■制御盤自動配線システムへの夢
これまでずっと制御盤の製造では、盤内の配線は技術者が手作業で行うのが当たり前だった。しかし近年のコンピュータやCAD/CAMの進化によって、少しずつ自動化の道が開き始めている。石川県小松市のライオンパワー(高瀬敬士朗代表取締役社長)は、制御盤づくりのなかでも複雑といわれる電線加工を自動化する全自動電線加工機「ST-SYSTEM」を開発。電線カットや被覆むき、端子圧着など、全自動のハーネス製作を可能にし、制御盤製造の新たな文化を切り開こうとしている。
全自動電線加工機SY-SYSTEMとは?
ライオンパワーは、工場の生産性向上を目的とした自動化ロボットシステムを手がける、1973年創業のエンジニアリング会社。
ST-SYSTEMは、制御盤用に専用設計したオリジナルの全自動電線加工機。一連の電線加工工程を行う中心的装置「HI-2000」と、0.3sq~2.0sqまでの電線を自動選択して装置本体へ送り込む電線セレクタ、JSTまたはニチフの1.25sq~2.0sq用の丸またはY端子を自動で選択し圧着ユニットへ供給する端子セレクタ、加工した電線を収納する収納機、ハーネスの両端にそれぞれ配線先が印字されたシールを貼り付ける配線情報システムで構成されている。
電線カットからマークチューブの印字と挿入、電線被覆むき、端子圧着まで、全自動でハーネス製作が可能。端子の圧着も、丸・Y端子・コネクタ端子・フェルール端子・オープンバレル端子などさまざまに対応している。
作業者は完成したハーネスを制御盤に配線するだけ。これまでハーネス製作に割いていた人員を制御盤製作に回すことができ、生産性は大幅アップ。製造コストの大幅削減、リードタイムの削減に効果を発揮する。
また機械による全自動製作のため、ハーネスの品質安定や深夜の無人運転など導入メリットも多く、その効果は80%のコストダウンに成功した例もあるという。
全自動電線加工機の開発に至る経緯
全自動電線加工機の開発を始めたのは約25年前。当時、火力発電所の制御盤製造を請け負い、尋常でない量のハーネス加工に非常に手こずっていたなかで、あまりに手間のかかる作業と、「技術を楽しむメーカー」というビジョンがありながら大手企業の下請け仕事ばかりの日々。クライアントにはロボットを使った自動化装置を納品しながら、自社の作業は手作業ばかり。その違和感と置かれた状況に発奮し、「制御盤を自動で製造するシステムを開発しよう!」と取り組み始めたのが始まりだ。
ハーネス製造の大きな壁 曲がる電線とひしゃげたチューブ
全自動機の開発を始めてみたが、始めから大きな壁に直面した。
ハーネスには識別用のマークチューブを付けなければならないが、ハーネスといっても電線はくねくねと曲がり、マークチューブはつぶれたりひしゃげて変形している状態。人間ならチューブの変形を補正しながら電線を挿入できるが、機械はそれが不可能だった。
その解決に向けてはじめに取り組んだのが、ひしゃげた筒を正円に近づけること。ボール盤の三つ爪チャックとチップ部品を載せるマウンターの部品傾き補正機を活用したところ、つぶれや変形を修正し、正円に近づけることに成功。マークチューブが正円になることでハーネスを通す成功率が格段に上がり、ハーネスの自動加工にもめどがたった。
このユニットは現在「チャックユニット」と呼ばれ、同社が特許権を取得している。
完成した半自動電線加工機。だが市場の評価はいまいち
こうして完成した最初の装置が、半自動の電線加工機「HI-1000」。配(はい)→HI、線(せん)→1000。そのものズバリ「配線」という名前が冠された。
完成したHI-1000を持って意気揚々と展示会に出展したが、実機を見たお客の反応はいまいち。「アイデアはいいけど、動きが遅い」「100%の成功率でなければ使えない」。制御盤製造業界ではハーネスに1本不良が出ると、何百、何千もある制御盤内の全てのハーネスをチェックしなければならず、HI-1000ではリスクがメリットを大幅に超えていた。
半自動機から全自動機への挑戦
販売からしばらくの間、半自動機が2セットしか売れていなかった当時、ある大阪の企業が「全自動機が欲しい」と注文。その係長いわく『ハーネスのマークチューブを入れることができ、端子も圧着できる装置はライオンパワーしかない』と技術力の高さを買ってのことだった。
HI-1000に改良を重ね、全自動機「HI-1001」テスト機を開発。中央部にあるチャックユニットが回転し、交差点を整理する警察官のように、後ろから来るマークチューブを受け取り、右に方向を変えてハーネスを通し、向きを変えて端子を圧着するという画期的な構成。そのアイデアは高く評価されたが、耐久性や精度が基準に達せずにテスト機止まりとなった。
しかし同社はこの経験を生かし、HI-1001販売機を完成。「ハーネスをまっすぐにしなければならない」という既存の考え方を捨て、わざとハーネスを曲げて加工する手法を採用。これにより試作機よりも25%のコンパクト化も達成し、大阪のS社に納入した。
全自動機HI-2000が完成 海外販売も検討中
HI-1001販売機をS社に納入した後もトラブルは続いた。「全自動だから常に動き続けてほしい」というクライアントと、「問題が起きれば一時停止する」という開発陣の意見の相違、ハーネスを早く送るための送りローラの溝が、逆にハーネスの表面を傷つけるといったミスなど。S社の協力を得て、改善を繰り返して1年半後、ついに全自動加工機「HI-2000」が完成した。
あるクライアントでは、これまで1週間かかっていた制御盤製造を2日間に短縮したことが評価され、最終的に社内賞『社長賞』を受賞。「現場の若いやつらは、ハーネスは自動でできるものと思っている」「昔は1本ずつ作っていたのにね」など高く評価され、その後、2号機、3号機の購入につながった。
2号機(HI-2000バージョン)は、molexやAMPといったコネクタ端子の圧着など対応端子の種類を大幅に増やし、さらにユーザー別の特注設計を容易にする形へと進化。この仕様がヒットし、その後毎年のように2~3台売れるヒット商品になっている。
また、毎年のマイナーチェンジで対応端子や電線種類を増やしており、最近では150㎜の渡り線も自動で製作可能になった。これも人気商品になり、装置購入済みのユーザーも改良して導入することもあるとのこと。
現在は、従来の半自動電線加工機と全自動加工機の次世代装置の開発も進行しており、外資系企業と提携しての海外販売も計画中とのことだ。