SIerの新製品開発 ―失敗する裏側にあるもの(中)

標準化or個別対応

矢野経済研究所では、YRI Business Direction Finderとして、下記のような分析フレームワークを提案している。主にBtoBでビジネスを展開する企業に対し、事業戦略の方向性を検討・策定する上で、汎用的に活用できるパワフルなツールだ。

【図表:ICT×B2Bの事業検討用戦略フレーム「YRI Business Direction Finder」】 矢野経済研究所作成

このマトリクスは、縦軸に「模倣困難性」、横軸に「製品・サービスの志向」をとり、4象限それぞれに「新製品開発戦略」「低価格戦略」「協調開発戦略」「ナレッジマネジメント戦略」と、その領域においてとるべき典型的な戦略を記したものである。

まず縦軸であるが、これは「模倣困難性(製品・事業)」の程度を示す。ITはテクノロジー・オリエンテッドなため、基本的には技術的進展が新たなイノベーションを生み出していく。典型的なのは、米国を中心に新たなITシステムが考案され、それが市場を席巻する動きだ。国内でいえば、その先進的な技術を早い時期に採用すると、競合に対して高い模倣困難性を生み出すことができ、ビジネスを先行することができる(図の左上)。しかし、ご存じのとおりIT技術は、すぐにコモディティ化する。技術的先進性が薄れると、模倣容易な状態になり、競合企業が増え、市場では低価格競争が起きることになる(図の左下)。

そして、今回のテーマでいくと大切になるが、横軸である。横軸は「製品・サービスの志向」で分類しており、左側が「標準化(志向)」、右側が「個別対応(志向)」と名前を付けている。
「標準化」とは、大量見込み生産のように製品を多くの人・企業に消費してもらおうとするものである。最大公約数的なニーズを反映した製品づくりとイメージすれば分かりやすいだろう。
右側の「個別対応」は、受注一品生産のように顧客の多様なニーズに応えようとする志向を意味している。システムインテグレーションなどはその典型であろう。
この標準化と個別対応、どちらを志向するかによって、組織体制や文化、意思決定基準などが異なる。冒頭で問題視したが、個別適応型の企業が新製品開発に取り組む場合、見えない足かせになるのが、この組織構造の背景の違いなのである。

■矢野経済研究所
主任研究員 忌部佳史
2004年矢野経済研究所入社。情報通信関連の市場調査、コンサルテーション、マーケティング戦略立案支援などを担当。現在は、製造業システムなどを含むエンタープライズIT全般およびビッグデータ、IoT、AIなどの先進テクノロジーの動向調査・研究を行っている。経済産業省登録 中小企業診断士

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