半導体・FPDも好調
電磁開閉器(マグネットスイッチ)の市場は、牽引してきたPV(太陽光発電)システム向けが停滞していることが影響しているものの、大きな市場である工作機械市場は反転に向かいつつある。また、半導体や液晶製造装置の出荷が好調を継続していることで需要を支えている。今後東京オリンピック・パラリンピック関連や都市の再開発などのインフラ需要に加え、ⅠoTに絡んだ情報化投資の拡大が見込めることから上昇基調が期待されている。製品は小型・薄型化、低消費電力化などをポイントにした開発が継続しているが、地域、用途に特化した製品開発も取り組まれている。
東京五輪で進む再開発 インフラ需要拡大
電気回路の開閉制御を行う役割を果たす電磁開閉器は、電磁石で接点を開閉する電磁接触器(コンタクタ)と、電動機の過負荷保護を行うために熱を利用して動作する熱動型過負荷継電器(サーマルリレー)を組み合わせている。モーターなどを使用した機械、装置、設備には必須の機器として使われ、負荷のON/OFFや、過負荷電流が流れて機器の回路が焼損する事故を防止する大きな役割を果たしている。
工作機械、半導体・液晶製造装置、エレベーター、鉄道機器、船舶、空調機器、PVシステム、配電盤など幅広い分野で、モーターの起動・停止、照明・ヒーターなどのON/OFFなどで使用されている。
日本電機工業会(JEMA)の出荷統計によると、2016年(1~12月)の出荷は前年比4.7%減の268億3100万円となっている。ここ数年、前年比プラス基調で推移してきたが、久しぶりに前年比を割り込んだ。
主力市場の工作機械の受注が、16年11月まで前年同月を割り込んだ状態であったことや、PV市場の停滞が大きく影響している。インフラ関連も人手不足なども加わり、計画どおりに仕事量をこなせない状況が継続していることなども受注減少につながっている。
国内市場は、ピーク時の400億円前後に比べ3割ぐらい減少しているが、海外への生産移管や単価の下落なども影響している。しかし、生産台数では過去最高ペースで推移しているメーカーも多いことから、依然堅調な市場拡大が継続しているといえる。
電磁開閉器の主要需要先のひとつである工作機械の受注は、15年が約1兆4800億円(前年比1.9%減)、16年は1兆2500億円(同15.6%減)と2年連続で減少している。
しかし、16年12月からプラスに転じており、17年は1兆3500億円(同8%増)を見込んでいる。主力市場の工作機械需要が国内外で動き出したことで、今後電磁開閉器市場に大きな追い風になるものと見られる。
半導体・FPD製造装置も好調だ。15年度は約1兆6000億円と2.8%増、16年度は23.1%増の約1兆9805億円が見込まれ、久しぶりに2兆円市場が目前になってきた。
ⅠoTに絡んだ情報化投資や自動車の自動運転など、半導体の需要は急増している。スマホの有機EL画面や、高画質テレビなどの伸長で液晶などのFPD(フラットパネルディスプレイ)市場も回復基調で、17年度も微増(0.5%増の1兆9902億円)ながらプラスを予測している。
もうひとつの大きな需要先であるビルや工場、公共施設など建物に関連した市場や交通インフラ関連は、東京オリンピック・パラリンピック開催を控え期待が高まっている。しかし、16年は人手不足などもあり、期待した割には盛り上がりに欠けた状態で推移した。
しかし、今年は残り期間が限られていることもあり、待ったなしで進める必要がある。東京、名古屋、大阪をはじめとした大都市圏を中心に再開発が進んでいる。特に東京ではJR山手線の品川-田町間の新駅開設に伴う開発がビッグプロジェクトとして各方面から注目を集めている。
設備の老朽化や省エネ化対策などで既存のビルリニューアル化で、エレベーターやエスカレーター、空調設備向けの受配電機器は買い替え需要が発生することは確実で、電磁開閉器にも波及効果が見込まれる。
ただここ数年、電磁開閉器の新需要として注目されていたPV関連は、発電電力の買い取り価格の低下などもあり、急速に停滞に陥った。家庭用PVを除いて、今後は風力や水力、バイオなどの自然エネルギーでの需要に期待が集まっている。
ⅠoTへの対応加速
一方、ⅠoTの活用に伴う情報化と情報量の増大に対応して、データセンターの開設も増えている。大電流を使用することから省エネや熱対策に対応した電磁開閉器が求められている。
電気自動車(EV)や電池関連、鉄道、船舶関連も期待の市場である。PVも含めこれらの市場は一般的に直流(DC)電力で使用されることから、DCタイプの電磁開閉器の市場として注目されている。
中でも、鉄道車両は海外市場に向けた輸出の需要が今後も継続することから電磁開閉器の安定した需要先として注力しているところが多い。
電磁開閉器は技術的に完成の域にあると言われながらも、依然開発・改良が進められている。最近のポイントは小型化、省エネ化、グローバル化対応、省配線化と配線作業性の向上、安全対策などに重点が置かれている。
小型化への取り組みは、制御盤の小型・薄型化に対応したもので、10Aフレーム以下の小容量タイプでは、横幅36ミリを実現して、収納スペースの削減と、駆動電力の低減を図っている。電磁開閉器の小型化には、開閉時の高温ガス放出構造やアークランナーの形状最適化など設計上の難しさが伴う。しかし、多数個並列して使用することが多い電磁開閉器では一個の幅を少しでも削減できれば、盤全体では大きなスペース削減効果を生み出す。
同時に、小型化・低消費電力化は、環境配慮と素材の節約にもつながる。電力消費量の削減では、電磁石の改良も行っており、電磁石容量で約15~30%の省電力化を実現している。
省配線化と配線作業性の向上では、端子の配線ネジを外さなくても配線できるようにしたり、バネを使って仮止めが容易にできるようにしたりと、工夫している。端子構造は、日本と海外では異なっていることから、使われる地域の実情に応じて選択できるように、棒、先開き、丸型、スプリング、ファストンなど多彩に用意している。
作業性の良さでは欧州タイプの圧着端子を使わないで、棒線、より線がそのまま使用できる接続方式が有利と言われているが、日本では電力や官公庁向けで、圧着端子の使用を求めているところが多く、納入先ごとに仕様を変えているのが実情だ。今のところこの流れに変化はなく、日本独自の状況が継続しそうだ。
省配線化の一環として、電磁開閉器の主回路の高さを統一することで、専用ブスバーによる一次側渡り配線ができるようになっている。これにより、配線数が大幅に減らせ、配線作業時間の短縮と誤配線の防止につながる。
さらに、可逆型電磁接触器に、電気的インターロック用配線を内蔵したタイプも開発されており、インターロック配線が不要になるほか、スペースもほとんど同じで済むため、内蔵スペースを有効に生かせる。
安全対策では、端子部に不用意に接触しないように感電防止構造を採用した製品が一般化、不用意な接触によって誤作動したり、異物が本体に侵入したりしないように保護カバーを標準で装備している。
さらに、制御回路と主回路の誤配線を防ぐために、それぞれの端子色を変えることで分かりやすくしたり、主回路と補助回路の端子配線の干渉防止と作業性向上へ端子配列を工夫した設計も行われている。
電磁開閉器の接点溶着が発生した場合でも、安全開離機構(ミラーコンタクト)として、補助接点が確実に作動する機能も内蔵しており、事故の防止を図っている。
DC機器市場にも期待
最近は、PVやEVなどで電力効率が良いDC機器に注目が集まっている。しかし、DCは交流(AC)より接点への負荷が高いことから低圧での使用が多かったが、昨今はDCの高圧にも耐える電磁開閉器が普及し始めており、DC1000Vに対応できる製品も開発されてきている。鉄道車両、船舶、EVの普及に伴うバッテリも含めた充電システムでDCタイプの電磁開閉器の普及が急速に進むことが予想される。
こうした中で、JEMAでは電磁開閉器などの事故を防ぐために、適切な時期に点検と更新を推奨している。電磁開閉器の故障例としては、溶着による焼損、短絡、ゴムや樹脂部品の経年劣化による破損、硫化銀生成による接点導通不良などが挙げられる。
JEMAの「電磁開閉器更新ガイダンス」のパンフレットでは、使用開始から10年が経過したり、製品規定の開閉寿命を経過した電磁開閉器の更新を促すほか、10年以下でも(1)電磁開閉器が異常に熱くなっている(2)電磁開閉器から異臭や異音がする(3)電磁開閉器の外観が変色している(4)電磁開閉器の周辺に塵埃が堆積している(5)サーマルリレーのテストボタンで、トリップ・リセット動作ができない場合がある、などの事象があればメーカーなどに相談することを求めている。
電磁開閉器を交換することで、事故の未然防止につながるだけでなく、事故発生時の復旧、原因追求や対策などの労力やコストを抑えることもできる。
電磁開閉器は、機器に内蔵して使用されることから、実際に使用される国・地域に対応した規格の取得が求められる。JIS・JEMやIEC、VDE・DIN、BS・ENなどをはじめ、UL、CSA、CE、TUV、GB・CCCなどが代表的な規格として取得や準拠している製品が多い。
規格だけでなく、用途によっては一定の機能や寿命に対応することを求めるニーズもある。つまり、特定用途専用にスペックを絞った設計で、コストを抑えている。
一般的に電気回路には、配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーが使われ、短絡事故からの電線保護、電動機の過負荷保護などを行っているが、これらの省スペース化と省配線化を実現できるモータスタータの動向が日本でも注目されている。配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーの代わりに、モータブレーカと直流低消費電力型の電磁接触器を採用することによって取り付け面積を、従来の3分の1まで削減することができる。
モータブレーカと電磁接触器を専用パーツで一体化しているために、従来の配線用遮断器と電磁接触器を電線1本1本で配線する作業も不要になり、配線時間を従来の半分に削減することが可能になるなど、トータルコストダウンに効果を発揮する。欧米を中心にこの方式が普及しているが、日本では配線方式や電圧の違いなどからあまり普及していない。しかし、日本から海外市場に向けて輸出する機会が増加するなかで対応が求められており、関連メーカーは計算方法など実際のマニュアルなどを準備しながら対応を図っている。
電磁開閉器市場は、大きな伸長にはなっていないものの、DC機器の普及、IoTに関連した情報機器の普及など今後の市場拡大を見込める要素も多い。グローバル市場も含め、今後も安定した需要を維持していくものと思われる。