マネジメントツールでも1970年代に大きな進展があった。MRP(Material Re quirements Planning=資材所要量計画)が登場し、生産計画や発注量計算などの業務効率化が志向されるようになってきた。在庫管理や部品表などのデータベース群も同時期に整備されるようになり、製造業は各所でITツールを活用しはじめていた。
MRPはBOM(Bill of Materials)に発展した。BOMは、現在の組立型製造業において、もっとも重要で、かつ、最大のシステムとなっている。自動車を例にとると、1台につき3万点から5万点もの部品があり、さらに仕向け地ごとに使用する部品が変更される。そのような部品に関する情報をすべてBOMで管理し、さらに生産管理システム、購買システムにデータがわたされることにより、決められた時間、決められた場所に部品が納品される。これにより、JIT(Just In Time=ジャストインタイム生産システム)が実現する。JITにより、工程間の仕掛け在庫を最少に抑え、製造にかかわるリードタイムの短縮が可能になった。JITは今日においても、日本の製造業の大きな強みとなっている。
2次元CAD、3次元CAD、CAM、CAE、在庫管理やBOMなどのデータベース群など、製品に関するさまざまなデータが蓄積されてくると、それらを統合して管理しようとするニーズが出てきた。ここから、PLM(Product Lifecycle Management)という概念がスタートする。
PLMは当初、2次元CADや3次元CADのデータを管理する機能(PDM=Product Data Management)が中心であった。PDMにより、CADデータを設計段階から生産段階、および関連企業まで共用することにより、大幅なリードタイムの短縮とコスト削減が実現した。その後、環境対応、品質管理、原材料管理など、さまざまなモジュールが追加され、PLMが完成する。PLMは現在、製品企画、設計、生産、保守サービスにいたるまでのプロダクト・ライフサイクル全体を管理するシステムに発展している。
PLMが発展する一方で、企業にあるヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を有効に活用するためのシステムとして、ERP(Enterprise Resource Planning)がある。ERPが扱うデータは、企業における製造・物流・販売・調達・人事・財務会計などであるが、ERPとPLMが連携することにより、製造業におけるトータルな情報管理を実現しようという考え方が出てきた。
PLMとERPの連携により、製品ライフサイクルとビジネスオペレーションの統合が可能になる。具体的には、PLMが管理している製品の開発・生産に関するBOMと、ERPで管理している製品の生産・調達に関するBOMを統合することにより、設計段階において、後工程の調達コスト情報などを含む原価情報や製造リードタイム情報などを参照することが可能になる。それにより、さらなるリードタイムの短縮とコスト削減を実現しようというものである。
PLMとERPの連携は、欧米では、もはや普通に行われている。しかしながら、日本国内の製造業においては、ERPは主として人事・財務会計などのモジュールが導入されているものの、製造や生産管理のモジュールは、あまり導入されていない。そういったシステムは、現在もユーザーが独自に開発したシステムが使われているため、PLMとERPの連携は、あまり進んでいないのが現状だ。この点は、将来的に日本の製造業における課題のひとつといえるだろう。
また、ERPは主に生産計画を生産現場に伝えたり、完成品や半製品の在庫状況などを提供してくれるが、基本的にはカネにかかわる情報を管理している。よって、生産途上のモノにかかわる情報、例えば部品等の加工実績や組み立て進捗、設備リソース管理などの情報は、ERPでは管理しきれない。
つまり、生産現場はFAなどにより自動化が進められているが、その情報をERPまで伝達する機能がなく、長らく“ミッシング・リンク”などともいわれていた。この現場とERPとをつなぐ機能として登場したのがMES(Manufactu ring Execution System)である。1992年にMES普及団体としてMESA Inter nationalが設立され、1997年にMESを11機能により定義した。国内では2000年代前半から普及しはじめている。
MESは製造現場の効率化が主な目的であったが、ANSI/ISA-95標準化の流れが生まれ、国際規格としてMESよりも幅広い領域をカバーするものとなっていった。ANSI/ISA-95では、MESに相当する機能をMOM(Manufacturing Operations Management)と呼んでおり、今後はMOMがキーワードとなりそうだ。
MES/MOMが注目を浴びたのは、リーマンショックの際の大きな需要変動に生産側が追従できなかったためである。経営サイドは需要減に応じた生産コントロールを行おうとしたが、生産現場の状況を経営層が把握する仕組みが乏しく、臨機応変な対応が難しかった。そうしたニーズは現在も経営層にあり、なおかつ、Industrie4.0など生産現場の情報化の必要性が高まっていることから、今後、導入が期待されるものとなろう。
『2015 IoT時代の製造業ITソリューション -インダストリ4.0など次世代ものづくりとITベンダの戦略-』(矢野経済研究所 180,000円)より一部転載
矢野経済研究所 主任研究員 忌部佳史
2004年矢野経済研究所入社。情報通信関連の市場調査、コンサルテーション、マーケティング戦略立案支援などを担当。現在は、製造業システムなどを含むエンタープライズIT全般およびビッグデータ、IoT、AIなどの先進テクノロジーの動向調査・研究を行っている。経済産業省登録 中小企業診断士