IoT・スマートファクトリー リンクウィズ代表取締役 吹野 豪に聞く 産業用ロボットをデータプラットフォームに 「モノづくりシステム」海外へ

浜松市を拠点に対象ロボットを選ばないインテリジェントロボットソフトウェアを開発・提供するリンクウィズ。3DCAD開発で培った技術をベースに、自動ロボットコントロールツール「L-Robot」や自動検査ツール「L-Qualify」を開発、産業革新機構からの出資も決定している。産業用ロボットとソフトウェア技術で製造現場の多くの課題を解決する同社の技術や今後の展望について、吹野豪代表取締役に話を聞いた。

-リンクウィズ創業の背景を教えてください

私自身、前職で3Dビジョンセンサー、3DCAD(主に3次元形状処理)関連の新規事業開発をしていたのですが、2015年3月に志を同じくする仲間2人と一緒に創業しました。2005年に初めてのロボットシステムの担当をした時、「ついにこんな時代が来た」と確信したのですが、今でも決まった動きしかできないロボットの不得手を人が補うといった状況が散見され、あまり進歩していないように感じます。しかし、立ち上げに時間がかかる、ワークの変化に追従できないなどロボット導入に関連する課題はある程度見えています。さらに、ロボットが持つ座標データを活用することで、モノづくりの仕方そのものを変える可能性を秘めています。当社はロボットをいかに活用するかというソフトウェア技術を磨いています。

また、政府もロボット導入を推進していますが、肝心のティーチング人材の不足がボトルネックになり競争力強化の妨げになろうとしています。私が2005年当時トライした「常に動きを補正する考えるロボット」を実現したいという思いから事業を進めています。

-常にロボットの動きを補正するツールがあると聞きました

ロボットティーチング自動生成ツール「L-Robot」を開発しました。3DCADデータ無しで、物体に合わせたティーチングを自動生成したり、既存のティーチングを基に物体に合わせて軌道補正したりすることができるシステムです。通常、産業用ロボットは決まった通りにしか動けません。そのため、ワークをしっかり位置決めし、ワークのばらつきも加味したティーチングや補正の仕組みを立ち上げ時に組み込む必要があります。L-Robotを採用することで、ティーチング作業時間を大幅に削減し、治具の共通化が実現できます。部品のばらつきでロボット導入ができなかった工程でも自動化が進められ、少量多品種・省人化など多様化するモノづくりの自動化に対応できます。

-オフラインティーチングとは違うのですか?

まず3DCADデータが不要で、ロボットの目の前にあるワークのばらつきに自動追従する点が大きな違いです。精密につくられている自動車部品でも、多少のばらつきは避けられません。また、異なる部品の場合でもルールだけ事前に決めておくことで段取り替えなどを行わずに、従来とは違う次元での混流生産が可能になります。実際にあるユーザーでは従来製品に合わせて12本作った製造ラインを、L-Robotを採用することで混流生産がさらに推進され、2ラインに集約できたという事例もあります。ロボットの動作に起因する製造ラインの制約から解放されることで、モノづくりの仕方自体が変わった事例です。常に動きを補正する考えるロボットともいえます。

-具体的な仕組みを教えてください

当社が提供するのはソフトウェアとそれを搭載するコントローラ、レーザセンサの3点です。レーザセンサは現在キーエンス製LJ-Vシリーズを使うことが多いですが、メーカーは問いません。仕組みとしては、ロボットアーム先端に搭載したレーザセンサの測距データとロボットの座標を基に、3次元点群データを自動取得します。そのデータからロボットティーチングデータを生成し、ロボットに指示を出します。ロボット側は受信した座標、速度で動くだけですので、難しいセッティングは不要です。ロボットメーカーによる座標系の違いなどはソフト側で吸収しますので、ロボットメーカーも問いません。3次元点群データの生成と、それをロボットが理解できる数値に変換する数学的処理がポイントになります。

-ティーチングが楽になるだけではないということでしょうか

ロボットが個々のワークに合わせて動くだけではなく、データを外部機器にフィードバックできますので、さらに応用例は広がります。例えば溶接工程での実例では、現物のギャップ距離を出力できることを応用しました。そのデータを基に溶接条件(電流、電圧、速度)をリアルタイムに変更して常に最適な条件で溶接を行うことで、品質や歩留まりの向上につなげられています。あたかも、ロボットがベテランエンジニアのように溶接作業を行います。インテリジェントな自動ロボットコントロールを核にしたマスカスタマイゼーションの一例です。

-検査工程での実績を教えてください

L-Qualifyとして、L-Robotと同様の構成で自動検査ツールを構築しています。ロボットの高い繰り返し精度と、生成された3次元点群データからさまざまな形状を認識し、ロボットによる自動スキャンと自動検査を実現できるため、人が介在しない定量検査を想定したツールとして、幅広いワークに対応できるマルチ検査ラインを実現します。例えば溶接ビードの検査(幅、高さ、長さ、位置、アーク切れ)では、従来ノギスやゲージなどで検査していた所をL-Qualifyで検査することで、人による測定値のバラツキをなくし、多点での全数検査を実現しています。溶接位置とフレーム全体との位置関係なども全てデジタルデータ化できます。導入事例では、不良検知率が2倍に、時間は90%短縮、トータルコストで35%程の削減を実現したケースもあります。

-今後の展望を教えてください

リアルタイムに改善できる工場を目指し、「L-Factory
Cloud」を開発中です。これは、L-RobotやL-Qualifyを始め、生産現場の各種センサやコントローラから集めた全工程の生産品データを、クラウドで集約します。そのデータを活用し、必要に応じてAIなど外部システムとも連携しながらユーザーが工場の状態をリアルタイムに把握し、経営の意思決定ができる仕組みになります。異常検知、異常予測、異常回避がリアルタイムにでき、生産管理レポートの精度向上や工数削減ができます。経営者は正確な数字を遅延なく把握することで正しい意思決定を行うことができます。ロボットがデータプラットフォームになるイメージです。

この仕組みが広まると次の展望が開けます。データが集まることであらゆる生産工程のナレッジが蓄積され、最適な製造条件が算出可能になります。その条件をL-Robotなどで再度活用することで、ロボット加工の設定を自動的に提案したり、高度なロボットエンジニアを必要とすることなくロボットを活用した加工が簡単にできたりするようになります。町工場で簡単に使えるロボティクスです。

ロボットシステムインテグレータにとっても立ち上げ工数の削減やワークのバラツキ、変更対応にかける時間やリスクがなくなります。日本は、自動車や部品を作り、輸出することが得意な国です。私達の使命は取引先メーカー様、企業様と強いパートナーシップを組み、日本が誇る「モノづくりシステム」を国内のみならず海外へ伝えることだと考えています。

ロボットは高付加価値な仕事をするひとつのツールだと思っています。単純作業をロボットに置き換えることができれば、人はより創造的な仕事をするチャンスを得ることができます。今このように自分の思いを事業として進められているのも、地元浜松をはじめ多くの出会いや支えがあってと感謝しています、当社の理念でもある「徳をもって事業の基となす」を常に意識しながら、産業用ロボットを核にし、本当の意味で関係する全ての人々に役立つ技術をこれからも開発、普及させていきます。

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