販売戦力の基本が大事 営業教育オンリーはダメ
立身出世を求めて戦いに明け暮れた戦国の世では、武士が活躍する時代であった。戦国の世も徳川家によって天下統一が成り、平和な世の中が続くと、一攫千金を求めて商人が活躍する時代になって次々と大商人が誕生した。その先駆けをなしたのが大阪の豪商・鴻池であった。
鴻池の始祖は、戦国武将山中鹿之助の長男と言われている。山中鹿之助と言えば、毛利元就に滅ぼされた山陰地方の雄である尼子の家臣である。「われに七難八苦を与えたまえ」と三日月に向かって祈ったという有名な孤高の武将である。
山中鹿之助は何度戦いに敗れても、主家である尼子家再興を念じ、前記の言葉を発して自らを鼓舞し続けた。強靱な意志と肉体の持ち主だったから、何度負けても立ち上がったのだろう。
仮に山中鹿之助が強い部下達を率いて戦ったとしても、勝ったり負けたりして最後はやはり負けたと思う。七難八苦を与えたまえと言えるほどに強い人は、自集団に向かっても鼓舞する戦法をとると思うからである。強靱な人に率いられた強靱な集団が戦いに強い集団とは限らないのだ。
鴻池家の始祖となった鹿之助の長男は、鹿之助のような豪傑ではなかったのだろうが、機を見て敏であったようだ。戦国の世も終わり、これから平和な時代が続くとみた彼は、武士をして商人となったのを見れば分かる。江戸期を通じて日本を代表する豪商となって昭和の大戦まで鴻池財閥として勇名を馳せたのは、一人ひとり力に頼ったからではない。組織の能力を育てる人が代々続いたからである。
現代でも組織の能力をいかに作り、いかに育てていくかが代々つながっていくことになるのは明白である。
部品や機器商品メーカーと契約販売店の関係も一つの組織として捉えることができる。その関係は、業界の草創期に作られて、時代を経るごとに育まれてきた。お互いが売り上げを拡大するために、メーカーは販売店支援を、販売店は支援を活用して売り上げを拡大する役割を担ってきた。販促ツール、販促会議、展示会、商品技術勉強会、販売リベート情報提供、物流など、売りやすくするためのサービスをメーカーは次々と打ち出して販売店との関係を強化してきた。
しかしその関係の蜜月時代は業界の成長期にピークを迎えた感がある。業界の成熟期を迎えた1990年代中期からメーカー間の競争が激しくなり、メーカーの施策が変わった。現在、メーカーの一方的な支援をディーラーヘルプと言っているようだが、ディーラーヘルプの結果は、メーカーが思うほどに機能してはいないようだ。このことはディーラーヘルプの根幹にあたる2通りの基本が欠如してしまったことに起因している。
一つ目は、互いの信頼関係に関することで、前2回にわたって紙面で述べてきた。もう一つは、販売戦力に関することである。チャネル販売型メーカーにとって販売店が戦力を強化してくれるような支援策は欠かせない。販売戦力を強化することは、販売店も望むところである。
そもそも販売戦力とは何であるか。販売戦力とは個々の販売員の技量を上げるだけではない。販売戦力とは、①戦略戦術②販売作戦遂行力③個々の販売員の技量–の3項目から成り立っている。したがって、この3項目にどのように関わっていくかを抜きにしてディーラーヘルプを語ることはできない。
制御部品や機器の業界では、戦力強化といえば販売員を増やすか、販売員の営業教育に力を入れる。昨今の販売店では、市場の不透明感があって先行して人数を増やすことができず、営業教育をもって戦力アップを図ろうとしている。特に即戦力をつけさせるため、取り扱いメーカーの商品技術に関する営業研修に行かせることになる。しかし戦力は、前記3項目から成り立っていることを忘れてはならない。