今メーカに求められるパラダイムシフトとは(前編)~SAPジャパンの超リアルタイムビジネスが変える常識(10)

「デジタル化」と「オムニチャネル」がサプライチェーンモデルを変える 

■鮮度高い顧客ニーズ収集 「正常進化」に必要な「経営資源」

最近は「デジタル化」とか「オムニチャネル」というキーワードを聞くことが多くなりました。こういったキーワードは、小売業界ではとても身近ですが「サプライチェーン」との関係を考えたことがある人は意外に少ないかもしれません。しかし、実際は大きな変化が起きようとしているのです。

■「デジタル化」と「オムニチャネル」が企業と消費者間の距離を近くした

アナログ時代は、企業から消費者に情報を一方的に発信(アウトバウンド)が中心であり、顧客からの反応(インバウンド)は、店舗など「対面チャネル」を持つ企業に集まっていました。しかし、これらの反応情報は断片的であり、しかも情報をシステムに登録するのに膨大な時間もかかるため、顧客分析の品質もそれほど高いものではなかったわけです。反応情報はタイムリーに収集できなければ、日々変化する消費者ニーズに対応した商品提案も難しく、結果として、どの消費者にも「同じ内容」を「同じタイミング」で発信する「マス広告」に頼るしかありませんでした。それでも多くのメーカでは少しでも多くの「顧客の声」を集め、商品開発や需要予測を行うために、フォーカスグループの構築や製品アンケートの実施をしたり、小売りや流通業との強いパートナーシップを構築していたのはご存じの通りです。

そんな時代に登場したのが「デジタル化」と「オムニチャネル」でした。これらがもたらしたイノベーションは「業種を問わず、企業と顧客の距離を近くできること」にありました。「デジタル化」は「消費者から鮮度の高い情報をリアルタイムで収集」するだけでなく「情報を双方向でやりとりすること」も実現可能にしました。また「オムニチャネル」は、情報の伝達をデバイスやチャネル、個人、組織、企業、国の壁をいとも簡単に突破することを実現可能にしたのです。このブログを読まれている方も無意識で行っていると思いますが、消費者が欲しい商品をWebで検索するとき、消費者は小売りとか、メーカだとかの壁を意識しているでしょうか。Webではそうした壁をいとも簡単に飛び越え世界中のWebサイトを簡単に飛び回ります。そして商品情報、競合製品との比較、価格の比較、実際利用しているユーザの口コミなど、必要な情報をいとも簡単に収集しているのです。こうした消費者の動きは「カスタマージャーニー」と呼ばれています。

※カスタマージャーニー

顧客は必要な商品を購入する際、どのタイミングでどのチャネルから情報を得ればよいかを知っています。また収集した情報は個人で利用するだけでなく、興味を持っているネット上のオーディエンスにソーシャル等を通じて共有されます。チャネルを超え、デバイスを超え、会社を超え、国さえも超えた情報共有をいとも簡単に実現します。これもデジタル化とオムニチャネルによる革新です。

■「デジタル化」と「オムニチャネル」はサプライチェーン構造も変化させている

こうした「デジタル化」と「オムニチャネル」の技術革新は、サプライチェーンにも大きな影響を与えていることをご存じでしょうか。サプライチェーン上に存在する企業が顧客との距離を縮めていくということは、サプライチェーンのモデルが上流から下流に流れる「直線的なチェーン」から、顧客が中心にあって企業が周りを取り囲む「包囲的なチェーン」に変化することを意味しています。

■デジタル化とオムニチャネルによるサプライチェーン構造の変化

このようなチェーンモデルの変化によって、従来サプライチェーンでは顧客から遠い位置にいた「メーカ」が顧客との距離を縮めることになり、結果として小売業と同様の鮮度の高い顧客ニーズをリアルタイムで収集可能になったのです。これがメーカにどれだけ大きなメリットになるのかを考えてみたいと思います。

例えば鮮度の高い顧客ニーズを利用したメーカでは、次のようなメリットがあると想定されます。

*商品の研究開発投資の最適化
*需要予測の精度向上
*小売りチャネルとの関係強化
*消費者向けサービスの利便性向上、顧客エンゲージメントの強化
*企業、業界間を横断したアライアンス促進

しかし、同時に以下のような経営課題に対応していく必要も起こりえます。

*新しいチェーンモデルを活用したビジネス提案ができる「組織」の設立や「人財」の育成
*新しい経営評価指標の検討
*チェーンモデルや顧客ニーズの変化に柔軟に対応できるITプラットフォームの整備
*膨大な顧客情報を「蓄積」から「活用」に変える顧客分析や予測分析(機械学習)の検討
*顧客情報の管理を超えて絆(カスタマーエンゲージメント)を構築するための施策実施

これらの課題はリスクではなく、企業が「正常進化」する際に必要な「経営資源」になります。

■SAPジャパン田中義幸

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