最近の製品開発においては、制御系における組み込みソフトの開発が大きな比重を占めている。組み込みシステム向けのソフトウエアのステップ数は、年々増大する傾向にあり、自動車などでは、1000万ステップを超えるようなケースも出てきている。
このような状況では、形状を設計する機能が中心の現在の3次元CADだけでは、製品開発が困難になってきた。そこで登場したのがモデルベース開発という手法である。
モデルベース開発とは、抽象度が高い「モデル」をすべての開発フェーズで使用する開発手法である。制御対象(例:エンジン、電装品、冷却装置など)と制御装置(例:MCU、コンピュータなど)を、モデルというコンピュータ上での共通表現で記述し、その挙動をシミュレーションすることにより、機械設計と制御系における組み込みソフトの設計を同時に進行していくものである。
具体的には、CAEツールによりモデルを作製し、そのモデルを使って、シミュレーションを実施しながら、試作を行う前に開発検討を行う。そこで検討されたモデルは、自動コード生成され、実際のMCUなどにおける組み込みソフトが作成される。そして、実際のMCUと組み込みソフトをHardware-In-the-Loop Simulator(HILS)によりテストを実施し、問題を検討する。すべての問題が解決されたうえで、初めて制御対象の試作品とつないでテストを実施する、といった開発プロセスとなる。
モデルの作製に使われるCAEツールは、1DCAEといわれるものである。現在、さまざまな言語が存在するが、全世界的に標準化が進められており、その代表的な言語がModelicaである。よって、現在の1DCAEは、Modelicaによるモデルを作製するツールが多くなっている。
■業務効率化からシステム統合 さらなる連携の時代へ
これまでの流れを簡単に整理したい。まず、工場ではFAなどの登場により、また、開発現場ではCADなどの登場により、業務がIT化し、効率化が進んだ。他方、オフィスではERPやOA機器の登場により、こちらも業務がIT化し、効率化が進んだ。しかし、ここでの効率化は、それぞれの業務単独の効率化にとどまった。その後、ネットワーク環境が整備されるとともにシステム間連携は強化された。オフィス側、開発側、製造側とそれぞれの領域内でのシステム連携・統合が進んでいる。先進的な一部の企業では、オフィス-製造は連結され、垂直統合が進んでいる。
また、並行して1990年代に入りインターネットが普及すると、海外の工場や拠点などを結び、また、社外の調達先などとの連携も行われるなど、バリューチェーンが緊密化し、従来とは次元の異なる効率化が進んでいる。しかし、連携レベルはまだまだ低く、今後も模索しながら展開されることだろう。
そして、今後、IoT時代を迎え、オフィス側・開発側・製造側・社外との連携が今までとは異なる次元で論じられているのである。
『2015 IoT時代の製造業ITソリューション −インダストリ4.0など次世代ものづくりとITベンダの戦略−』(矢野経済研究所 180,000円)より一部転載
■矢野経済研究所 主任研究員 忌部佳史
2004年矢野経済研究所入社。情報通信関連の市場調査、コンサルテーション、マーケティング戦略立案支援などを担当。現在は、製造業システムなどを含むエンタープライズIT全般およびビッグデータ、IoT、AIなどの先進テクノロジーの動向調査・研究を行っている。経済産業省登録 中小企業診断士