『CeBIT 2017』にかけた日本の意気込み
ドイツ・ハノーバーで、3月20日から5日間に渡って ビッグデータ、クラウド、セキュリティーなど、世間を騒がす新技術のITビジネスに特化した世界最大の商談展示会『CeBIT 2017』(セビット/ 国際情報通信技術見本市)が開催された。今回のCeBITは、日本がパートナーカントリーであり、『Japan』の文字が、会場内のみならずハノーバーの街中でも目立ち、世界中から訪れた20万人を超える来場客の目にも『Japan』が強く意識付けられたと思われる。日本は、経済産業省や総務省、JETRO(日本貿易振興機構)はじめ、産業界でも各社の力の入れ方は半端ではなかった。日本を代表する大企業が、ジャパン・パビリオンに出展し、中小企業・ベンチャー企業を合わせ日本企業の出展者数は、過去最大規模118社に達した。
盛り上がった日本政府の対応
イベントの開幕は、安倍首相とメルケル首相が登場した『ウエルカム・ナイト』から始まった。事前登録された関係者2000人と多数の報道機関が押し寄せ、日本の政界・財界の首脳陣がドイツにそろう前代未聞のイベントとなった。開催日午前中には、安倍首相とメルケル首相がそろっての会場視察で大いに盛り上がり、見本市の幕が開いた。
開催期間中、『ハノーバー宣言』が行われ、日独両国によるデジタル・トランスフォーメーションの共同路線が発表された。閉鎖的な日本が、ドイツと手を組むことの意義は極めて大きい。『CeBIT 2017』全開催期間を通じ、パートナーカントリーとしての日本の役割は、みごと成功裏に完了したと思われる。パートナーカントリーとしての準備と運営に苦心した日本の政界・財界の関係者や事務局のきめ細かな配慮は、会場中の随所で見られ、多くの来場者を感動させ『さすが日本だ』との声も聞かれた。
当社が『CeBIT 2017』に出展した背景
当社(アルファTKG)も日本参加企業118社の末席に名を連ね、製造業向けのIoT/ソフトウェア商品を中心に12号館に出展した。当社の社歴は3年と浅く、名実ともに駆け出しのベンチャー企業であるが、当社が『CeBIT 2017』に出展できたのは、日本政府の強い支援のおかげである。出展のきっかけは経済産業省、関東経済産業局からのお誘いであったが、その背景には、当社のソフトを活用しデジタル化の成功事例を持つ『中小製造業のお客様』からのご紹介が発端となっている。
『CeBIT』と『EuroBlech(ユーロブレッヒ)』との比較
『CeBIT 2017』の舞台はドイツ・ハノーバーである。筆者は前職の時代から、ハノーバーで開催される『EuroBlech(国際板金加工見本市)』に長年に渡り参加してきた経験があるが、『CeBIT』への参加は今回が初めてである。『CeBIT』は、デジタル時代の最先端技術を軸とする見本市であり、『EuroBlech』は、鍛圧加工・板金加工を軸とする見本市である。随分内容が異なる見本市であるが、製造業にとっては両者とも関心の高い技術であることは間違いない。
『CeBIT』は世界中の大企業や先端企業が押し寄せて、最先端技術が披露される『世界最大級』の見本市と称されている。一方の『EuroBlech』も、業界では文句なしの世界一の見本市である。日本で開催される『MF-Tokyo』や米国の『FabTec』を押しのけ、出展者・来場者数も圧倒しており、『EuroBlech』が世界中の業界関係者にとって、もっとも重要な見本市となっている。同じドイツ・ハノーバーで繰り広げられる2つの国際見本市を比較すると、顕著な違いが発見できる。
日本の勢いを感じない『CeBIT 2017』
『EuroBlech』では、常に日本メーカーが強い存在感を示してきた。日本から遠く離れたドイツで、日本メーカーは常に最新技術を発表し、世界中の同業者から注目され続けている。出展ブースの規模も、日本とドイツのTOPメーカー同士が、1位・2位の大きさを争っており、日本メーカーのプレゼン訴求力・デザイン力・集客力も全て超一流である。誰の目にも、ドイツと日本が世界の主導者を争っていることが一瞬で見えてくる。日本から訪問した来場客は例外なく欧州メーカーと互角に戦う日本メーカーの存在感に圧倒され、日本人としての誇りを持って帰国するのが常である。
しかし残念なことに『CeBIT』では随分様子が違っていた。パートナーカントリーとして安倍首相や日本政府関係者の努力とは裏腹に、日本の大手企業には(IoTで)世界を牽引する勢いは微塵も感じられない。日本からの出展者は過去最大規模118社と謳っているが、世界中から3000社が出展している。
出展者数でも全体の5%にも届かず、ブース規模も小さいので存在感に欠け、日本の5倍の出展者数を誇る中国勢にも負けてしまう。日本を代表する超有名企業ですら、小さなブースを構え、在来品の延長線商品を出品し、IoT/イノベーションと呼べるほどの魅力商品もなかなか見当たらない。
半面、欧米の企業のブースは圧巻である。ブース規模も巨大(超巨大と呼べる)で、提案スタイルも斬新。イノベーションを随所に発信し存在感がすごい。私は正直、この事実を目の当たりにしてかなりのショックを受けた。
TOP交渉が繰り広げられた『CeBIT 2017』
出展者としての目線で非常に驚いたことは、期間内に企業のTOP責任者が(当社のブースに)訪れ、直接交渉につながるケースが多かったことである。ブースに訪れた欧州はじめアジア・中東などの企業のTOPが、商品のプレゼンに耳を傾けた後、質問の連続。そしてビジネス交渉。事前にお会いしたことのない方々と見本市期間内にビジネスに直結する商談まで発展するスピード感には圧倒された。直接導入を検討するポーランドの700人企業の社長に始まり、ドイツ・中東・マレーシアなどで販売代理店を希望された社長様とは、現在具体的なアクションが進んでいる。
日本の見本市は、ほとんどが『見るだけ』『聞くだけ』の情報収集が中心であるが、さすがドイツの『CeBIT』は『商談の見本市』と言われることを実体験した。
『海外のTOP』の意欲的なビジネス商談
『商談の見本市』の実行は、海外の大手企業TOPの行動にも現れている。開催前日のウエルカム・ナイトと開催5日間の計6日間の間、ドイツ・ハノーバーには世界中からVIPが集結した。
TOP同士が集まる見本市の機会を最大限に利用し、積極的なTOP商談を繰り広げる姿は、海外のIT系企業の常識であるらしい。大企業・中小企業を問わず、企業のTOP陣は、開催期間中の時間を目一杯使い、即決商談に寸暇を惜しんでこなす習慣は、日本のTOPとは一線を画している。日本の大手製造業の会長・社長が、見本市期間中にTOP商談を行うことは稀である。『CeBIT 2017』でも、安倍首相が視察した初日には、経済界を代表する重鎮が数多く集結したが、2日目以降は大半がお帰りになり、TOP商談に日本の大企業TOPの姿はなかった。
『CeBIT』の一大トレンド-人工知能
『CeBIT 2017』の一大トレンドは人工知能の応用への挑戦である。
『CeBIT 2017』の主力テーマに自動運転車やドローンが挙げられるが、その中核を占める基本技術は人工知能である。日本でも、『人工知能アルファ碁が9段の凄腕を破った』との報道をきっかけに、人工知能ブームが沸き起こり、『人工知能が人類を超える』『職が奪われる』といった不安報道が活発化し、日本人にとって『人工知能は怖いもの』というイメージが定着している。しかし『CeBIT 2017』のトレンドを見る限り、好むと好まざるとにかかわらず、人工知能は直近であらゆる業種・業界に普及し、イノベーションの中核技術として活躍することは明白である。
Googleに代表される米国シリコンバレーの超ハイテク企業の人工知能にかける投資は半端ではない。日本が大きく遅れる重要な危惧の一つである。人工知能の開発に遅れたら、日本がロボット大国として君臨できる道も険しくなる。日本の優秀な機構を持つロボットも、『頭の悪いロボット』に成り下がる危険を秘めている。
『CeBIT』から見える未来
『CeBIT 2017』を要約すると、M2M/IoT・センサー・人工知能・ネットワーク・ビッグデータなど、第4次産業革命、デジタル・トランスフォーメーションを構成する要素はすべて出そろったと思われる。次のステップは、具体的な応用事例である。今回の見本市では、応用例の展示が比較的少なかった。要素技術や将来イメージが先行し、具体的な効果に直結するソリューションはこれからのテーマである。
日本ベンチャーの底力
日本からの参加企業118社は、大手企業に加え中小・中堅・ベンチャー企業が出展している。このベンチャー企業の中で、将来の日本を支える宝石のような企業を発見したので紹介したい。
企業名は、『PRODRONE』。創業2年目のベンチャー企業である。産業用ドローンを専用に扱う企業であるが、このドローンは、日本の伝統的な『摺りあわせ』のメカ技術に人工知能など最先端デジタル技術を融合させた商品を開発販売している。
ドローンは、米国超大企業から中国の安物まで、数多くの企業がひしめき合っているが、PRODORONEは米国の産業用ドローンに食い込む挑戦を始めた。米国のドローンはメカの構造が貧弱である。米国に潜在的なメカ製造技術がないので、優れたボディは作れない。もちろん中国も同様である。このドローンは、ロボットアームの技術を応用し精巧な機構部を持っている。ただ空を飛ぶだけでなくビルをよじ登るのも得意である。『頭が良くても体の弱い』米国のドローンと比べ、『丈夫で器用な体』を身につけたのがPRODRONEである。
ドローンは人工知能が勝負となる世界であるが、メカも重要である。日本の伝統的なメカ技術は簡単に真似することができない。これを差別化の基本とした日本式ベンチャー。勝算を持って、小魚がサメに闘いを挑む日本のベンチャー企業を発見し、日本の輝かしい未来を感じると同時に、とても幸せを感じるCeBITであった。
■たかぎ・としお
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。