FAコンピュータ IoT支える中核に 非製造分野でも用途拡大

産業用(FA)コンピュータの用途が広がっている。工場やインフラ設備など停止が許されない環境での採用に加え、IoTの言葉で代表されるつながる社会の到来の中で、エッジコンピューティングやクラウドコンピューティングの一端を担う、ネットワークハブやゲートウェイ的な役割も果たそうとしている。今後は確実に市場が広がりそうだ。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラの市場規模は、範囲の捉え方で異なるが、メーカーや調査会社などの見方を擦り合わせると、日本の市場規模は約300億円、グローバル市場規模は約2300億円と推定されている。ボードタイプやパネルコンピュータ(パネコン)など、分類が難しい部分もあり、実際はさらに大きな市場を形成しているという見方もある。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、製造業のさまざまな分野で使用されている。半導体・液晶製造装置、計測・検査装置、工作機械などのディスクリートの生産設備をはじめ、鉄鋼、石油、化学、紙、食品飲料といったプラント設備などがある。

非製造分野でも用途が拡大している。水処理、ごみ処理、ダム監視、空港設備などの公共システム、鉄道や道路などの交通システム、テレビやレーダ設備などの放送通信システム、電力システム、さらには、各種医療機器・装置などが挙げられる。

このうち、産業用(FA)コンピュータ/コントローラが多く使われている半導体・液晶製造装置などの生産は、このところ絶好調だ。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の調べによると、2016年度が前年度比23.1%増の1兆9805億円と、近年にない高い伸びとなっている。世界市場でも拡大しており、SEMIの調べた16年の半導体製造装置販売額は、412億4000万ドルと前年比13%増加し、受注額も同24%と大幅に伸びている。

IoTに伴う情報化で半導体を使用する、情報端末、カメラ、自動車の自動運転などに代表される分野での投資が継続している。液晶も有機ELとしてスマホ、さらにはテレビなどに拡大しようとしており、投資拡大につながっている。

人件費上昇や安定した生産確保などの点からロボットの生産も増加している。日本ロボット工業会(JARA)では16年度の生産を過去最高の7000億円、17年度は7500億円まで拡大する見通しを立てている。中国をはじめとしたアジアの新興国の人件費上昇をはじめ、国内でも人手不足に加え、ロボットでなければできない用途が増えてきており、ロボット導入を進める企業が増加している。

停滞していた工作機械も、16年12月からは3カ月連続で前年同月を上回っており、上昇基調に転じた。15年、16年と2年連続減少となっていたが、日本工作機械工業会では17年の出荷額を1兆3500億円(前年比8%増)と3年ぶりにプラスを見込んでいる。中国市場が回復基調に入ってきていることに加え、スマホ、自動車関連で引き続き旺盛な設備投資が計画されており、急速な回復が予想されている。

昨今のIoT化の流れの中で、産業用(FA)コンピュータ/コントローラの果たす役割も広がり、ますます大きくなってきている。

今まで産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、工場やインフラ設備などに代表される24時間連続稼働や、停止が許されない高信頼な制御が求められる用途で数多く使用されてきたが、最近はさらに用途を広げ、インターネットなどをつないだ環境下で使用されるケースの増加とともに、果たす役割が変化してきている。Ⅰ4.0などに代表されるIoTへの対応によって、これらの生産や監視などの情報がクラウド上にあるサーバーに蓄積されて活用されることが増えてきている。工場やシステム単位から、全社的やグループ会社も含めた一体的に活用していく動きが強まり、その中心として産業用(FA)コンピュータが活用する動きになってきている。

増大する情報量に対応

IoTでは、あらゆるものにセンサーを付けてつなげることになるため、情報量は飛躍的に増大することになり、これを処理するコンピュータシステムの負荷も高まる。特に製造業や社会インフラ用途で使用される産業用(FA)コンピュータには、冗長性とリアルタイム性が求められ、末端の各種情報を直接クラウドシステムで処理する方法では、タイムラグによる遅延リスクが懸念される。

そこで、センサーなどの下位層に近いところにフォグコンピュータやエッジコンピュータを端末として設置して一定の情報処理を行うことで、上位システムへの情報遅延防止と負荷の軽減を図ろうとしている。同時にインターネットなどとつながることで、外部との接続機会が増加し、制御セキュリティへの対応も求められてくる。工場や社会インフラシステムに対するハッカー攻撃も年々増加しており、制御セキュリティ対策はますます重要性を高めている。

IoTの進展する中で、産業用(FA)コンピュータの処理する情報量は増加しており、ハードに求められる機能もますますレベルが高くなっている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、汎用パソコンとは異なり、長期間の安定した供給体制や、連続稼働に耐える、信頼性の高い設計などが求められる。汎用パソコンのように数年ごとに買い替えするのが当たり前のような使い方に対し、5年、10年と同じ機種をトラブルなく使い続けることが多く、求められる要求レベルも高くなる。

工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることが前提のため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。例えば温度特性もマイナス25℃~プラス60℃ぐらいの範囲に耐えられる設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。

また、制御機能も、生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレー)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、一つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。

このような場合、最先端のCPUや大容量メモリなどハイスペックな製品が要求される。インターフェースについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。

拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。

CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理と省エネを両立している。

ダウンタイム削減が課題

産業用(FA)コンピュータ/コントローラで最重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリー機能、ハードウエア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。

24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。

PLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分はWindows OSで処理を行うなど、1台のPCで制御から処理までを行っている。

数年前まで、Windows OSとリアルタイムOSを同時に走らせることは難しかったが、近年はコンピュータの高性能化により、簡単に実現できる。特に最新のプロセッサとリアルタイムOSを有機的に連携することで、リアルタイムによる処理性能も大きく向上、42マイクロ秒で2万ステップの高速処理が可能になっている。

ハードウエアだけでなく、ソフトウエアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinux OSの採用が多くなっている。

セキュリティ対策を重視

産業用(FA)コンピュータ/コントローラを取り巻く環境で最近重要性が高まっているのがセキュリティ対策だ。従来、工場や公共設備は外部とネットワークなどが遮断された形で存在していたが、インターネットの普及がこうした隔離された状況を一変させた。

IoTへの対応は、隔離された状況を「つなぐ」という形で開放することになったが、その負の側面としてクローズアップされている。事務所などで使うコンピュータではセキュリティ対策は従来からもとられているが、制御システムのセキュリティ対応はここ数年の問題で、対応が遅れているのが現状だ。原子力発電設備や下水道設備など、われわれの生活に直結する部分が多く、被害が拡大する危険性を秘めている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラ各社は、制御セキュリティ対策を施した製品開発を進め、例えばいわゆる「ホワイトリスト制御」である。マルウェア情報を検知する。「ブラックリスト制御」に対し、動作して良いと判断した「良いもの(ホワイト)リスト」のみを決め、これ以外には動かないように制限を設けるものである。

セキュリティに対応して、産業用(FA)コンピュータ/コントローラの認証制度もできており、徐々に対応が強化されつつある。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラはIoTを支える中核として今後も大きな存在を発揮するのは確実だ。

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