■製造業の強さと生産技術
第2回ではインダストリー4.0の良い要素も活かしつつ、日本の「強み」を活かしていくことが大切であると述べた。その「強み」とは、日系ものづくり企業と海外勢を比較すると「ものづくりの基盤力の強さ」「生産技術力の強さ」「組織力の強さ」である。その中でも今回は「生産技術力の強さ」について考えていきたい。
■「生産技術の未来」アンケートから見えるもの
今回のコラムでは、2014年に行われた日本能率協会(JMA)の廣瀬主幹を中心に筆者も協力して行った「生産技術の未来」のアンケート調査をベースに論じていきたい。
このアンケートは、JMAの会員企業のうち製造業を対象に行ったものである。回答数は307件で、回答者の特性として大企業が比較的多いことや、職位としては課長以上の回答者が多いことがあげられる。また、業界は日本全体の業比率とほぼ近似している。
それではアンケート調査の内容を述べていきたい。まず、個人的に興味深かったのは、企業業績と「生産技術部門の社内認知度が高い」という項目の相関性が高かったということである。社内認知度が高いということは、生産技術部門が活躍していると容易に推察できる。もう少し解釈を広げると、少々雑ぱくであるが、「量産することがうまい」とも言える。この「量産することがうまい」ということは、量産しやすい生産設計(商品性も活かしつつ、生産しやすい設計)にしていることや、量産のための設備やライン、そして生産方式などの「生産システム」をうまくつくっていると推察できる。この仮説をアナロジーし、社内認知度が高い生産技術部門とはどのような特性があるのか、掘り下げていきたい。
■生産技術部門の「新三種の神器」とは
社内認知度が高い生産技術部門について、アンケートの回答をもとにモデル化したものが下図である。
社内での認知度が高い生産技術部門ほど、良い製品づくりのための「コンカレント・エンジニアリング(CE)」に積極的に取り組み、「シミュレーションやIT・バーチャル技術」を積極活用している傾向がある。さらに、生産技術開発(工法・設備)にも積極的に取り組み、その満足度も高いというものである。
確かにこの3つがしっかりできている会社は「ものづくり」に強く、生産技術部門も強く、事業貢献していると実感する。誠に勝手ではあるがこの3つを生産技術部門「新三種の神器」と名付けたい。
この「新三種の神器」についてはある意味では生産技術部門のファンダメンタルな部分であるが、コンサルティングの現場で多くの会社を見させていただくと、「知っている」「できているつもり」が多いことを改めて思う。コスト低減や品質向上などの目的・目標に向かって、トコトン実施しているところは、やはり事業貢献度合いも高い。
■石田 秀夫
生産エンジニアリング革新センター センター長シニア・コンサルタント
大手自動車メーカーの生産技術部門の実務を経て、JMACに入社。ものづくり領域(開発・設計~生産技術~生産)のシームレスな改革・改善活動のコンサルティングに長年従事。生産技術リードでものづくりを変え、それを企業の段違いな競争力にするコンサルティングを推進中である。近年は日本版インダストリー4.0や生産戦略/生産技術戦略、ものづくりグランドデザインを主要テーマにしている。