イノベーション立国ニッポン 世界一へ勝負の年 2017年 第4次産業革命

IoT領域広がり追い風

いま第4次産業革命という大命題のもと、日本の社会とその価値観が大きく変わろうとしている。世間も現状に対して危機感を感じ、変化を容認している節さえ感じさせる。製造業にとっては、スマートファクトリーをはじめとする製造領域だけでなく、Society5.0や20年の東京オリンピックに向けたインフラ整備など、IoT活用領域が社会全体へと広がり、大きな追い風が吹いている。

 

スマートファクトリー 17年は実践の年に

15年、IoTやインダストリー4.0、スマートファクトリーは製造業における流行語となったが、あくまで実体をともなわないバズワードと懐疑的に見る人は少なくなかった。16年は、そうした見方を覆し、各方面で取り組みが開始され、今後の製造業に欠かせないものとして定着。製造業分野のIoTにとって、導入に向けたテストを繰り返し、スマートファクトリー実現に向けた土台を作り、固める年となった。

国レベルで言えば、ドイツのインダストリー4.0、アメリカのインダストリアルインターネット、日本のロボット新戦略と、各国それぞれが製造業の新たな仕組み構築に向けて動いていたものが、16年には3国がそれぞれに手を組み、第4次産業革命に向けて連携していくことが決まった。

スマートファクトリーのインフラとして欠かせない産業用ネットワークも、これまで各規格と推進団体ごとに分かれていたものが、PROFINETとCC-Linkが相互接続を開始。規格間の壁が取り払われ、真のオープン化に向けて第一歩を踏み出した。

IoTを実現するシステム構築の土台となるIoTプラットフォームも、GEのPredix、MicrosoftのMicrosoft Azure、SAPのHANA、シーメンスのMindSphere、ファナックが提唱し、工作機械の稼働監視を中心としたFieldSystem、日立製作所のLumadaなど、用途や機能、特徴に応じたものが注目を集めた。それぞれオープンに連携し、IoTに必要なシステム基盤がそろい始めた。

各機器や装置メーカーも、注力する事業領域をIoT、BtoB領域にシフト。M&Aも積極的に行われている。ソフトバンクによる半導体設計大手のARMをはじめ、直近ではTDKによる米センサメーカーのInvenSenseの買収、パナソニックによるパナソニックデバイスSUNXの完全子会社化などが見られた。

また、エンドユーザー企業でも、自社工場をスマートファクトリー化したいというニーズは高く、特に国内に生産拠点を持つ三品産業でその動きが活発だ。例えば、資生堂は400億円を投じて大阪に新工場を建設。ロボットによる高い生産効率を目指している。日清食品も滋賀県に575億円でIoTを駆使した新工場の建設を予定するなど、高度化や自動化、デジタル化へのニーズは強い。

17年はこうした動きがより一層加速していくとみられており、これまで蓄積してきたIoT技術を現場に導入し、実際にスマートファクトリーに向けて実践していく年になる。

その一方、日本の製造業は、少子高齢化による労働力不足と市場規模の縮小、世界に比べて低い生産性という大きな課題に直面している。さらに、グローバル競争で生産拠点が世界中に広がり、自社の今後と日本で製造する意味、現場の役割が改めて問われている。そうしたなかで、スマートファクトリー化する理由、利益を生み出すビジネスモデルを再度検討する必要にも迫られている。

Society5.0が生み出す自動化ニーズ

Society5.0は、内閣府が16年1月に発表した「第5期科学技術基本計画」で挙げられた、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」を実現するための取り組みのことである。そこに必要な基盤技術は、製造業で培ってきたIoTや自動化技術であり、Society5.0によって生み出される新たな市場は製造業、特にFAや制御、IoT関連の企業と親和性が高く、大きなチャンスと見られている。

超スマート社会とは、「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会のさまざまなニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といったさまざまな違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」(内閣府)であり、製造業以外の分野、例えば、高度道路交通システムやエネルギーバリューチェーン、インフラの維持管理、防災システムなどの社会的な課題に、ネットワークやIoT技術を活用することで、それを解決し、住みやすい世界を実現していこうというものになっている。

その基盤技術となるのが、サイバーセキュリティやIoTシステム構築、ビッグデータ解析、AI、デバイスなどのIT・ソフトウエア技術と、ロボットやセンサ、バイオテクノロジー、素材・ナノテクノロジーなど。これまで製造業を中心とした産業領域で実績のあるセンシングと制御、見える化、分析といった技術の応用範囲が、その枠組みを超えて社会全体に広がりつつある。

非製造業領域にも広がるロボット

16年ロボット市場は順調に成長。17年はさらなる拡大が期待されている。

産業用ロボットは、自動車と電子機器製造業が需要のほとんどを占めていたが、15年3月に安全基準が改正され、各社からそれに対応した協働ロボットが続々と製品化された。これにより従来使えなかった場所や用途に利用が広がり、例えば人の隣に置かれて作業を補助したりするような新たな使い方が始まっている。磁気テープ上の決まった軌道しか動けなかったAGVも、ロボット技術によって高度化し、屋内の自律走行を実現している。こうした新たなロボットは、特に労働力不足が深刻な食品製造業や物流関連などで関心が高く、導入検討が始まっている。

19年の東京オリンピックに向け、ロボット技術の実社会での活用は大きなテーマとされ、特にサービスロボットに期待が集まる。現在は実験段階にあり、需要の本格化は18年以降となる見込みが、17年はその前段階として重要な意味を持つ。

昨年12月には羽田空港では搬送ロボットや清掃ロボットやコミュニケーションロボットなどを使った実証実験を開始。またすでに店頭ではソフトバンクのPepperを使った来店促進や顧客コミュニケーションに使う例も出てきており、街中へのロボット導入は今後ますます加速している。

オープン、スタートアップ日本発イノベーション

「第5期科学技術基本計画」は、日本を「世界で最もイノベーションに適した国」にすることを目指している。それを実現するためのキーワードとなるのが、「オープンイノベーション」と「スタートアップ」である。

日本の製造業の強みは、これまで蓄積してきた技術にある。そのなかでも、製品や今のビジネスに生かされているのはごく一部であり、いくつもの技術が倉庫の奥深くに眠っている。そうした技術をオープンに公開し、他者が持つアイデアや技術と組み合わせることで新たなビジネスを生み出そうというのがオープンイノベーションである。ここ数年、日本でも盛んになってきており、技術を自社で抱え込まず、連携しシェアすることで利益を生み出す。新たなビジネスモデルへの挑戦が求められる時代になっている。

また、イノベーションの源泉は発想力とスピード感であり、「スタートアップ」と言われる、今までにない新しいビジネスで急成長を目指す企業が得意とする領域だ。大きな組織で、安定を重視してリスクを取りづらい大企業では難しく、イノベーションの主体は彼らが中心となる。しかしスタートアップは技術やアイデアはあっても資金力や生産力、営業力、それを支える組織力が不足している。これを大企業が支え、お互いの強みを生かすことで、従来とは異なる市場を創出することができる。イノベーティブな技術やアイデアを持つ意欲的な人材、スタートアップの起業を支え、大企業のコラボレーションを推進していくことが、イノベーション促進には不可欠である。

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