今、なぜ働き方改革が注目されているのか〜労働力人口が減少 社会全体で生産性向上を〜
最近「働き方改革」がにわかに注目を浴びている。日本社会の労働力人口が減少する傾向にある一方で、企業内では少なからず長時間勤務・残業などの過重労働が存在しているのが実態だ。
昨今の強制的に実施されて来ている、退社時刻の設定や残業時間に上限を設けるといった規制強化などは、表面的な対処に過ぎず日本のマンネリ化した労働慣習に対する抜本的な対策とは言い難い。
こうした状況の中において政府が発表した「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命」では、労働力人口の減少に対する処方箋として「働き方改革」を進めることで社会全体の生産性を向上させる必要性を指摘している。
生産の現場において「実践な生産性向上の指導」を数多く手がけている、製造系コンサルティングファーム大手企業、株式会社テクノ経営総合研究所の相澤淳一経営企画室長に「設備投資や強制的制度に頼らない抜本的な働き方改革」について聞いた。
-日々「働き方の改革」を制度改革や設備投資ではなく生産現場からの視点でご覧になっています。
相澤
私はコンサルタントとして生産現場・間接部門の現場に、度々足を運び「工場診断・改革提案」を行い、製造業のお客さまの生産性向上のためお手伝いをしてきました。さまざまな工場にお伺いして感じることは「まだまだ大きな改善余地が残っている企業・工場が大変に多い」ということです。
一例としてある企業で「工場診断」を行った際のお話をしましょう。この工場で「価値を生んでいる作業のみ」をカウントしてみましたところ、全体の活動のおよそ20%しかありませんでした。それ以外の80%は何をしているのかというと「価値を生んでいない作業」ということになります。つまり、「改善対象が大変に多い(この企業では80%)ことに気づいていない企業・工場が大半」なのです。
例えば運搬作業。手で運んだり、フォークリフトで運んだり、クレーンで運んだりしますが、運搬作業は1メートル運んでも100メートル運んでも物の価値が上がるわけではありません。
こういった作業を「付帯作業」と呼びます。掃除や工具の交換、段取り・準備、記録も同様に考えることができます。生産には欠かせませんが減らせるなら少ない方がいい作業といえるでしょう。
「価値のある作業」でもなく「付帯作業」でもないのは「無価値(ムダ)作業」です。作業と作業の間の「手待ち時間」「空歩行」「手直し」などが当たります。現場でベルトコンベヤーで製品が流れて来るまで待っているといったことはよくあるのですが現場にいる本人は意外と気づいていないものです。
この企業では生産が追いつかないとのことで1日平均2時間の残業をしていましたが、先ほどもご説明したとおり、8時間プラス2時間の残業、計10時間の作業のうち、価値のある作業をしているのは20%ですから、すなわち2時間だけです。
あとの8時間は「価値を生んでいない作業」であり、「減らすべき付帯作業」と「なくすべき無価値作業」なのです。このように大きな改善余地はまだ見逃されたままです。「働き方改革」への取り組みは、①まずこの80%の「価値を生んでいない作業」に気づくこと、②その中から順番にとりあげて、③減らす・なくすことに着手すべきなのです。
そのために、現場第一線で働いている人たちが自らこの「価値を生んでいない時間に気づけるようになること」が最初の取り組みになります。その具体的な方法を知ることと実践することが問題解決と成果実現の早道になるのです。
◆あいざわ・じゅんいち
株式会社テクノ経営総合研究所 経営企画室長。
品質保証・生産管理・工場プロセスなどの改善チームリーダーとして、品質安定化・省力化・少人化・生産合理化などを経験し現職に従事。あらゆるメーカーにおいて徹底した実践指導を行い、改善効果を経営成果に結びつけるコンサルティングを実践している。
詳しくはhttp://www.tmng.co.jpまで。