変革が求められる製造業ソリューション
IoT時代の製造ソリューションの将来像を描いてきたが、現時点では、CAD、デジタルファクトリー、MOM/MES、SLMといった現状のソフトウェアが、主動的な役割を果たすことになるのは間違いない。それらは、設計、生産、保守という製造業にとって中核となる工程を効率化、最適化するためのソリューションであるからだ。IoT時代であっても、その機能の重要性は変わることはない。
しかし、それらのシステムは、IoT時代が本格到来するにつれ、大きな変化を求められるだろう。CADは現状のような詳細設計に特化したツールではなく、構想設計領域の強化が必要であろう。IoTにより得た、製造、販売、保守などのデータを分析し、その結果を設計要件として管理し、製品企画や構想設計にむすびつけなければ意味がないからである。その他のシステムもIoT時代の製造ソリューションを実現するためには、まだまだ未完成といえるだろうし、これらのシステムを開発するベンダーの今後の活躍に期待したい。
これら製造業向けソフトウェア群の市場規模はグローバルで181億USドル(約2兆1800億円1ドル120円換算)となる。従来からあるPLM、MOM/MES、SLMは171億USドルで2014-2018年の年平均成長率は8.3%を予想している。そしてIoT基盤は2014-2018年の年平均成長率46.7%で推移すると矢野経済研究所では予測している。合計すれば、2018年には285億USドル(約3兆4200億円同換算)にもなるであろう。
そして、ツールを使う側の責任も重大だ。日本の製造業にとっては、システム間連携を急ぐ必要がある。我が国製造業の情報システムにおいて、古くから指摘されているのが、情報システムの“分断”“サイロ化”である。日本企業は体質的にITによる全体最適、統合化といったことに弱みを持つといえる。
こうした傾向は、製造業の工場現場ではもっと顕著となる。工場にはPLCなどさまざまな制御機器やロボット、工作機械などが設置されており、さまざまなデータが取得可能な状態に置かれているが、これらのシステム全体が製造業の現場において一気通貫に結びついているケースはそれほど多くない。システム連携は重要であることは分かっていながらも、実際には、エンジニアリング系、IT系、実行系と、それぞれの系統によってデータが切り離されている状態が一般的となっている。エンジニアリング系は設計部門、ERPは情報システム部門、MESは工場といったように、システムの所管が異なることも多い。
これは、欧米系のトップダウンの文化、日本のボトムアップの文化としてよく対比される。どちらがいいというわけではないが、欧米系は、情報を統合し一元化することによって最適化を図るという考え方に基づいており、例えば、企業買収を行えば、躊躇なく、被買収企業の情報システムを親会社のものへと変更させる。中央で最適なモデルを検討し、それを各地域の工場へと展開し、指示に従わせる、それが通常のやり方なのだ。
他方、日本では各工場の自主性が重んじられる。特に生産現場は聖域とされ、現地現物主義のもと、現場が重視される。ITも現場で完結し、現場が使いやすいように情報を管理することが主眼となりがちだ。経営側も、現場が求める細かい情報までは見る必要がない、と興味を持たないことも多い。
『2015 IoT時代の製造業ITソリューション -インダストリ4.0など次世代ものづくりとITベンダの戦略-』(矢野経済研究所 180,000円)より一部転載
■矢野経済研究所 主任研究員 忌部佳史
2004年矢野経済研究所入社。情報通信関連の市場調査、コンサルテーション、マーケティング戦略立案支援などを担当。現在は、製造業システムなどを含むエンタープライズIT全般およびビッグデータ、IoT、AIなどの先進テクノロジーの動向調査・研究を行っている。経済産業省登録 中小企業診断士