販売店、顧客拡大へ回帰
成長期-成熟期 基本戦略が変遷
部品や機器商品メーカーの営業と生産工場の間の風通しは、同じ企業内のことであっても、私たちが思っているほど良くはない。メーカー営業部内と販売店の間は、会社が違うこともあって、昨今では事務的色彩が濃くなっている。
国内の産業の成長期は、メーカー営業と生産工場の間や、メーカー営業と販売店の間はもっと風通しが良く、一体感を抱かせる雰囲気に満ちていた。それほどお互いの関係が良い状態だったのは、生産工場の現場と営業マン、そして販売店の営業マンがおのおのの現場情報を直接、日常的に話していたからである。
社会の仕組みが複雑になり生産量が膨大になると、現場と現場ではいろいろなことを処理しきれなくなり、専門化したスタッフが介在せざるを得なくなった。そこで企画や業務、事業部といったセクションが現場同士の間に地位を築いた。当初はそれでも現場同士の直接的なつながりがあったが、時間がたつにつれて薄くなっていった。
メーカー営業と販売店の間はどうだろうか。メーカー営業部門にも企画や業務、事業部といったセクションがあり、専門化したスタッフが活躍している。スタッフは情報を整理分析して戦略や販売戦術を作っている。競争が一段と激しくなっている昨今では、スタッフのつくる営業戦略・戦術にもとづいてメーカー営業マンが販売店とは別に市場に出向いて直接販促を実施することが多くなっている。したがって以前に比べて販売店との絡みが薄くなっている。
かつて成長期には、部品や機器商品メーカーの基本戦略は売り上げ拡大であり、販売店の基本戦略も同様だった。とにかく産業市場が伸びまくっていたことから、双方とも売り上げ拡大をもって基本戦略としたのは当たり前のことだった。
しかし産業の成熟期に入り、競争が激しくなってくると、メーカーの基本戦略はマーケットシェアを上げることを第一とした。一方、販売店の基本戦略は顧客拡大になった。もともとメーカーの基本戦略はマーケットシェアを上げることなのだが、産業の成長期にはマーケットが自然発生的に拡大していたのでシェアを取らなければならないという考え方が薄れていた。
マーケットシェアが大きく伸びればメーカーにとってその効果は大きいのだ。
メーカーのマーケットシェアが伸びれば、
①競争をしなくても不戦勝が多くなる。つまり、知らないところで顧客が勝手に部品や機器商品を使ってくれることが多くなる。
②メディアの活用効果が大きくなる。つまり、部品や機器商品のカタログや新聞、雑誌等の記事や宣伝に対し、顧客が目をとどめてくれるようになる。
③価格の主導権が握れる。つまり、競合メーカーの価格設定の参考になっていくので、いろいろな思惑を価格に込めることができる。
④販売員が未知の見込み客に会いやすくなる。つまり、一般的に目に触れないメーカーの商品は信用されないので、見込み客であってもなかなか会ってもらえない。
しかしシェアが高い商品はブランド力も付いているので、見込み客も一度は会っても良いと思ってくれる。マーケットシェアが高いと、こうした数々の効果が出るのである。
一方、販売店の基本戦略はもともと顧客拡大であるのだが、産業の成長期にはメーカーと同じく、少し動けば売り上げが伸びまくっていたため、常に案件や件名を追いかけて売り上げを拡大することが基本戦略になっていた。それが成熟期になって案件や件名が少なくなると、顧客を増やさなければならないことに気づいただけなのだ。
顧客が増える効果は、
①有力なメーカーの支援が得られる。
②新たな市場が目に入り、扱う商材も増えていく。
だから販売店の基本戦略は顧客拡大から逸れてはならないはずである。