■古くて新しい課題「コンカレント・エンジニアリング」
前号でも述べたように、日本の組織力を活かしてコンカレント・エンジニアリングを推進する必要があるが、実際にはそのゴールのあり方と取組みには各社でバラツキがある。
誰もが製品のコスト・品質の7割は設計で決まるということを知っていながら、そのバラツキが発生してしまう。良い取組みができている会社では、より「上流」に、より「革新的」に、より「先取り」して生産技術部門が動いている。
■上流でのコンカレント・エンジニアリング
まず「上流」について論じる。前号でも述べたように、これからの製造業は製品のアーキテクチャーで勝負が決まると言われている。そのアーキテクチャーを決める時点で生産技術部門が商品性も担保しつつ、生産要件を入れていくことが大切である。また、範囲としては一商品で考えるのではなく、製品群として広域に対象を捉え、かつ将来のモデルチェンジも見越して考えていくことが重要である。
製品アーキテクチャーを考える際に生産技術としてもう1つ大切なことは、次世代の工程も同時に考えていくことである。これを筆者は「工程アーキテクチャー」と呼んでいる。この検討のコンカレント(同時並行検討)も将来の工程に大きな影響を与える。
たとえば、製品群で設計を考えながらも、その群を同一ライン、共通ラインで生産できるように考えるには、上流で共通基準座標や、形態・形状の同質化、加工・組立単位などを深く考える必要がある。こうした取組みにより、将来にわたって対象新製品やその群の製造コスト、モデルチェンジコストを大幅に抑制できるのである。
これが「上流」でのコンカレント・エンジニアリング活動であり、将来にわたり大きな成果を生む本質的なコンカレント・エンジニアリングなのである。逆にあまり効果が小さいコンカレント・エンジニアリング活動は、開発・設計・生産技術が集まって、寸法や公差の調整を行っているレベルのものである。技術的には必要なことではあるが、会社として商品群として大きな効果を得ることにはつながらない。
■生産技術的にも進化する(新たな工法・つくり方を導入する)
2つ目の「革新的」とは、コンカレント・エンジニアリングの活動時に、製品技術的に設計的にも進化することは大切であるが、生産技術的にも進化することがより大切であるということを意味している。
たとえば、新製品の立上げ時に毎回とはいかないまでも、ダントツのコスト低減や品質向上を行うための新工法なども取り入れること、その工法を達成できる形状や構成に製品をつくり込んでいくことが重要である。新工法の採用時は、これから設計図を描くからできることも多いはずである。生産技術部門は新製品の立ち上げ時に「生産準備」だけを行うことが仕事だと勘違いしている会社があるが、技術部門であることから、イノベーションを起こしていくこと(=新たな工法・つくり方も導入していくこと)も重要である。これが競争力をつけるための仕事であることを、再認識する必要があると改めて思う。
■先取りして「お役立ち」する
3つ目の「先取り」とは、仕事のスタイルと前準備のことである。まず仕事のスタイルとして、生産技術部門の上流である開発・設計のアウトプットを待ってから仕事をする、いわゆる「ウオーターフォール型」はコンカレント・エンジニアリングがうまくいかない典型である。そのような部門ほど、前工程(開発・設計)に対する文句は多い。文句を言うくらいなら、自らアウトプット(たとえば図面)を生産しやすいように変える行動が大切である。生産しにくい図面が出てくるということは、自らが開発・設計に関与せず、生産要望も入れ込んでいないということで、むしろ己を恥じるべきである。自ら動かず図面の批評はいわゆる「後出しジャンケン」と同じスタイルである。
前準備とは、新製品の開発段階やその前から、その商品性を実現できて生産性も高い工法を前回りして開発し適応するなど、製品として採用しやすくしておくことである。
これらはいかに開発・設計部門に貢献できるかということだが、この先取りによる「お役立ち」が結果的には良い製品・良い生産を生むことになる。
■日本能率協会コンサルティング
石田秀夫
生産エンジニアリング革新センターセンター長
シニア・コンサルタント大手自動車メーカーの生産技術部門の実務を経て、JMACに入社。ものづくり領域(開発・設計~生産技術~生産)のシームレスな改革・改善活動のコンサルティングに長年従事。生産技術リードでものづくりを変え、それを企業の段違いな競争力にするコンサルティングを推進中である。近年は日本版インダストリー4.0や生産戦略/生産技術戦略、ものづくりグランドデザインを主要テーマにしている。