■「周回遅れ」の日本中小製造業【デジタル変革】への道しるべ
世界最大のIT見本市「CeBIT2017」盛況
2017年3月「CeBIT2017」(セビット/国際情報通信技術見本市)が、ドイツハノーバーで開催され、世界最大の名に恥じない盛況ぶりで閉幕した。今年のCeBITは、日本がパートナーカントリーを担い、安倍首相も駆けつけ、メルケル首相とともに開会スピーチや会場視察を行い、日本のプレゼンスも大きく向上した。しかし、世界各国から集まった出展者の規模や内容の充実ぶりには、率直に驚かされた。欧米各国や中国などの取り組みは、日本をはるかに超えている感想を拭うことはできない。
大舞台で「Society5.0」を訴えた日本
第4次産業革命は、人類が直面する現実である。第4次産業革命の取り組みとして「インダストリー4.0」がドイツで生まれ、日本でも大きな話題となったのは周知のとおりであるが、ドイツ以外でも、米国の「先進製造パートナーシップ」、中国の「中国製造2025」などが旗揚げされており、各国は産学官一体活動を行いながら、世界のリーダーとしてプレゼンス向上を狙っている。
このような世界各国の動向に対し、日本では多くの大手企業が、IoTへの対応を最経営課題として取り上げているが、残念ながら日本の国際社会でのプレゼンスは小さく、世界をリードすることは難しかった。しかし近年になって日本の動きにも大きな変化が出てきている。この一つが日本発「Society5.0(ソサエティ5.0)」であり、世界に向けて大きく発信されている。
まだ知名度の低い「ソサエティ5.0」をCeBITの大舞台で声高に訴えた。「インダストリー4.0」のお膝元ドイツで、メルケル首相の目前で、日本戦略「ソサエティ5.0」を安倍首相が開会のスピーチでぶち上げたのである。日本の(世界に向けたリーダー役としての)強い意志を感じる驚愕のスピーチであった。
以下に安倍首相のスピーチを抜粋する。
「森に出て狩りをした大昔。そこを人類史の第一章とすると、米や小麦で安定した食料を手にしたのが第二章。産業化の波が来て近代という名の第三章が幕が開け、通信とコンピュータの融合がまた新たな幕を開いて第四章。今私たちは、解決できなかった問題を解けるようになる第五章の開幕を目前にしている。ものが皆つながり、全てに技術が融合する時代、ソサエティ5.0の幕開けであります」と解説し、日本が世界をリードすることを宣言した。
周回遅れが露呈した日本勢
安倍首相は、スピーチのなかで「人類の歴史に大きな節目が訪れた」とする一方で、「健康問題や地球規模でのエネルギー問題などが、イノベーションによって解決されていく社会がソサエティ5.0である」と語り、「製造業は問題を解くインダストリーに変わる」と提言した。非常に素晴らしいスピーチであったが、CeBITでの日本企業の出展内容はどうだったのか?
本来であれば、CeBITに出展した日本を代表する大企業が、安倍首相のスピーチを裏付ける革新的なイノベーションを披露し、世界の注目を浴びるのが理想だったが、理想と現実に随分のギャップが存在することが露呈してしまった。
日本の大企業の出展は、現在販売中もしくは販売予定の在来商品が大半であり、イノベーションの魅力に欠ける展示が多かった。さらに辛口を言えば、IoTに関してはコンセプトのみの「絵空事」に終始した大企業もあり、一部の失望感が日本パビリオンに漂っていたのは、非常に残念なことである。
日本勢の総合評価は、世界のイノベーションから「周回遅れ」との酷評は免れない。ある大企業のブースでは、「おつきあいの出展だからこの程度で仕方ない」と発言していた幹部がいたが、情けない限りである。
なぜ周回遅れなのか? 「第3のプラットフォーム」への乗り遅れ
CeBIT2017でのキーワードから日本周回遅れの原因を検証してみたい。CeBITの謳い文句は「DigitalTransformation(DX).//d!comomy-nolimit」であった。
DigitalTransformation(DX、デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル変革のことであり、「デジタルトランスフォーメーションに無限のチャンス」が、CeBITでは前面に押し出されており、DXが国際的な関心事になっていることを痛感する。
ドイツのインダストリー4.0も、DXをベースに猛進しているが、日本企業のDXに対する認識遅れが、周回遅れを引き起こす原因の一つとなっている。
DXと称されるデジタル変革は、「第3のプラットフォーム」で実現する大革命であり、安倍首相の主張する「人類の歴史に大きな節目」こそ、「第3のプラットフォームへの移行の節目」と同意語である。
インターネットと通信の発展により、クラウドを活用したプラットフォームが急速に台頭してきたが、「第3のプラットフォーム」とは、この新しいプラットフォームのことである。モバイル・ソーシャル・ビッグデータ・クラウドの4つを要素技術と定義している。
「第3のプラットフォーム」の上では、人工知能やVRなど最新デジタル技術が利用できる「仮想空間」が構築できる。仮想空間の誕生により想像を超えるデジタル変革が実現し、ビジネスモデルの大変革が起きると言われている。
ITの歴史を振り返れば、1964年のIBMSystem/360から始まった「メインフレームと端末」が大企業でのITの始まりとなったが、これが「第1のプラットフォーム」と呼ばれている。1990年代から「第2のプラットフォーム」である「クライアント/サーバシステム」が誕生し、世界中のあらゆる企業に普及し、ITの世界に大変革が起きた。パソコンやWindowsが大企業のみならず、中小製造業・町工場に普及したのも、「第2のプラットフォーム」である。
日本の大手製造業は、「第2のプラットフォーム」から脱皮することが容易ではない。「第1のプラットフォーム」からIT化に取り組んだ大手製造業は、「第2のプラットフォーム」も積極的に取り込み、独自の非常に優秀なクローズドシステムを開発し、このシステムの上で事業活動が行われているので、オープンな「第3のプラットフォーム」への移行は簡単なことではなく、非常に危惧している日本の企業は数多く存在する。
破壊的イノベーションと最後に笑う勝者とは?
各企業がクラウドを軸とする「第3のプラットフォーム」に移行し、デジタル変革によって新しいビジネスモデルを創造することが、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の真髄であり、世界各国でこの流れが加速している。
金融界の「FinTech」や製造業界の「インダストリー4.0」そして話題の「IoT」のすべてが、DXの範疇であり、DXとは全業種・全業界に広がる未来像である。「第3のプラットフォーム」には企業規模や国境などには全く関係なく、人類の活動を根本から変えてしまう魔力を備えている。しかし、慎重な日本企業が危惧するように、DXのもたらす世界は必ずしも理想的なイノベーションとはいえない側面もあり、かなり暴力的に破壊を伴って進行する場合も少なくない。
たった数年で彗星のごとく登場した配車サービスUBERは、「第3のプラットフォーム」を活用した新ビジネスであり、破壊的イノベーションの代表であろう。スマホを使いタクシーよりも便利なUBERの新サービスは、瞬く間に世界中に普及した。しかし、その半面で従来ビジネスが破壊され、多くの反発を招いた。今後もUBERは、多くの反発や犠牲者を量産するだろう。そして、UBER自身も急激な成長に対応できず、自爆するかもしれないが、新しい「配車サービス」という事業は、世界中の未来社会の中で確実に定着するであろう。
スマホ活用の配車サービスは、明らかに問題解決型のサービスであり「ソサエティ5.0」の目指す世界の一つであるが、日本企業の持つ遺伝子には、破壊的イノベーションを避けようとする習性がある。日本企業の周回遅れが、破壊的イノベーションを緩和する緩衝期間であるとしたら、日本企業は最後に笑う勝者となるだろう。
破壊的イノベーションとは無縁の「中小製造業のインダストリー4.0」
農耕民族として企業の継続発展を続けてきた日本企業の遺伝子に、破壊的イノベーションは不向きであるが、米国を中心とするベンチャー企業が、破壊的イノベーションを仕掛けてくるのを避けることはできない。グローバル競争を強いられる「日本の大手製造業」は、好むと好まざるとにかかわらず、世界中から破壊的イノベーションの攻撃を受けることは避けられず、中小製造業にも大きな影響が及ぼされると思われる。
このような環境で、中小製造業が取るべき対応は、大手企業以上にデジタル変革を急速に推進することに尽きる。今までに投資した設備を大切にしながら、「第3のプラットフォーム」を活用した、受注窓口の拡大や、つながる工場・考える工場への変革が勝利への最短路線である。
過去数十年に亘りデジタル化を強く推進してきた中小製造業・町工場は数多く存在し、これが「第2のプラットフォーム」の遺産(レガシー)である。
CAD/CAMシステムや生産管理システムなど優れたソフトウェアが導入され、結果として、事務所には数多くのパソコンが設置され、事務所の社員全員がパソコンを操作して仕事をこなしている。加工機も、CNC付きマシンや自動機・ロボットなど、PLCやコンピュータが搭載された機械が多く設備され、事務所とネットワークでつながり、スケジュール化された自動運転システムも多く稼働している。
このような遺産(レガシー)が日本列島津々浦々に存在するのは、真に日本の底力である。遺産(レガシー)は負の遺産でなく財産である。この財産を生かし、「第3のプラットフォーム」を増築することが、中小製造業・町工場のデジタル変革の王道であり、この実現が世界に先駆ける中小製造業のインダストリー4.0の成功事例となるだろう。
クラウドへの偏見を捨て、活用しよう
少ないようで多いのが「クラウドに対する偏見」である。インダストリー4.0の実践には、この偏見はご法度である。
「クラウドは危険だし、スピードが遅いから当社はクラウドは使わない」と仰る中小企業経営者が意外と多いのも現実である。人工知能への認識も「あんなものは危ない。人間の敵になる存在だ」と仰る経営者もいる。このような認識は、テレビなどの報道によるものも多いと思われるが、捨てなければならない偏見である。
未来への扉を「開くか」「閉じるか」は、ちょっとした判断が分水嶺となる場合が多い。例えば、クラウドの活用をちょっとした判断で拒絶してしまったら、「第3のプラットフォーム」への入り口の扉を閉めてしまう結果となる。 使い慣れたWindowsパソコンとソフトだけでは、未来の扉が開かないことを「デジタルトランスフォーメーション」が示唆している。
「情報の5S化」から始めるインダストリー4.0
第3のプラットフォームを活用し、中小製造業がインダストリー4.0を具体的に進めるために、まず始めなければならないのは、「情報の5S化」である。
一般的に5Sとは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字のSをとったものであり、日本での5Sは、中小製造業・町工場の津々浦々まで徹底されており、世界中のお手本ともなっている。インダストリー4.0実現のために重要視すべきは、「5S」ではなく「情報の5S化」である。「情報の5S化」に視点を移すと日本の製造業は、世界から随分遅れていることに気がつくはずである。
一言で表現すれば、「情報がバラバラ」。今日までに「第2のプラットフォーム」に構築された、CAD/CAMシステムや生産管理システムに加え、PDFなどの電子情報やメール情報などさまざまな情報が、工場内に氾濫しているが、多くの情報がバラバラに存在し、時には担当者のパソコンの中で埋もれてしまっている。
これらの数々のレガシー情報を会社の財産として社有化し、情報を有効活用することが何よりも重要なことであり、「情報の5S化」なくしてデジタル変革を成し遂げることはできない。
情報の5S化を実現するalfaDOCK
株式会社アルファTKGが市場に提供する「alfaDOCK(アルファドック)」の導入で、「情報の5S化」を容易に実現することができる。「alfaDOCK」は、正真正銘の「第3のプラットフォーム」である。「情報の5S化」を即刻実現し、ビッグデータや人工知能など最新技術活用への道を切り開く最短路線である。
「第3のプラットフォーム」を使って、バラバラになっている各種情報をひも付けて、「情報の5S化」を実現するのが、クラウドを活用した最先端技術である。レガシーシステムとの強力なインテリジェントソケット機能により、図面や各種ドキュメントがひも付き「情報の5S化」が実現する。
「情報の5S化」が実現した企業では、スマホやパソコンを使って社員全員が情報を有効活用でき、「見える化工場」「つながる工場」「考える工場」「ペーパレス工場」への第一歩を歩み出している。 「alfaDOCK(アルファドック)」の活用による「情報の5S化」の実現が、中小製造業のデジタル変革の具体例であり、第3のプラットフォームを手にしたことで、世界中の最先端技術を導入できる企業体質への変革が、中小製造業のインダストリー4.0の具体的実践である。大手製造業よりも早く、第3のプラットフォームへのデジタル変革を実現することが、中小製造業の勝ち組へのパスポートであり、その道しるべは「情報の5S化」である。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。