潜在的な品質問題を分析〜複雑な生産工程に改善の余地〜
■世界のカーペット総生産量はどのぐらいでしょうか?
なんとグローバルで年間25億平方メートルを超えるそうです。すべて敷き詰めますと、東京全体の面積よりも大きくなります。その総生産量の半分以上を生産する北米で、大きくビジネスを拡大している企業がMohawk Industries(以下モホーク社)です。
モホーク社は住居用および商業用の床材メーカーで、カーペットをはじめとして木材、タイルなどを販売しています。ここ数年で約1.5倍の成長を遂げ、売上高約80億ドル、従業員数約3万5000人のリーディングカンパニーとなりました。
SAPブログではこれまでもマスカスタマイゼーションを実現したハーレー社、“空気売り”へビジネスモデルを変革したケーザー社など製造業の先進的なIoTの事例について取り上げてきました。今回はモホーク社のIoT事例に着目してみましょう。モホーク社が目指したことは“予測品質管理(Predictive Quality)”です。本ブログでは、モホーク社が予測品質管理に取り組んだ背景、その具体的な内容、そしてその可能性についてお伝えします。
■なぜ品質管理の高度化に取り組んだのか?
モホーク社は予測品質管理の“Co-Innovation”プロジェクトをスタートしました。Co-InnovationとはSAPの研究開発部隊と共同でシステムを試作する取り組みです。
モホーク社は製造装置にセンサーを設置し、その情報をもとに装置のパラメータなどを定期的に調整することで、潜在的な品質問題を分析する仕組みを構築しました。モホーク社が品質管理業務の高度化に着目した理由として、直面する素材業界の特徴が挙げられます。
●コモディティ市場であること
カーペットをどのような基準で選びますか?
素材業界は一般的にコモディティ市場であり、製品ごとの差別化が難しく、激しい価格競争に陥ることが少なくありません。利益率を維持するためには、高い品質の製品を提供して、ワランティクレーム(保障期間内に欠陥や問題があった場合の返品・交換要求)を減らすことが重要なポイントとなります。
●複雑な生産工程であること
ここでは最も流通量が多いタフティングカーペットを例にとって、その製造工程を簡単に取り上げます。まずプラスチックペレット(プラスチックを粒状にした素材)を成形して繊維にし、糸を製造します。その後にパイル糸(ループ上の糸)を基布に植え付けるタフティングを行います。そして染色機で染色した後に、パイルが抜けないように接着剤をコーティングすることでカーペットが出来上がります。
ここでポイントとなるのは、組み立て製造業などと異なり、製品工程において原材料から仕掛品、最終製品までの工程数が多く、その形状や単位も大きく変化するということです。複雑な生産工程であることが、品質問題の原因や影響を特定することを困難にしており、それゆえ大きな改善余地が残されているのです。
※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、モホーク社のレビューを受けたものではありません。
(SAPジャパン 五十嵐 剛)