不連続戦線に異状なし(55) 黒川想介

〜人口減少、高齢化社会の到来〜

■自動制御 再び省力化へ

半導体製造でよく使われている用語に前工程と後工程という用語がある。原料から製品ができるまでの仕事や作業を進めていく段階の製造工程を言う。半導体製造以前には前工程とか後工程という用語が飛び交うことはあまりなかった。

単なる製造工程と言うのが工程を表現する一般的な言い方だった。近年、半導体製造で使われている前工程・後工程といった区別が他の業種でも普通に使われている。一般的には原料から材料をつくる工程を前工程と言い、材料を加工し、加工した材料を組み立て検査する工程を後工程と言っている。

前工程では大量の原料を扱うので原料貯蔵や原料の搬送や加工する設備は大型になる。大型設備でつくられた大量の材料は多くのメーカーに供給される。昨今では安定供給可能で高品質の化学材料部品類は世界中に販売されている。それらの輸出額は家電、電子機器を抜いて自動車・機械に次ぎ第2位である。原料を扱う前工程といわれる現場では機械や装置類の自動制御設備がないわけではないが、自動制御の分野より原料や設備の計測や監視をする計装分野が主であるし規模の割に人は少ない。一方後工程と言われる現場は計測監視よりは自動制御をもっぱらとしている。企業の規模は大小さまざまであり、企業数も圧倒的に多いし、現場に人も多い。

加工・組み立て・検査工程をもつモノづくりでは人がスイッチを押してモータを回す。モータからアクチュエーターを介して回転運動や直線運動を取り出し機械は動く。人は機械を操作するか、工作対象物を移動させることによってものづくりをすることを機械化と言う。人の作業の代わりにセンサや電子機器が機械を動かしてものづくりをすることを自動制御化と言う。後工程の企業は現在でも機械化設備のみの企業から全自動工程を主とする企業までまちまちである。これまでに自動制御化を進めて機械の作業者を減らし続けてきた。いわゆる省力化である。

高度成長が始まり、生産量は増大し人件費が増大すると、前工程に比べ後工程に係る人が圧倒的に多かったため一気に省力化を目的とした自動制御化が進んだ。その後人件費削減だけではなく、納期・品質が追求されていくたびに自動制御は進化してきた。昨今のように社会が成熟するとマーケットの需要は多様化が進む。多様化する需要を充足するには工程を多機種生産型にする必要があり、これまでのように量を増やして1個当たりのコストを下げる大型自動化設備のみを追求するわけにいかななくなっているし、つくるものによっては何でも自動制御を複雑にすればいいと言うことはなくなっている。近頃では製造の現場から省力化という言葉があまり聞かれない。

機械化生産の時代から自動制御生産に移って行く過程では自動化とは省力化であると言っても過言ではなかったし、製造現場では毎回省力、省力というかけ声で自動制御化に取り組んでいた。その後の自動化では品質の追求・リードタイム短縮、多機種生産やコスト低減のためのコンパクト化が進んだ。作業者を減らして生産性を上げる省力自動制御の影は薄くなってきていた。

しかし以前から言われていた人口減少、高齢化社会の到来が団塊の世代のリタイアで現実味を帯びてくると再び自動制御は省力化に向かうことになった。この省力化には労働人口減を補うための省力機械や高齢労働者の弱い力を補うための省力機器を今後、増やしてゆくことになる。意外にも製造現場で人に頼っている個別は今でも結構多いからである。

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