素材・化学メーカーが第4次産業革命を実現するヒントはIoTを利用して本当のユーザーニーズを知ることにあり(後編)〜SAPジャパンの超リアルタイムビジネスが変える常識(19)〜

農業コンサルビジネス参入 異業種が新市場で競合

IoT、ビッグデータ、AIなどの新しい技術を背景に話題が沸騰しているドイツのインダストリー4.0や、アメリカのGEを中心としたインダストリアルインターネット。しかし、これらの事例は組立製造業が中心で、素材・化学業界は後塵を拝しているのが現状です。一方で、汎用素材では内需の減少などにより生産能力が過剰となり、機能性素材ではグローバル競争激化への対応が課題となっています。こうした課題が山積する中、IoTを中心とした第4次産業革命に向けて、素材・化学業界は何を備えたらよいのか。2015年11月12日に開催されたSAP Forum Tokyoでは、経済産業省製造産業局化学課長の茂木正氏と、SAPジャパン バイスプレジデント プロセス産業統括本部長の宮田伸一が、その対応策を議論しました。

■農業のデジタル化で新事業展開を実現した農薬メーカーの成功事例

茂木氏の講演に続き、これからの素材・化学メーカーが備えるべき点について、SAPジャパンの宮田がシステム面から解説しました。その中で紹介した事例が、アメリカの農薬メーカーであるモンサント社の農業のデジタル化を通じた新規事業です。モンサント社は、2013年にGoogle出身者が設立した気象情報のビッグデータ分析会社を買収しました。そして、全米250万カ所の気象測定データと1500億カ所の土壌観察のデータ、種子・農薬の品種改良データなどをもとにした情報を農家や農場経営者に提供しています。IoT化されたトラクターからは、どの農場のどのエリアを耕しているといった情報が把握できるため、例えば、「3時間後にここは雨が降る可能性が高いから、作業は後回しにしましょう」といったレコメンドを送信することができます。その結果、農家は無駄に肥料を蒔く必要がなくなりました。
モンサント社では農作物の種子の品種改良データも自社で保有しており、新種の種苗をさまざまな農場に植えながら、その結果をもとに品種改良を加えるサイクルを回しています。さらには、収穫高に応じた保証型の保険を他社より安価に提供し、自社の保険リスクを最小化することにも成功しました。
宮田はモンサント社の事例をもとに「IoTは顧客観察のためのプラットフォームです。顧客を知り、さらには顧客の利用状況と変化を知り、個々の顧客の変化に合わせた商品サービスを提供することが可能になります。農業の場合なら、どの農家がどんな土壌を持ち、どの農薬や種子を使い、結果的にどうなったといったループを回していくうちに、農家以上に農家を知ることができる。それが結果的に個々の農家にカスタマイズされた情報を提供するマス・カスタマイゼーションにつながります」と説明します。
これまでバリューチェーンの上流にいた農薬メーカーのモンサント社は、企業買収によってIoTやビッグデータを活用したデジタルビジネスに参入し、消費者に近いポジションを獲得することに成功しました。アメリカの農機具メーカーのジョンディア社も、モンサント社と同様の農業のコンサルティングビジネスに参入しています。このように、農薬メーカーと農業機器メーカーという異業種が、デジタル化された農業という新しい市場で競合する時代が訪れているのです。
最後に宮田は「アナログな領域こそ、IoTやデジタル化で破壊的イノベーションが起こりやすく、新しいマーケットが形成されていきます。異業種にとっては最大のビジネスチャンスであり、それこそがインダストリー4.0の本質ではないでしょうか。SAPでは、デジタルのコアとなるためにシンプル化のコンセプトで開発したSAP S/4HANAによって、今後ますます破壊的イノベーションを支援してまいります」と語りました。

■IoTはエンドユーザーを知るためのプラットフォーム

最後に、それぞれの講演内容を受けて、茂木氏と宮田がディスカッションを行いました。その中で「素材・化学業界にインダストリー4.0はどの程度のインパクトをもたらすのか?」という宮田の問いかけに対し、茂木氏は「本当のエンドユーザーのニーズに近いところまで降りていくチャンスがあることが最大のメリット」と答えました。化学・素材メーカーの取引先である完成品メーカーもユーザーの本当のニーズがつかみ切れていない現実がある中で、それを飛び越えて顧客を知るチャンスがあるといいます。さらに茂木氏は「インダストリー4.0も最初は工場内の最適化という地道なステップからスタートし、まだ道半ばの状況です。日本の化学・素材メーカーではすでに工場内の全体最適を自ら実現しています。いたずらに怖がることなく、足もとを見つめてください。標準化を進めてグローバルに対応していくためにはIoTが最大の武器になります」と話しました。
最後に「政府としてのオープンイノベーションや産学連携を加速させる施策があれば聞かせて欲しい」という宮田からのリクエストに対して、茂木氏は「経産省と総務省はIoTやビッグデータ、人工知能などの新たな動きに対応し、企業や業種を超えて、産官学でデータ活用を促進するためのIoT推進コンソーシアムとIoT推進ラボを立ち上げました。これから素材・化学メーカーがIoT関連の企業やエンドユーザーと連携する場所を作っていきますので、こうした場を積極的に活用してください」と呼びかけました。
(SAP編集部)

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