、地震の揺れに耐え、構造物の倒壊を防ぐ。耐震対策を施したラックは強固で倒壊する心配はないが、地震時の機器への負担が一般的に大きくなり、機能保護には対応していない。免震は構造物と設置面の間にベアリングやすべり材を設置し、構造物に直接揺れを伝えない。制震は、超高層ビル・住宅や橋梁などに実績がある揺れを吸収する最新技術。制震ラックは制震ダンパーが変形することにより、地震エネルギーを吸収し、ラック内の揺れ、および変形を低減し、連続する大地震にも効果を発揮する。
熱対策としては、屋外用では遮光板を設け直射日光による温度上昇を抑えたり、扉やボディに換気口を設け、放熱効果を高めたりしているものがある。パンチング材の採用により通気性を持たせ、天井面のスリット加工と突き出し扉の上面スリット加工により、天井コーナー部の熱がスムーズに排出され、背面から抜け出せずに回り込んだ熱が突き出し扉の傾斜面からスムーズに排出される仕組みをとったりしている。
軽量化、省施工の利点としては、薄板などを使用した軽いボックスは、高所などでの施工性が高まる。軽量の場合、外壁への取り付けなども楽に行える。
塗装には粉体塗装がよく使用されている。耐久性(耐候性・耐塩性)に優れた高厚膜が得られ、塗料は回収して使えるため無駄がなく省資源にもつながり、有機溶剤を含まないため環境にやさしい塗装となる。
ボックス・ラック・キャビネットなどの筺体関連機器の市場が依然堅調に推移している。社会インフラ整備に向けた投資が継続していることに加え、省エネ化に向けて取り組みが各方面で進んでいることも、市場拡大を後押ししている。耐震性、ノイズや熱対策、セキュリティ性の向上などに向けた改良も継続して取り組まれており、これからも安定した成長が見込まれている。