見えない動きを察知する
リーダーの作戦遂行力重要
営業活動は戦いのように激しいものである。だから戦争用語が使われてきた。その中でもよく知られ、営業でよく使われている用語は、戦略・戦術・作戦・○○部隊、あるいはキャンペーンなどがある。かつて使われていたが、現代の営業の間では死語になっている用語もある。橋頭堡や斥候という軍事用語である。「そこにまず橋頭堡を築かなければならない」といっても何のことやら分からなくなっている。また「近頃の営業マンは商品やアプリケーションの紹介や売り込みトークはうまいが、斥候は下手だ」といっても伝わらない。
完全な敵陣の内に潜入して敵を崩す足掛かりにするための砦のことを橋頭堡という。人脈はなく、実績もない顧客やエリアに進攻するには、橋頭堡を築くのが手堅い営業活動である。顧客やエリアのどこに、どうやって築くのか考え、悩みながら過去の経験や他業種の事例などを参考にして、これが、ここが橋頭堡であると定めて、行動を開始するという流れになる。
また斥候に関していえば、部隊が未知の場所や敵陣の中に入って移動する時に、地形や敵兵の様子をつぶさに探らせるために選ばれる兵を斥候という。部隊に所属する兵は戦闘兵であり、斥候兵でもあった。
昨今の営業マンは商品教育・アプリケーション教育が行き届いているから売り込む能力は向上している。営業の能力にはプレゼンテーション能力と同等か、あるいはそれ以上に大事な能力がある。それは情報収集能力である。優秀な斥候は見える敵兵や敵陣の動きを観察するだけでなく、見えない敵の動きを察知する兵である。
一直線で拡大してきた成長期では、商品カタログ1枚が、サンプル1個が売り込みの武器となり、同時に情報収集の重要な武器となっていた。だから成長拡大期の営業マンは幸運であった。商品やアプリケーションの紹介や売り込み活動であっても、顧客は顧客内の情報や開発構想中の製品に関しても誇らしげに語ってくれた。顧客内の情報や開発構想中の製品のことを雑談のような軽い感じで会話をし、情報収集能力を高めることができたのが拡大成長期の営業マンなのだ。
現在の経済環境下では、商品やアプリケーションの紹介は売り込みにはなっても、顧客や市場の情報収集はできない。だから顧客や市場情報収集を、意識をして営業活動の中に取り入れないと半端な営業になる。それが「近頃の営業マンは商品紹介やアプリケーションの紹介は上手になっても斥候は下手だ」ということなのだ。
活気があって攻める営業をしている時は勇ましい軍事用語がポンポンと出るものだ。一直線で拡大していた時期がそうであった。昨今では競争・競合は激しさを増しているといわれているが、拡大成長期のように高揚感がないためなのか、軍事用語はポンポン飛び出さなくなった。よく使われるのは日常語になってしまったキャンペーンくらいのものである。
軍事用語が営業で飛び出さなくなった理由がもう一つある。営業戦力強化のため一人ひとりの営業マンの能力を高めることを重視するあまり、組織だった動きの重要さを深く考えていないことである。特にメーカーと販売店で構成するディーラーヘルプチームは、組織としての動きがなくなっている。
ディーラーヘルプ組織体はもともと異なる文化を持った同士の組織体である。だから役割の違う別々の艦隊を一つにした連合艦隊に似ている。連合艦隊は個々の艦隊まかせでは決して勝てない。ディーラーヘルプとしての連合艦隊が顧客や市場に進攻していくには、目標に向かって決定した作戦を実行せねばならなくなる。そこでの成功の可否は個人まかせの足し算でなく、リーダーの販売作戦遂行力が重要となる。