製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望(7)

若手技術者は本当にチャレンジ精神がないのか(後編)

学歴・学位より成果重視を

企業の人事担当者や経営者の方、もしくは中堅以上の技術者の方々が「若手技術者は本当にチャレンジ精神がない」と感じてしまうのは、いくつかの根本原因が考えられます。

以下に主な可能性を列挙します。

1.何かをやりたいと手を上げたことに対し、やらせてみようという風土がない

2.チャレンジ精神を持つ若手技術者の見本となる技術者が中堅以上でいない

3.書類選考による、学歴や学位を重視しすぎている

4.組織体制やスローガンが頻繁に変わっている

5.若手が上層部に物言える体制がない

前回に引き続き、これらがなぜ若手技術者のチャレンジ精神を押さえつけ、指示待ち姿勢に向かわせるのか説明します。

3.書類選考による、学歴や学位を重視しすぎていないか

学歴や学位というのはその人が物事に対して真面目に取り組むことができるのか、という一指標としては有効ですが、これを重視しすぎてはいけません。最もよくない例が、学歴や学位によって職位の上がり方に差異が出てしまうこと。これは、学生の時の貯金で今後が決まるのだ、という印象が若手技術者に備わってしまい、いくら頑張っても学歴や学位には逆らえないんだ、と考えるようになりモチベーションが低下してしまいます。

きちんと成果を出すなり、企業の利益に貢献している人材であれば学歴があろうとなかろうときちんと評価を行う、という風通しのいい風土を感じた若手は生き生きするはずです。なぜならば、自分も頑張れば何らかの報酬が得られるのだ、と考えられるようになるからです。

「頑張って成果を出せば報われる」という評価システムを社内に構築することは極めて重要です。専門性至上主義にとらわれる故、学歴を無意識に重要視してしまう技術者だからこそ、その常識を破壊するという試みが重要です。

4.組織体制やスローガンが頻繁に変わっていないか

軸ブレする組織に属した若手技術者は、言葉にできない不安にさいなまれ続けることとなります。この不安により、前に一歩出て何かやってみよう、というチャレンジ精神を発揮することができないケースも多々あります。

1年前まで、「当事業部はAという製品の販売に向けてあと、3年でその開発をやりきる!」といっていたのに、1年後である現在、「Aという製品ではなく、Bという製品に方針転換する」といっているようでは、若手技術者たちからも初めの戦略は何も考えずに立ち上げたのか?という疑いを持って見られてしまいます。

場合によっては正義と思ってやっていたことが、実は無意味になってしまい、今までやってきたことを全否定されることにもつながりかねません。そのような状況にあっては、若手技術者は自らのチャレンジ精神を発揮して自主的に仕事を創出しよう、という気持ちにはなれないと考えます。

ただし、場合によっては変更を余儀なくされる場合もあるでしょう。その場合は、その変更理由を論理的かつ客観的にきちんと説明する、ということが重要です。

組織の方向性は可能な限りぶらさない。万が一変更になる場合は、その理由を論理的かつ客観的に説明する。これによって、若手技術者の不安感を低減させることが可能となります。
5.若手が上層部に物言える体制にあるか

これは最も多いケースです。程度の差はあれ、パワーハラスメントで若手技術者の発言を徹底的に抑え付ける文化を持つ企業というのはまだ多々あります。

もちろん、理不尽なことをいったり、非常識なふるまいをしたことについては若手技術者を叱る必要はありますが、若手には発言を認めないという趣旨の圧力というのは、若手技術者が委縮をする一方で、新しい提案は出てこないでしょう。

そうすると、中堅以上の技術者や経営者は、「最近の若手はおとなしい」とか「覇気がない」ということになるのです。「俺が若いころは…」といいたくなる中堅技術者の気持ちもわかりますが、その時と今の組織の状況は当然異なっているでしょうし、時代背景も全く別物。そして何より、中堅以上の技術者は自分の過去を拡大解釈しがちである、という事実もあります。やはり、「今」という時代と組織の現状に基づいた議論をしなくては、冒頭に述べたチャレンジ精神にあふれた若手技術者を育むことができません。

どんなことであれ、取りあえず話だけは聴いてあげる、という姿勢を見せることが大切です。もしかすると若手技術者の提案や意見を聞き入れる専用のデータベースや聞き役の人を設定するというのもいいかもしれません。どのような形にせよ、上にものをいう体制を少しずつでも形成していくことが重要です。
いかがでしたでしょうか。

一般的な例を用いて説明いたしました。技術者育成研究所では、若手技術者の教育において、自主性と実行力を重視しています。その中で自主性については、「自分の好きなこと、興味のあること」を軸に実業務に落とし込んでいくという理論が主となります。

若手技術者のチャレンジ精神を育み、組織を基礎から強くするということについて、技術者育成研究所は若手技術者育成プログラムと若手技術者育成コンサルティングの二本立てでサポートしていきます。

吉田 州一郎(よしだ しゅういちろう)FRPコンサルタント。大手機械メーカーの航空機エンジン部門にて、10年以上にわたりFRPに関連する業務に従事。社内試作から始まったCFRP航空機エンジン部品の設計、認定開発、海外量産工場立ち上げを完了。本部品は先進性が高いという評価を得て、世界的FRP展示会JECにてInnovation award受賞。新規FRP材料研究においては、特許や海外科学誌への論文投稿掲載を推進し、Polymer Journal、Polymer Compositesをはじめとした科学誌に掲載。
- Professional member of Society of Plastics Engineers(SPE;米国プラスチック技術者協会)
- 高分子学会 正会員
- 先端材料技術協会 正会員
- 繊維学会 正会員
- 特定非営利法人インディペンデント・コントラクター協会(IC協会)正会員
- 福井大学非常勤講師

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