ドイツ・ハノーバーで、3月20日から5日間に渡って開催される『CeBIT 2017』(セビット/国際情報通信技術見本市)に強い関心が集まっている。IoT、ビッグデータ、クラウド、セキュリティーなど、世間を騒がす新技術のITビジネスに特化した世界最大の商談展示会であり、昨年度も出展者数3300社、来場者数20万人を超える超人気見本市であったが、今年の『CeBIT 2017』は我が国日本で特に注目度が高くなっている。
日本政府、経済産業省や総務省、JETRO(日本貿易振興機構)はじめ、産業界でも日本を代表する大手製造業各社の力の入れ方は半端ではない。日本は、パートナーカントリーとして日本を代表する大企業が、ジャパン・パビリオンに出展し、中小企業・ベンチャー企業を合わせ日本企業の出展者数は、過去最大規模118社に達している。
当社、アルファTKGもベンチャー企業として小さなブースを構え、日本やアジアのお客様から評価を得ている『中小製造業向けIoTシステム(alfaDOCK)』を出展する。19日夜に開催される前夜祭(ウエルカム・ナイト)には、安倍首相とメルケル首相が登場予定であり、世界中から2000人を超えるVIPが集結。日本からも大企業のTOPがそろう、前代未聞の前夜祭となりそうである。これだけ大規模に各社がIoTに関心が集中するのも、日本では過去に例がないのではないだろうか。
ドイツから始まったインダストリー4.0などには比較的鈍重であった日本の各社が、IoTに一気に踏み出す節目となることは、どうも間違いなさそうである。これらの大きな流れが、日本の中小製造業にも影響を与えていくことは必至である。今回は、CeBIT開催目前に控え、中小製造業の焦点を当てた最先端技術の活用事例を予想してみたい。
今回のCeBITのトップテーマは、「d!conomy-no limit」。『デジタル・トランスフォーメーションの無限のチャンス』に焦点を当てている。
『デジタル・トランスフォーメーション』とは最近の重要なキーワードであり、簡単に言えばデジタル社会への移行を意味する言葉である。もっと直接的に言い換えれば、「デジタル化への移行ができない企業は消滅する」を意味し、中小製造業にとってデジタル化への移行こそが、企業の存続をかけた戦略であることを明言しているキーワードである。世界中から出展する3000社超の企業が、さまざまな角度から『デジタル・トランスフォーメーション』、すなわちデジタル化社会を構築する商品やサービスを提案するのが『CeBIT 2017』である。
このような膨大な新技術から、中小製造業に強いインパクトを与えると思われるイノベーションをピックアップし、今まであまり語られていない中小製造業の未来工場を予見してみたい。
最大に注目すべきは、自動運転車両の動向である。自動運転技術とその進歩はさまざまな点から報道されており、来るべき時代には完全自動運転が実現されると言われている。
『CeBIT 2017』では、来場者は運転手のいない自動運転技術を搭載したスイスポストの自動運転車両「スマートシャトル」に試乗し、会場内を回りながら先駆的技術を体験できるそうである。
と聞くと、なんとなくゴルフ場の電動カートの自動運転をイメージしがちだが、磁気誘導により軌道上しか走れないゴルフカートとは雲泥の差である。ドライバー不要の自動運転は、米国の報道ではしばしば「Drive by themselves=クルマが自ら運転する」と表現され、ドライバーが認識、判断している作業を、車に搭載された人工知能が代替する完全自動運転技術として紹介されている。
周知のごとく自動運転技術は、Google社がディープラーニング(深層学習)による人工知能を活用した意欲的なイノベーションにより、他社を圧倒している。また、センサーやカメラ技術など膨大な要素技術が自動運転車に必要となり、その大半が『CeBIT 2017』に集結するのである。
これらの技術が、中小製造業の工場に投入されたらどうなるか?
まさに「自動運転機械」「自動運転工場」の誕生である。従来の熟練工による段取り作業と加工は、機械に搭載された人工知能が自動で行う。そして、加工後の製品を自らが自動で搬出し、自らが自動で検査する「自動運転=スマートシステム」が誕生するであろう。ベテランの運転手に代わり、あらゆる状況判断を車が自分で行い、車が自分で運転する「自動運転車」と機械が自分で加工する「自動運転機械」は類似系のイノベーションである。
ノウハウに誇りを持つ熟練工に猛反発を受けそうな「自動運転機械」には、今まであまり語られない革新的なメリットが存在する。それは、「事故の減少」である。製造業での『デジタル・トランスフォーメーション』のメリットの多くは、デジタル化による生産性向上として語られることが多いが、実は安全で事故のない快適工場の実現には、デジタル化・自動運転機械が非常に有効な武器となる。忘れてはならない、追求すべき課題の一つである。
現在、製造業での労災事故は全産業の4分の1を占めている。「はさまれ・巻き込まれ」事故が全体の約3割を占めており、この傾向は過去20年以上変わっていない。
『デジタル・トランスフォーメーション』によって、製造業の労働災害ゼロが実現する日も近い。生産性向上の観点ばかりではなく、リスクマネジメントの観点からも、『デジタル・トランスフォーメーション』は、安全で、人に優しい魅力的な工場づくりに大いに貢献するだろう。『CeBIT 2017』では、この点にも留意し、情報収集してみたいと思っている。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。