アドバンテスト×IPC特別対談 IPC標準の現場活用 世界基準で評価 製造品質・信頼性向上へ

エレクトロニクス産業の国際標準規格IPC

IoTやロボット、第4次産業革命など追い風が吹く半導体市場。半導体製造装置業界もその恩恵を受けて好調だ。極めて高い緻密さと、正確で高速な処理を求められる半導体テスト装置は、その中核となる電子基板も大型・多層になり、高い実装技術が製造にも要求される。また需要の中心が海外市場となるため、半導体テスト装置メーカーはより一層のグローバル対応力の強化が課題となっている。海外売上比率が9割を超える半導体テスト装置のトップメーカー、アドバンテスト。2年前からIPCスタンダードの活用を進めている。IPCへの取り組みについて、塚越聡一常務執行役員兼生産本部長、齋藤登生産技術部長、伊藤秀樹生産技術部生産技術グループファンクショナルマネージャと、IPCジョン・ミッチェルプレジデント兼CEOによる対談が行われた。

(モデレータ:国際技術ジャーナリスト津田建二氏)

「どこでも同等の品質で」ミッチェル氏

「信頼性、世界で高い評価」塚越氏

「フレキシブルな生産可能」齋藤氏

「海外で意思疎通しやすく」伊藤氏

 

■津田氏

世界でも高いシェアを誇るアドバンテストの強みとは?

塚越常務
大きくは、4つある。1つは、半導体の試験に関するすべての装置を持ち、ワンストップでソリューション提供ができることだ。テスター、ハンドラー、デバイスインターフェース、ソフトウェアをそろえ、1社でトータルテスト環境を整えられる。

2つ目は、高速域の測定技術を持っていること。半導体の微細加工に求められる部分に対し、これまでに蓄積した経験と要素技術を持っている。3つ目は、社内で作る内製と、EMSを利用する外製の使い分けができること。当社はもともとすべて内製だったが、4年前に買収したベリジーは、EMSを活用して生産していた。この2社が、一緒になったことで、内製と外製のメリット・デメリットが明確になり、状況に応じた最適な使い分けができるようになった。

4つ目は信頼性の高さ。部品一つからその組み立て、システム動作、最終製品にいたるまで、信頼性は世界で高く評価されている。

齋藤生産技術部長
また特需の対応ができ、フレキシブルな生産が可能だ。設計では、国際規格にのっとって、共通の標準部品を採用してコモディティ化を進め、部品のサプライヤーも確保している。急激な需要増であっても、スピーディーな生産を行いつつ、最終製品の安全・安心も保証している。EMSだけでは、スピード対応ができず、末端のサプライチェーンや品質が見えにくい。

■津田氏
IPCに取り組みはじめたきっかけ、経緯は?

伊藤マネージャ
ベリジーのメンバーと話をしていた時、IPCという、電子組み立て部品やはんだ付けに関する国際標準規格があることを知った。海外のEMSではアッセンブリーの基準として、IPC-A-610「電子組み立て部品の許容基準」を一般的に使用していると聞き、今後の海外生産と安定したサプライチェーンの構築を見据えて、当社もIPCに取り組むべきという判断で始めた。

日本のものづくりは、最終製品で品質を保証、確保するということで信頼を得てきた。それに加え、IPCを採用することで、部品や工程、仕入れレベルでの品質管理もできるようになり、最終製品とプロセスの両面から品質、信頼性を保証できるようになった。

■津田氏
日本のはんだ付け技術は優秀で、わざわざ海外規格に取り組むことに対して社内では抵抗感があったのでは?

伊藤マネージャ
当社のはんだ付け基準とIPCを比較したところ、IPC+個別基準とすることで使用可能であり、作業内容を変えたり、急に品質が良くなったり、悪くなったりすることはなかったので、それほど難しくなかった。逆に、今までやってきた社内基準がIPCでいうとどのクラスに相当し、自分たちの技術が、世界標準のどのレベルにあるか、どこにギャップがあるのか、「見える化」ができて良かったという声は多い。

普段、IPCは判断が難しく困った時にテキストや教科書として使っている。そのメリットは、海外メーカーや仕入れ先とのやり取りや、海外に出て行く時に同じ基準で話ができ、意思疎通がしやすくなった。社内基準はざっくりとしていて、日本人相手には通じるが、海外ではなかなか理解してもらえなかった。その点IPCを採用したことで、ひとつひとつの基準が写真や図などで詳しく書かれており、とても分かりやすかった。

■津田氏
はんだ付け技術向上のコツとは?

塚越常務
はんだ付けで難しいのは、こての選び方。場面によって、こて先が平らなもの、針状のものなど使い分けなければいけない。形状によって熱の伝わり方、はんだの流れ込み方が異なり、適したやり方で行わなければならない。研修用の教材としてビデオなども使っているが、やはり経験を通じ、数をこなすことが最も大事だ。当社の場合、大型の基板は高価でミスが許されない。そうした経験を数多く積むことでスキルが向上する。

伊藤マネージャ
社内には自社の技術検定があり、実技と理論の両方でテストが行われる。現在、社内には指導者が20人、作業者130人ほどの合計150人の資格取得者がいる。そのなかにはIPCのはんだ付けコンテストで、日本チャンピオンになり、世界大会にも出場した15年のベテラン技術者や、さらに歴の長い35年のベテランもいる。

ミッチェル氏
アドバンテストのはんだ付け技術は、スーパーコンピューターの製造に使われるようなハイレベルなもの。大きくて厚い超多層基板を扱う技術はとても高度。世界では10層程度の世界。15層以下でないと対応できない。

■津田氏
今後について教えてほしい。

塚越常務
実装の難易度が上がっていて、自社のはんだ付け技術、組み立て技術を確立しておかなければ、世界中で作ることができなくなり、グローバル需要に対応できなくなる。これからもIPCを活用し、世界各国で優れた技術者を増やしていきたい。

ミッチェルプレジデント
日本はエレクトロニクス業界のリーダーだ。しかし、最近は、「コネクテッド」をキーワードに、グローバルでつながることが進んでいる。これまでの日本は、歴史的に内向きであったため、その環境を変えていくのは大きなチャレンジになるだろう。

IPCは、世界60カ国を超える国々の4000社近くが参加する世界的な標準規格団体だ。実装に関する世界共通の言語であり、海外企業との取引や、自社のプロセスや製造工程を海外に展開する際にとても有効だ。

今後も各メーカーから基板実装における問題点や改善すべき点など意見を集め、それに対応していくことで円滑なビジネス環境を整えていきたい。

 

■津田氏
世界の製造業を取り巻く環境が激変している。そのあたりをどう感じているか?

塚越常務
世界市場の変化について感じるところは3つある。1つは「二極化」。大と小、高と低などあらゆる場面で二極化するケースが多い。2つ目は「変動差の拡大」。例えば中国のような新興国で市場が動くと需要が一気に4~5倍になる。この変動差をどう吸収するかが悩ましい。3つ目は「寡占化」。市場に優位な企業がM&Aによって、さらに力が集まるようになっている。

■津田氏
そうした変化にどう対応しているのか?

塚越常務
二極化に関して、サイズの大小、技術的に難しい製品と易しい製品など、多品種少量生産で両方作り、それらが混ざった状態でも品質良く、早く作らなければならない。どの案件が、どこで、どう動いているかを客観的に捉えられるように「見える化」をしている。

変動差については、材料や部品をどう短納期で調達し、必要量を確保するかという課題がある。確実に早く確保できるように、素材レベルで分析を行い、サプライヤーを確保している。

また、ある企業が寡占化するとカスタマイズ要求が多くなり、特殊品をすぐに作らなければいけなくなる傾向が強い。そのため、設計から製造までをできる限りプラットフォーム化しなければならない。

■津田氏
IPCでは世界の変化をどう見ているのか?

ミッチェルプレジデント
日に日にスピードが早くなり、より専門性が高まっている。専門的な企業は差別化の部分を追求することでより強くなり、将来にわたってアドバンテージを持ち続けられるだろう。また、大きな会社が、こうした高度な専門性を持った企業を自社に取り込んでいこうという動きもある。数年前は、プリント基板業界で頻繁にM&Aが行われたが、最近は半導体分野でも起こりつつある。

IPCは、世界中のメーカーによって作られた標準であり、世界のエレクトロニクス業界で受け入れられている。IPCに則った製造を行えば、世界のどこでも同等の品質でサプライチェーンを構築できる。

《出席者》

■IPC プレジデント兼CEO ジョン・ミッチェル氏

■アドバンテスト 常務執行役員兼生産本部長 塚越 聡一氏

■アドバンテスト 生産技術部長 齋藤 登氏

■アドバンテスト 生産技術部生産技術グループ ファンクショナルマネージャ 伊藤 秀樹氏

■モデレータ:国際技術ジャーナリスト 津田建二氏

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