LED照明の用途が産業用にシフトしている。業務用向けの採用が一段落したことから、家庭用と産業用での普及が進んでいるが、使われ方、数量などで両者に違いがあることで販売戦略にも影響を与えている。東日本大震災以降の急速な省エネへの取り組みはLED照明の普及を予想以上に進め、電力消費削減の大きな力となった。白熱球の生産中止などの動きも加速しており、すべての照明がLED照明に切り替わるのも時間の問題になりつつある。
水銀の使用規制も追い風
日本照明工業会による自主統計(参加23社のデータ)によると、2015年4月〜16年3月までの1年間の照明器具全体の出荷金額7082億9000万円で、前年度比105.6%となっている。このうち、防災用を含むLED器具は6007億1400万円で同116.7%となり、全体の84.8%を占め、ここ数年で一段と比率が高くなっている。13年度が約60%、14年度が約70%であったことから毎年10ポイントずつ上昇していることになる。LED照明の全体に占める割合が高くなっていることから伸び率は鈍化しているものの、16年度は90%前後になり、100%に限りなく近づくものと思われる。電力消費が白熱球や蛍光灯などに比べて格段に少ないことがLED照明への切り替えを加速していることになり、白熱球の生産を止める動きも加速している。
加えて、16年2月から「水銀に関する水俣条約」など水銀使用に関する日本国内での規制強化で、蛍光灯など水銀を使用した照明器具に対する使用が制限され始めている。
現在の規制では、コンパクト形、及び電球形蛍光ランプで水銀含有量が5ミリグラムを超え、定格消費電力30W以下、または直管形蛍光ランプで、水銀含有量が5ミリグラムを超え、定格消費電力60W未満のもののうち、3波長形蛍光体を用いたもの、あるいは水銀含有量が10ミリグラムを超え、定格消費電力が40W以下のもののうち、ハロりん酸塩を主成分とする蛍光体を用いた製品が18年1月1日から、メタルハライドランプや高圧ナトリウムランプを除く一般照明用の高圧水銀ランプは水銀含有量に関係なく20年12月31日から製造・輸出入が禁止される。ただ、一部の製品では規制を前倒しする動きもあり、注意が必要となっている。
照明器具だけでなく、水銀を使用したスイッチ・リレー、温度計など計測機器の製造、輸出、輸入が禁止される。大規模施設や屋外施設には水銀灯が多く使われており、これらも順次、LED照明への切り替えが急速に進むものと思われる。
LEDは「ロウソク」「白熱電球」「蛍光灯」に次ぐ第4世代の光源とも言われている。特に日本が先駆者的な役割を果たしており、ノーベル賞受賞でも話題になった青色LEDの発明により、黄色蛍光体と組み合わせて、白色光を発するLEDが製造できるようになった。光の三原色である赤色・緑色・青色の素子を用いて白色光を発する方式もあるが、演色性(色が自然に見える性質)には劣るため、大型映像表示装置などで活用されてはいるものの、照明用ではあまり採用されていない。
LED照明の特徴として、省エネはもちろん、高輝度・長寿命・高信頼性・低発熱性・耐衝撃性・瞬時点灯などが挙げられ、その特徴から従来型の照明が持つデメリットを補うことができ、家庭用から産業用まで幅広い分野で採用されている。例えば、LEDの発光体は非常に小さいため、マイクロアレイレンズと組み合わせることで、強い指向性の照明が開発されている。レンズの種類を変えることで、照射角度を選択でき、空間照明や、スポット照明などに使われている。照度も年々増しており、定格光束6万ルーメンを超える器具も登場している。一般家庭用の40W電球が500ルーメン程度と言われているので、約120個分の明るさを1台でまかなうことができる。
LEDにも寿命があり、経年劣化により輝度が落ちてくるものの、一般的な照明用LEDで70%期において想定寿命6万時間(24時間連続点灯した場合でも7年弱)の寿命があると言われており、一度設置すれば交換の手間が省けるばかりか、電球の廃棄の手間もなくなる。日本電球工業会によると、省エネ性能としては、同じ明るさでも一般的な白熱電球とくらべ、8分の1程度、蛍光灯と比べても2分の1の消費電力といわれており大幅な省エネが期待できる。
LED照明は、コンビニエンスストアや外食レストランなど24時間営業するところでの省エネ対策として先行して普及した。電力使用量を抑えられることに加え、外部からも照明が目立つことから省エネを求める声が反映されている。現在ではこうしたところはほとんどがLED照明に切り替っている。
マイナス40℃でも対応可
こうした業務用のLED照明の普及が一巡したことから、次のLED照明のターゲットは家庭用と産業用が挙げられている。家庭用は蛍光灯などの照明器具メーカーが販売ルートを確立しており、他からのLED照明販売は難しい面も多い。加えて利益も業務用ほど高く確保できないことから、一部のメーカーを除いて、販売ターゲットを産業用に置いている。
工場、ビルなど産業用は、屋内照明に加え、機械・装置の照明としても用途が見込める。産業用では、機械の表示灯光源としてLEDの採用が進んでいるが、照明としてのLEDはこれからである。制御盤や配電盤などの内部照明や、加工機械・装置の本体内部の照明用である。
産業用LED照明は、家庭用や業務用に比べ一段と厳しい使用環境の条件が求められる。このため、こうした用途に特化した専業メーカーが発売していることが多い。例えば、「マイナス40℃対応品」は、即時点灯が可能で長寿命、省エネであることから低温倉庫などで活用されている。
さらに、食品工場、金属加工工場などの厳しい環境でも使えるよう、耐水・耐油性能を備えたタイプも登場し、「IP67G」「IP69K」などの、通常の防水はもちろん、耐油性能や、水の直接噴流にまで耐えられる製品も登場している。プラントなどの防爆環境でも使えるタイプもバリエーションが増えてきており、ゾーン1、2に対応した水素製造プラントや水素ステーションでも使用できる製品、非点火防爆構造で軽量化を図った製品などが登場している。
当然こうしたLED照明は価格も高く、付加価値も取れる。
工場や公共施設などの高天井の照明では、水銀灯などが一般的に使用されているが、水銀使用規制でこうした高天井用の照明はLED照明に置き替えられようとしている。LED照明の長寿命特性は照明の交換作業がほぼ不要になることや、低消費電力に加え、スイッチ投入後すぐに点灯すること、照明角度調節が容易なことから、限定された場所へのスポット照明としても利用しやすい。
植物工場などニーズ拡大
今後の用途として、植物工場、集魚灯など新分野での活用も広がっている。
植物工場では、育成している植物に最適な波長の光を当てることで、収穫期間の短縮を可能にしている。
集魚灯では省エネによる燃料費用の軽減はもちろん、光が水中の奥まで届き、調光・瞬時点灯消灯ができる特性を用いて魚群の誘導を行い、魚が暴れることなく、傷がつかない状態で水揚げすることに貢献している。
LEDを含めて照明制御の方法も注目されている。センサと組み合わせて太陽光や在席などに応じた明るさ調整を行う
ことで電力消費を抑えられる。また、ビル管理システム(BEMS)と連動して、ビル全体の消費電力が目標値を超えた場合、照度センサの基準値を下げたり、 天空照度を測定し、ブラインド角度、照明器具調光率制御といった使い方が可能になる。
産業用LED照明市場はこれから開拓の進む分野で、用途ごとにきめ細かな取り組みが必要になる。LED素子メーカーとアッセンブルメーカーの連携した開発が求められる。