藤本教授のものづくり考(1)

「良い設計の良い流れで」

私たちが言う「ものづくり」とは、テレビなどが喧伝するいわゆる「職人の匠の技」といった狭い定義によるものではありません。より日本の現場で実際に使われている用法に近いものです。すなわち、設計論、生産管理論、経済学などにもとづく広義な概念で、生産現場のみならず、開発現場や販売現場も含みます。

こうした広義のものづくりは、「良い設計の良い流れによって、顧客満足、企業利益、雇用確保の『三方良し』を実現するための企業・産業・現場活動」の全体を指します。付加価値は設計情報に宿っているので、「付加価値の良い流れ」を作るための現場主導の活動です。すなわち、「ものづくりの現場」(以下「現場」)とは、「モノ」ではなく「付加価値」が生まれ流れる場所のことになります。

コップを例にとれば、顧客はデザインや飲みやすさなど、コップの機能を付加価値として評価します。このとき、材料すなわち媒体が紙であれガラスであれ、どちらもコップと呼びます。つまり、コップとは設計情報の名まえです。自然石に水が溜まる窪みがあろうとも、それは「コップ」とは呼ばず、あくまで「石」です。そこには設計者の意図が感じられないからです。

すなわち、「ものづくり」とは、媒体つまりモノに、設計情報つまり設計者の思いを作り込むことを指します。またこのとき、媒体が有形であれば製造業であり、無形ならばサービス業になり、設計情報が流れる現場という意味では、製造業とサービス業に違いはありません。そもそもサービスとは、製造物の構造を操作することで発生する機能のことであり、一方製造業では、生産設備を操作することで発生した生産サービスによって製造物を作ります。「サービスなくして製造なく、製造なくしてサービスなし」なのです。

製造にせよサービスにせよ、産業の課題は「良い設計の良い流れ」によって付加価値を生み出すことであり、これが国民経済の土台であると私たちは考えます。

◆藤本隆宏(ふじもと たかひろ)
一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事、東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長。1979年東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社、89年ハーバード大学研究員、90年東京大学経済学部助教授、96年リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員、ハーバード大学ビジネススクール客員教授、97年同大学上級研究員、98年東京大学大学院経済学研究科教授、2002年日本学士院賞/恩賜賞受賞、04年ものづくり経営研究センターセンター長、13年一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事。「生産マネジメント入門〈1〉」(日本経済新聞社)ほか著書多数

オートメーション新聞は、1976年の発行開始以来、45年超にわたって製造業界で働く人々を応援してきたものづくり業界専門メディアです。工場や製造現場、生産設備におけるFAや自動化、ロボットや制御技術・製品のトピックスを中心に、IoTやスマートファクトリー、製造業DX等に関する情報を発信しています。新聞とPDF電子版は月3回の発行、WEBとTwitterは随時更新しています。

購読料は、法人企業向けは年間3万円(税抜)、個人向けは年間6000円(税抜)。個人プランの場合、月額500円で定期的に業界の情報を手に入れることができます。ぜひご検討ください。

オートメーション新聞/ものづくり.jp Twitterでは、最新ニュースのほか、展示会レポートや日々の取材こぼれ話などをお届けしています
>FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

FA・自動化、デジタル化、製造業の今をお届けする ものづくり業界専門メディア「オートメーション新聞」

オートメーション新聞は、45年以上の歴史を持つ製造業・ものづくり業界の専門メディアです。製造業DXやデジタル化、FA・自動化、スマートファクトリーに向けた動きなど、製造業各社と市場の動きをお伝えします。年間購読は、個人向けプラン6600円、法人向けプラン3万3000円

CTR IMG